• 2011/05/25 掲載

液状化と浦安――埋立地やディズニーリゾートを通じて地域の歴史を捉える

『ゼロ年代の論点 ウェブ・郊外・カルチャー』著者 円堂都司昭氏 論考

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東日本大震災においては液状化などの被害が出た浦安市。その状況について、浦安在住で著書『ゼロ年代の論点 ウェブ・郊外・カルチャー』(ソフトバンク新書)が話題の円堂都司昭氏に、地域の歴史を振り返りながら論じていただいた。

埋立地の被害

 2011年3月11日午後2時46分、あの大地震が発生した時に私は、千葉県浦安市の自室にいた。当地は震度5強。我が家では大きな家具については耐震対策で天井との間につっぱり棒を入れていたせいもあり、転倒などの被害は出ていない。ただ、床に積み上げて塔のようになっていた本が崩れたり、棚の上に並べていた冊子類が落下したりはした。揺れがおさまった後、そうしてできた紙類の山の一番上にのっていたものが視野に入った。浦安市の防災ハザードマップだった。嘘みたいな話だが、あることも忘れていたハザードマップが、地震のおかげで上から降ってきたのである。

 東日本大震災の発生後にしばらくして報道された通り、死者が出たわけではなく東北地方ほど悲惨なものではないが、浦安市でも被害はみられた。それは水分が多く軟弱な地盤が強く揺さぶられた結果、泥水の噴出や地面の沈下が起こり、家屋などが傾いたというものだった。大地震に伴いそのような液状化現象が発生することは、浦安市の想定マップでも警告されていた。しかし、事前には市の全域が液状化すると予測されていた(阪神・淡路大震災と同規模のマグニチュード7.3、震度6弱~6強を想定)のに対し、今回、実際に被害が出たのは全域ではなかった。私が住んでいるのは、たまたま、液状化を免れた地域だった。

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『ゼロ年代の論点』

 千葉県の東京湾岸で旧江戸川をはさんで東京都と隣接する位置にあるのが、浦安市である。東京ディズニーランド、東京ディズニーシーというテーマパーク、ショッピングモールのイクスピアリ、そして周辺のホテル群から構成される東京ディズニーリゾートがある場所と説明したほうが、全国的にはわかりやすいだろう。

 浦安の住宅地は、河口付近の漁師町として旧くから集落があった元町、1960年代以降に行われた埋立工事のうち第1次で生まれた中町、第2次で加わった新町の主に3地域に分類される。内陸側の東京メトロ東西線浦安駅付近が元町、海寄りを走るJR京葉線の舞浜駅、新浦安駅を最寄りとするのが中町・新町であり、東京ディズニーリゾートも埋立地に存在する。そのうち、今度の震災で広範囲に液状化現象が発生したのは中町・新町であり、元町では地盤の被害はほとんどみられなかった(中町にある舞浜の京葉ガスの地震計は震度6弱を記録したという)。

 元町の地盤も軟弱だとはいえ、埋立ではなく旧くからあった土地だったことが中町・新町との明暗を分けたと考えられる。だが、震度がもっと大きければ、想定通りに市の全域が液状化した可能性は高い。また、舞浜駅のロータリーや近くの駐車場や道路、駅反対側の住宅街に被害が広がり、周辺一帯の地盤の損壊が激しかったにもかかわらず、東京ディズニーリゾート内は大きな被害はなかった。この敷地内では、締め固めた砂の柱を一定間隔で地中に造成する地盤改良対策(サンドコンパクションパイル工法)を事前に独自で行っていたため、液状化を免れたのだという。

 東京ディズニーリゾートにほとんど被害がなかったことはともかく、元町より中町・新町の被害のほうがはるかに大きかったというのは、市の行政にとっても住民にとっても予想外の出来事だった。なぜなら、大地震が起きた場合、元町のほうが被害は甚大になるだろうと懸念されていたからだ。

 元町は街が形成された時期が早かったぶん、住宅が密集していて狭い路地も多い。また、建て替えられないまま、かなり老朽化した木造家屋も散見される。浜岡賢次のギャグマンガ『浦安鉄筋家族』(1993年スタート。続編『元祖!浦安鉄筋家族』に続き、現在も『毎度!浦安鉄筋家族』として継続中)には、昭和を思わせる住宅街が描かれ、古びて崩れかけた家屋も登場する。これは誇張された表現ではあるものの、実際の元町の家並みをかなり反映した絵になっている。

 元町を歩いてみればわかるが、狭い路地のすぐわきで老朽化した木造家屋が歪んだ形状のまま建っているところが何カ所かある。もし地震でそれらの家屋が倒壊すれば路地はふさがれてしまい、逃げ場に困るだろう。私も含め地元の住民はそのような心配を話していたし、元町の住宅密集地で火災が発生したら広範囲に延焼する可能性がある。

 しかし、午後2時46分という時刻が幸いしたのか、大地震発生時に元町で火事は発生しなかった。また、この地域でもごく一部で寺社や住宅の瓦が落ちたり、ビルの壁や土台の損傷といったことはみられたが、平常時からすでに傾いていた老朽家屋が倒れることはなかった。元町の被害は「わずか」と呼べる程度におさまったのである。

 一方、埋立地であるがゆえに計画的に土地が開発され、道路も幅が広く景観も整えられた中町・新町のほうが、結果的に被害は大きくなった。災害は、現実になってみなければわからないものだ。

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