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- 2016/02/24 掲載
前野 隆司 慶応義塾大学教授が解説 「幸せとイノベーションのメカニズムは似ている」
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イノベーションを起こせるアイデアの必須条件とは何か?
しかし、研究を進めていくうちに、同氏が興味を持つ対象は人間の心や認知心理学・脳科学などの領域に移っていく。現在は理系と文系を超えた、慶応義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科にて教鞭をとっている。
前野氏が興味をもっているのは「イノベーションと幸せ」だ。企業内イノベーターの異業種コミュニティ「InnovationCafe」に登壇した前野氏は、幸せにつながるビジネスとイノベーションについて解き明かした。
「(デザインファームの)『Ziba Design』のディレクター 濱口 秀司氏と対談したときのこと。濱口氏によれば、イノベーションを起こせるアイデアの必須条件は3つあるそうだ。1つは、見たことも聞いたこともないこと。2つ目は、実現可能であること。そして3つ目が物議を醸すこと(賛否両論あること)だ」(前野氏)
もともとイノベーションの語源はラテン語で「新しい」を意味する形容詞「novus」の女性単数主格形「nova」(new)から来ている。当然のことだが、新しいことは、見たことも聞いたこともないことだ。2つ目は、オープンイノベーションを含めて、多くの人の技術をうまく組み合わせながら実現できること。そして最後に「物議をかもすこと」が破壊的イノベーションを生み出すために非常に重要だという。
「賛否両論がなく、多数決でアイデアを決めると、イノベーションは生まれない。何か新しいアイデアをつくるときは、多様なチームの成果の一部がイノベーティブなものになるからだ。ただし、パフォーマンスの平均値は、専門性の高い均一な集団のほうが優れている」(前野氏)
たとえばアップルは、Macの薄い筐体をアルミ金属の削り出しでつくった。通常、筐体は板金プレスや射出成型でつくるのが当然で、削り出しによる製作は異例のことだった。
「削り出しは大量生産に向かない。アップルがプロダクトを作るときに、もし機械工学出身者だけの知恵であれば、削り出しで薄くするという発想は出なかっただろう。そこで専門家だけでなく、美大など多様な人の意見も必要になる。また女性が多いほど、協創は効果的に働くという研究成果もある。つまりカリスマでなくても、普通の人が賛否両論の意見を出し合えば、イノベーションは生まれる」(前野氏)
ただし、賛否両論の意見から本当に素晴らしいアイデアを見つけ出すことは決して容易ではない。質の良いアイデアと質の悪いアイデアの峻別は難しいためだ。そのため、とにかくリーン・スタートアップで市場の反応をみながら、改良していくことが求められる。
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