• 2011/02/08 掲載

【宇野常寛氏インタビュー】ネット登場以降の変化に批評はどう応じるのか――2010年カルチャーを通じて考える

『PRELUDE 2011』発行人 宇野常寛氏インタビュー

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雑誌『サイゾー』の人気連載「月刊カルチャー時評」。その連載に新規コンテンツも加えて、2010年末に刊行されたのが『PRELUDE 2011』だ。映画、漫画、ドラマ、アニメ、小説などの2010年カルチャーについて、多くの若手の論者が語り尽くした本書。この『PRELUDE 2011』を仕掛けた、批評誌〈PLANETS〉編集長・宇野常寛氏にその内容を中心にお話を伺った。

文化に文化批評が追いついていない

――『PRELUDE 2011』は、現在も『サイゾー』で連載している「月刊カルチャー時評」がベースになっています。『サイゾー』でこの連載を始められた経緯を教えて下さい。

 宇野常寛(以下、宇野氏)■もともと、僕は創刊号から買っていたくらい『サイゾー』が好きで、仕事ではなく趣味で物書きをやっていたころから『サイゾー』編集部には出入りしていたんです。(初代編集長の)小林弘人さんは僕の尊敬する編集者の1人で、あの人は雑誌の時代が終わりかけていたあの頃、どうすれば既存のシステムの中で面白いものができるかを模索していたと思うんです。ちょっとした素人臭さはあったけど、むしろそこが魅力でしたね。

photo

『PRELUDE 2011』

 それから『サイゾー』で僕も書かせてもらっていたんですが、2010年に何か新しいことをやろうということになって、その際に時評をちゃんとやったらいいんじゃないかと思ったんです。僕の仕事の全体的なモチーフでもあるのですが、今の文化批評というのは現実に追いついてないと思うんです。ジャンルを問わず優れたポップカルチャーがこの国にたくさん生まれているのに、文化に文化批評が追いついていない。古い文化の担い手たちが、新しいものに対して、こんなものは文学じゃない、あるいは映画じゃない、と切って捨てる状況に貧しさを感じていました。そこで個人のプレイヤーとしてその立場から発言するだけではなくて、「場」を作ろうと思ったんです。

――日本の文化批評の現状に危機感を抱いていたわけですね。あの連載で行われていて、『PRELUDE 2011』にも収録されているクロスレビューはかなりシビアに映画や小説、漫画などを採点していますよね。その狙いはどのあたりにあるのでしょうか。

 宇野氏■あの『サイゾー』のクロスレビューは、映画なり漫画なりの一作品に対して、それぞれ3人の評者が10点満点中の何点という形で得点をつけています。実は以前にこのようなクロスレビューで映画に絞った企画を某誌に提案したことがありました。そうしたら、「本当にいい作品だけを取り上げるならやりましょうか」と言われてしまいました。要は広告の関係があるので暗に7点以下を付けるなと言われたんですね。そんなぬるいことではダメだと思ったので、『サイゾー』だったらシビアな点数をつけることもやらせてくれるだろうと。それで始めることができました。そこは『サイゾー』という雑誌の長所だと思います。もちろん普段僕らが作っている批評誌〈PLANETS〉でやれば済む話なのですが、『サイゾー』の読者層はまた違うので、男性誌の切り口で、いつもより広い読者を相手にできるのが魅力ですね。

――そのクロスレビューをしている評者の人たちはさまざまなジャンルから参加されていますが、その人選はどういった基準でされているのですか?

 宇野氏■僕と一緒に批評誌〈PLANETS〉を作っている仲間も多いですけど、一方でこれを機会に一緒に仕事をしてみたいと思っていた人たちにも声をかけています。江南亜美子さんや森田真功さんや石岡良治さんですね。彼らに限らず、その年代には実力は持っているのに、ある種の業界サークルからはじかれて出てこられなかった人がいっぱいるんです。

 インターネット以降、新しいカルチャーがどんどん台頭していて、そのインターネット登場をひとまず境界線としてビフォーとアフターとに分けた時に、アフターのものをビフォーのロジックではなかなか説明できないんですよ。そのアフターのもの――『PRELUDE 2011』に載っているものでいえば、映画『告白』やAKB48――をちゃんと批評するのが大切だと思っています。もちろん僕が声かけた人たちは僕の主張や考え方に賛成している人ばかりではない。例えば、作家・綿谷りさの評価1つを見ても、僕とほかの人たちの評価はかなりズレていますね。しかし、個々の作品の評価は異なっても、僕の考えている面白いメディアのあり方については多少なりとも共有してもらっているように思えます。

――意見が合うか合わないかではなく、ネット登場以降の文化的変化=アフターに対応できているかどうかが重要なわけですね。

 宇野氏■今はシーンの拡散を前提に考えなければいけないんです。ポップカルチャーの最先端を都市の比喩で表現すると銀座から新宿へ、そして渋谷へという流れがあるかと思います。そして、大きく言ってしまえば、渋谷から先は秋葉原に移ったと考える人間と、下北沢のほうへ移ったのだと見ている人間に分かれているんじゃないかと僕は見ています。でも、その2つの考え方はどっちも間違いで、もはやシーンは特定の都市が代表できなくなったというのが僕の考えです。強いて言えば郊外やネットという匿名的な空間がシーンを代表している。それがアフターということなんです。確かに日本のポップカルチャーが80年代に爆発的に進化したことは間違いないわけですが、その頃の記憶を追いかけている人たちがアフターのことをまったくわからずに駄目なものと切り捨ててしまっているというすごく悲しい現実がある。その空白を埋めていきたいんです。

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