- 2026/08/17 07:10 掲載
ルールも研修も効果なし…なぜ社員は「職場で写真撮ってSNS投稿」の誘惑に負けるのか
サイバーセキュリティ領域で20年以上、企業の防御実装支援とアドバイザリに従事。金融・製造・公共などの現場で、セキュリティを「ルール」ではなく「運用」に落とし込む設計を手がける。ビジネス・ブレークスルー大学(BBT大学)経営学部 非常勤講師として「サイバーセキュリティ基礎と実践」を担当。Hardening Project オーガナイザ、OWASP Japan チャプターリーダー、兵庫県警サイバーセキュリティ対策アドバイザー。CISA、MBA。
BeReal・インスタで相次ぐ「悪意なき情報漏えい」
SNS投稿による情報漏えいが後を絶ちません。東京商工リサーチの調べでは、「個人スマホによるSNS投稿」で、社内や顧客情報などの漏えいが直近3年で「あった」と回答した企業が2.2%で、約50社に1社が経験しています。2026年春には、職場内で撮影された映像がBeRealやInstagramなどのSNSへ拡散し、機密情報が少なからず写り込んでいたことが話題になりました。特にこれがハイリスクな職場、すなわち金融、メディア、医療業界の話だったことに衝撃が走ったのは記憶に新しいと思います。
これらを、従来のアルバイトの現場で起きてきた「バイトテロ」と同じ悪ふざけとして扱って良いのでしょうか。
人とつながり、話題を共有しようとすることは悪いことではありません。つまり、ここでせめぎ合っているのは善と悪ではなく、個人に芽生えた「プラスの意図」と「機密情報の保護」の対立です。
しかも、リスクに晒されるのは会社の情報だけではありません。問題行動がバズると、当人の顔や名前なども拡散され、デジタルタトゥーとして現在そして将来の安全にも影響します。悪意がなく、知識もあり、なんだったら世代も選ばない。この問題対策の本質を探ってみましょう。
なぜSNSのルールや研修に「効き目がない」のか
BeRealは、予告のない時刻に通知を鳴らし、「友人の近況を見るには、いますぐ、2分以内にあなたも投稿を」と迫ります。前面と背面のカメラで、本人と周囲を同時に写す仕様です。自分が投稿するまで友人の投稿は見られないし、反応の早さも相手に表示される。自分の投稿も、友人たちに同じ圧力を与えていく。「通知が来たら、その場で撮る」という行動の面白さを体験させ、毎日反復させ、習慣として定着させてきた設計です。この設計が「今すぐ撮って共有したい」という誘惑を強くするのです。
そこで、多くの企業がまず手を打つのは「業務時間中のSNSを禁止する」「投稿の公開範囲を絞らせる」「何が写り込んでいるか確認する」などの注意喚起やルールづくりでしょう。特定のアプリの利用を業務中は控えよ、当然です。「業務情報を投稿しない」「撮影前に背景を確認する」と教え、理解度テストをする。禁止事項も、違反への罰則も必要で、間違ってはいません。
否定はしませんが、これがあまり効いていません。内容の精査や道具選びより先に、本人の「近況を共有したい」という意図と、その情報が抱えるリスクとが、かみ合っていないのです。この文脈のずれを見分ける視点を教えこむことはとても難しい。
LINEも、写真アルバムの共有も、AirDropも地続きで、内容次第で相手を変える、という線は道具では引けません。道具の禁止も意味をなさないわけです。
職場写真を送る人は、写真に何が写り込んでいるかについては、ただ風景の一部、あるいは自分の近況の飾りとして考えています。ここで、写り込んでしまった情報が公開情報かあるいは機密情報なのかということまで考えが及ばないのでしょう。
共有することが最優先ですから、これまで学校の教室やバイト先でやってきたことと同じ型で動きます。「会社の機密情報を守れ」という、本人には他人ごとの枠で語られることはここでは想起されません。
そういうわけで、企業としては、「べからず集」を積み上げても、効かないのです。それに、研修のシチュエーションとして会議室で説明を聞く場面と、活気ある勤務中に通知が鳴って仲間への共有が促される場面では空気が違う。
学んだことは、その空気の違いを自動では越えてくれません。ルールは「知らせる」ところまで、です。正しい判断を呼び覚ます手がかりを、別のところに用意しておく必要があります。
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