• 2011/02/08 掲載

【宇野常寛氏インタビュー】ネット登場以降の変化に批評はどう応じるのか――2010年カルチャーを通じて考える(2/2)

『PRELUDE 2011』発行人 宇野常寛氏インタビュー

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AKB48も「SDガンダム三国伝」も論じていく

――『PRELUDE 2011』は、『サイゾー』で連載されていたものだけではなく、大幅にボリュームアップされています。その中で宇野さんが2010年の注目すべきものとして、AKB48や映画『告白』、展示&ライブペイント企画「カオス*ラウンジ」などについて触れた企画もありますが、それらを取り上げた理由を教えて下さい。

 宇野氏■この時代でなければ出てこなかったもの、かつ優れた表現ということですね。例えばAKB48を、ビフォーの人たちは単にマーケットの問題としてしか考えない。そこに文化批評の貧しさがあります。AKB48って本当は想像力の問題として捉えたほうがいいと思うんです。日本でキャラクター文化の最先端になっているのは間違いなくAKB48ですよ。市場にうずまく無意識と欲望が実現している多様性について、もっと敏感であるべきだと思う。

――変わったところでは、「SDガンダム三国伝」を取り上げられていますね。AKB48と「SDガンダム三国伝」について宇野さんは集英社の『レンザブロー』での連載でも詳しく論じていらっしゃいますし、注目をなさっているようですが。

 宇野氏■1つのキャラクターの図像であれだけ複雑な文脈が同居しているものって、世界中探しても現代日本にしかないと思うんです。そもそも、ロボットってもともと人工知能の夢を追求するために作られたのに、ガンダムはそれをわざわざ兵器に戻している。そういうもともと変だったものにさらに三国志のデータベースを組み合わせて、そしてそれがガンダム自体の本歌取りにもなっている。

 これ、別にバンダイはコンセプチュアルアート的にすごいものを作ろうとしたわけじゃないと思うんですね。おそらくは男子小学生が好きなものを組み合わせて作り上げたものだと見ています。でも、その男子小学生の欲望=市場の無意識が高度な作品を生み出しているわけです。下手な作家の自意識を市場の自意識が圧倒しちゃっているんですよ。その象徴を僕はこの「SDガンダム三国伝」に感じます。

 今のガンダムって富野由悠季という強力な作家を擁しながらも、アニメ本編より宇宙世紀やモビルスーツといった匿名的データベースの方が強くなっています。その行きついた先が「SDガンダム三国伝」。これは性的なもの=モビルスーツとデータベースの組み合わせなんです。じゃあなぜ性的なものはデータベースに駆動されるのかというところが、今後のキャラクター文化批評のポイントになっていくんじゃないでしょうか。

――2010年の文化時評を網羅する形で作られた『PRELUDE 2011』をリリースされたわけですが、2011年はどのように活動を展開されていく予定ですか?

 宇野氏■やはり批評家・東浩紀さんの『思想地図β』の成功にすごく勇気づけられました。例えば小沢一郎の政治とカネの問題とかをまったくクリティカルに思えないけど、『思想地図β』の内容には敏感に反応するような層が、とくにネットを中心に広がっています。それは世代で区切られているというよりは頭の柔らかい人と固い人の差でしょうね。こういった既存の言論に物足りない、潜在的な批評の読者がまだいることを『思想地図β』は証明してくれました。同じようなことは文化にも言えるんじゃないかと思っています。まだまだ広く深くやれる、そこを追及していきたいです。

 『サイゾー』の連載に関しては編集部に駄目だと言われるまではこのまま行きたいですね。もちろん選者はもっと増やしたいし、ジャンルとしては音楽を強化していきたいと思っています。夏に出るプラネッツ8号の方もリニューアルを考えていて、文化について考えている人は避けて通れない、この1冊で1年の文化状況を見渡せるようなものを作りたいです。

――最後に、宇野さん個人としての今後のご予定を教えて下さい。

 宇野氏■2011年春には著書『リトル・ピープルの時代(仮)』が出る予定です。村上春樹の話から入るんですが、そこからいろいろな固有名詞をジャンプしていきながら論を展開する内容となっています。批評ってもっと読まれる努力をするべきだと思うんですね。批評というカテゴライズ不可なものだからこそできるものを書こうとしました。その一方で、批評だからこそできることを追求した、ちょっと変わった本になっていると思います。あとは、『新潮』で連載していた『母性のディストピア(仮)』も年内には発売する予定です。それと〈PLANETS〉8号が今年2011年の8月に出る予定で、これもかなりインパクトのあるものになるはずなので、ご期待ください!

取材・構成:大熊信

●宇野常寛(うの・つねひろ)
1978年生まれ。批評家。批評誌〈PLANETS〉編集長。文学、サブカルチャー、コミュニケーション論など幅広く評論活動を行う。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、共著に更科修一郎との対談集『批評のジェノサイズ』(サイゾー)などがある。

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