- 2026/09/11 06:40 掲載
柯隆氏が語る習近平「2つの大失策」…中国を内憂外患に追い込む“国家主導”の限界(2/3)
中国経済を襲う「失業・未婚・人口減」の悪循環
不動産市場には、もう1つ重要な問題があります。価格が下がっても需要が回復しないことです。マンション価格が下がれば、普通なら若者にとって住宅を買いやすくなるはずです。しかし、中国では価格が下がっても住宅需要がなかなか戻りません。
背景には、不動産市場だけでは説明できない雇用問題があります。
大きな転換点になったのが、コロナ禍の厳しい都市封鎖でした。人の移動が止まり、店舗やサービス業の営業も制限されました。大企業以上に打撃を受けたのが、資金余力の乏しい中小零細企業です。
企業が事業を続けられなくなれば、雇用が失われます。若者の雇用が不安定になれば、結婚をためらい、住宅購入も先送りします。住宅需要が落ち込めば不動産市場はさらに冷え込み、デベロッパーや地方政府の収入も減ります。
雇用不安が住宅需要を冷やし、不動産不況が再び雇用を悪化させる。この悪循環が、中国経済の需要回復を難しくしています。
そこへ人口減少が重なります。
過去30~40年間の中国経済を支えた要因の1つが「人口ボーナス」でした。働く人が多く、消費者も増える。企業は商品を作れば売れ、住宅を造れば買い手が現れました。
現在は、少子高齢化で働き手が減り、社会保障の負担も重くなる「人口オーナス」に転じています。その背景にあるのが一人っ子政策です。
一人っ子政策が始まった1970年代末の中国は、現在とは経済環境がまったく違いました。
当時は食糧事情が厳しく、配給制度も残っていました。お金だけでは米や小麦粉などを自由に買えず、食糧チケットが必要でした。
雇用問題もありました。毛沢東時代には、都市部の多くの若者を農村へ送り出す「下放」が行われました。1970年代末になると彼らは相次いで都市へ戻りましたが、当時は経済が十分に発展しておらず、仕事が足りませんでした。
食糧不足と雇用不足を前に、人口増加を抑えようとした当時の指導部の判断には一定の合理性がありました。ただ、夫婦2人に対して子どもを1人にまで制限した影響は大きすぎた。
人口政策は後から修正するのが極めて難しい政策です。一人っ子政策の撤回も遅すぎました。
出生を抑えることはできても、若い世代が減った後に政府が出産を奨励したからといって、人口動態が元に戻るわけではありません。一度大きく変わると、元の状態に戻るまで50~100年かかるとも言われています。
一人っ子政策がもたらした人口問題は、習近平政権が生み出したものではありません。しかし、人口減少や不動産不況を抱える中で、大企業への締め付けや、政府による経済への強い介入といった現在の政策を続ければ、中国経済はさらに厳しくなるとみています。
強国化を急ぎすぎた習近平政権の誤算
習近平政権には、大きく2つの政策判断の誤りがありました。1つ目は対外政策です。習近平氏が中国共産党総書記に就任した2012年ごろ、私自身、新政権には期待していました。
当時、米コロンビア大学のフォーラムで講演した際、会場にいた中国共産党機関紙「人民日報」のニューヨーク特派員から「習近平政権をどう見るか」と質問され、「若い指導者が登場するので中国の改革は加速するだろう」と答えました。
実際に始まったのは、期待とは逆の方向でした。
政治は強権化し、対外的には「強国」を前面に出すようになりました。経済政策で象徴的だったのが「中国製造2025」(2025年までに中国を世界有数の製造強国にすることを目指す国家戦略)です。
中国が製造業を高度化し、先端産業を育成すること自体は当然です。問題は、それをあまりにも声高に打ち出したことでした。
トランプ氏は「米国を再び偉大にする」と掲げて大統領になりました。その米国に対して、中国が製造強国を目指すと大々的に宣言すれば、警戒を強めるのは当然です。
その後、米国は中国の先端技術への規制を強め、ファーウェイなどへの制裁を進めました。中国にとって大きな制約となったのが、半導体や製造装置へのアクセスです。
中国企業にはAIモデルを開発する力があっても、計算能力を高めるには高性能な半導体チップが欠かせません。さらに、半導体の自国生産を進めるにも、高度な製造装置が必要です。
「中国製造2025」という構想を持つことと、それを大々的に宣言することは別です。もう10年、静かに技術力とサプライチェーンを積み上げていれば、米国が規制に動いたときの打撃はもっと小さかった可能性があります。
習近平政権は、もっと時間を稼ぐべきでした。「10年早かった」というのが私の評価です。
2つ目の失策が、コロナ禍の都市封鎖です。
感染症対策が必要だったことは言うまでもありません。しかし、中国の統制は極めて厳しく、人の移動だけでなく企業活動まで止めました。その打撃は、都市封鎖が解除された時点で終わったわけではありません。
企業が廃業すれば雇用は簡単には戻りません。失業や所得不安が続けば、若者は結婚や住宅購入を先送りし、家計は消費を抑えます。
ゼロコロナ政策は短期的なGDPだけでなく、その後の需要にも傷を残しました。
習近平政権は、国内では経済の活力を自ら弱め、国外では米国との摩擦を強めました。国内と国外の両面で政策リスクを高めた。その結果が、現在の「内憂外患」です。
この2つの判断には共通点があります。それは国家が強い権力を握り、経済や社会を広くコントロールしようとする発想です。 【次ページ】EV・ロボットで企業乱立…国家主導の産業育成が招く過当競争
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