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  • 2010/12/01

【高橋秀実氏インタビュー】ノンフィクション作家は、どのようにメモを活かしているか (2/2)

『おすもうさん』著者 高橋秀実氏インタビュー

メディアの建前はちょっとおかしい

──取材の波が引いたニュースの現場を訪ねていった『からくり民主主義』(草思社刊の単行本の初版は2002年)という本の中に、沖縄の基地問題を扱ったルポがありますが。住民は、基地問題だけを考えて生きているわけではないというのが分かって、メディアの熱気との落差が面白かったです。

 高橋氏■当たり前のことですが、「基地はどうあるべきか」という問題より「どう暮らしていくか?」ということのほうが切実です。誰でもそうだと思うんですよ。「基地についてどう思いますか?」と聞かれたら、「反対です」と答えるしかないんでしょうけど。本にも書きましたが、たまたま辺野古の反対運動の小屋で『NEWS23』の取材とかちあったことがあったんです。わたしが前日まで取材をしていたときには、基地に反対の運動をされていた人たちは普通の格好をされているのに、筑紫さんが来るというと、女性はみんな化粧されるんですよ。筑紫さんだと気合が入るんですよね。「今日、筑紫さんが来るから、あんたそこ場所あけて」と言われたり、資料を用意したりして。ずいぶん扱いが違うなぁと(笑)。それが、筑紫さんが急に来られなくなり、代わりに草野さんが来られたら、皆さん「な~んだ」とクールダウンしてしまって、「残念でしたね」とか隅っこで話していたら、「そこ、静かにして」と草野さんに注意されたという場面を書いたんですよ。

 なにが言いたかったかというと、基地問題があるから筑紫さんに会える。反対運動の方たちにとって、切実だったのは「筑紫さんに会える」ということだったんですよね。わたしとしては、飾りのない切実な話を聞きたいと思っていったわけだから、その日切実だったのは、そこだったということですよね。ふだんから基地というよりも「長寿を目指してがんばろう」とおっしゃっていましたが。

 その反対小屋の近くに食べ物屋は一軒しかなくて、マスコミや視察の人々はみんなそこに行くしかないんです。女主人は昔ひめゆり部隊の人だったということで食べながらその話も聞けるというので、観光バスが止まったりしてえらく繁盛している。基地反対とひめゆりのセットメニューみたいな感じで、これも暮らしの知恵ですね。

──普天間の基地問題を考えるときに、ずっと疑問だったのは、なんであんなに基地に接近して学校や住宅があるのか。高橋さんのルポを読むと、基地があるために周辺の地価が安く、後から住宅が建ったりしたという。この構図は、工場や養豚所の周りにマンションが建ち、住民が騒音や悪臭問題を訴えるのに似ていると書かれていましたよね。しかし、そういうことをマスコミは伝えない。

 高橋氏■それを言うと、まとまりがつかなくなるなんでしょうけど。今だけ見ると、町の中にどんと基地が居座っている、町の弊害になってきたというふうに見えるんですが、基地ができた当時の新聞を読むと、繁栄するからと歓迎ムードで、基地を中心にして町ができてきているんですよね。

 基地に隣接している普天間小学校があったんですが、そこで子供たちに、ヘリの音についてどう思うかと聞いたら、うれしいと答えるんですよ、授業が中断するから。取材したときに子供たちの間で流行っていたのが、ヘリの機種当て。音を聴いただけで「これは、コブラ」と言い当てる子がヒーローなんです。子供って、そうだろうなと思うんです。授業が中断したからって、悲しむ子供は日本に何人くらいいるんだろうと。それをありのままに書くと、これは教育的な観点に沿ったものじゃなくなるんですよね。

 だから基地の問題も『おすもうさん』に似ていて、基本は「気がついたらここにいた」なんですよ。米軍相手の商売ができるからと引っ越してきて、町も栄えてよかったと思っていたのに、ある日「基地の騒音でわれわれは苦しんでいる」という声が聞こえてくるわけですよ。その瞬間「なんでここに基地はあるんだ」となる。それまでの歴史が吹っ飛んでしまう。

 突然うるさくなるというのは、辺野古の海にしてもそうで。あそこは注目されるまでは空き缶とかゴロゴロあって、廃水の問題もあり、そんなにきれいじゃなかったんですよね。でも、基地がくるというので「美(ちゅ)ら海を守れ」となって、お客さんを迎え入れるようにして、急にきれいにするようになるんです。

 なんでそうなるのかと思うんですけど、やっぱり「気がついたらここにいた」という感覚なんでしょうね。沖縄に限らず、私たちは生まれようとして生まれてきたわけじゃないんで、「気がついたらここにいた」というのが基本的な世界認識なんですよ。私だってそうですし(笑)。それをベースにしているから、ある日、うるさいと言われると、「基地によって、生活が疎外されている」という話になりがちなんですよね。

──確かに、わたしは伊丹空港の近くで育ったんですが、騒音訴訟の住民運動が起こってきて「ああ、うるさい」と意識するようなった気がしますね。環境対策として防音工事とクーラーの設置がされるようになったんですけど、なんだかうれしかった記憶があります。

 高橋氏■前にトラウマについて本を書いていたときのことを思いだしたんですけど、トラウマを抱えた人たちに共通する最大の問題は「治ったら、どうしょう?」だったんですよね。目的があって、モチベーションあげてというビジネスモデルもそうなんですが、解決してしまったらどうしようという。問題に依存してしまうというか、すべて問題があるからということにしてきた。解決してしまったら、別の問題が姿を現しかねないというか。

 沖縄にしても、基地の賛成、反対以前に何代も前から仲が悪かったりするんですよね。家系図屋さんという商売が繁盛するくらい、昔の家系を重んじる人たちで、代々いがみあってきたのが、基地があることで収まっていたりする。逆に基地問題が片付いたら、そっちが再燃しかねないところもあって。そういうのは、みなさん取材にいかれて感じられることなんだと思うんですけど、それを書くと「平和の尊さ」から離れてしまうから、そこは触れないようにしている。

──現場にいたら見えるのに、なぜか申し合わせたかのように見えてないフリをする。そのおかしさを、軟弱な目線でしっかり書きとめるのが高橋さんの強さなんでしょう。

 高橋氏■う―ん、軟弱なのかなぁ(笑)。


(取材・構成:朝山実)

●高橋秀実(たかはし・ひでみね)
1961年、横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。ノンフィクション作家。著書に『ゴングまであと30秒』(草思社/『平成兵法心持。』と改題して中公文庫)、『にせニッポン人探訪記』(草思社)、『からくり民主主義』(草思社/新潮文庫)、『トラウマの国』(新潮社/『トラウマの国ニッポン』と改題して新潮文庫)、『センチメンタルダイエット』(アスペクト/『やせれば美人』と改題して新潮文庫)、『はい、泳げません』(新潮社/新潮文庫)、『おすもうさん』(草思社)など。

※なお、高橋氏の「高」の字は正しくは「はしご高」。ただし、ウェブ上で表示されない場合があるので、「高」の字を使用しております。

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