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  • 2017/03/28 掲載

日立製作所は蓄電池と鉄道の未来を切り拓けるのか?

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蓄電池、というと、電気自動車やハイブリッド車をイメージしがちだが、鉄道でも活用されている。近年、どの産業においても、エネルギー資源の枯渇や高騰による環境への配慮、少子化による人手不足への対応、地震や台風などの災害からの早期復帰が課題となっている。これは鉄道でも言える事であり、蓄電池の活用はその解決策になるかもしれない。日立製作所 鉄道ビジネスユニット 車両システム部 主任技師 徳山和男氏が、鉄道システムにおける蓄電池の可能性を解説する。

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。

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日立製作所は蓄電池と鉄道の未来を切り拓けるのか?
(出典:JR九州 プレスリリース)



鉄道システムで蓄電池が注目される理由

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 蓄電池技術を鉄道システムに応用しようという動きには、そもそも鉄道システムがエコシステム、省エネルギーという観点で注目を浴びているという背景がある。

 まず、鉄道システムの基本的な仕組みの話になるが、鉄道システムには電化方式と非電化方式の2つがある。日本では電化方式が60%で、40%くらいが非電化方式だという。

 電化方式の場合、発電所から変電所を介して車両に電力が供給される。電力は架線を流れており、電車は車両上部のパンタグラフで架線と接しており、架線から電気を給電し走ることができる。

 エネルギーフローの観点で見たとき、重要なポイントとなるのは、電車は架線から電力を給電するということだ。架線には自車両の他にも、数多くの車両がつながっている。電車がブレーキをかけると、モーターから発電された電力がパンタグラフを通り架線に戻る。このとき、電車からブレーキ時に発電されたエネルギーは近くにいる電車が使うという仕組みになっている。

 ただ、ブレーキで発生した電力を給電する電車が近くにいない場合、その電力は余剰電力という形で無駄になってしまう。

 そこで、こうした仕組みで発生する余剰電力を、蓄電池技術を使ってうまく活用できないかと検討が進んでいる。

鉄道を取り巻く課題と対策

 一方、鉄道システムを取り巻く現状には課題も多い。代表的なものは次の3つだ。

鉄道システムの課題
・エネルギー問題(電気料金の高騰、化石燃料の枯渇、地球温暖化)
・少子高齢化による運転/保守人員の減少
・安全、安定運行(地震、台風など災害時の運転停止を避ける)

 エネルギー問題は世界的・社会的なもので、CO2排出の削減の取り組みは鉄道会社以外でも注力していることだ。一方、少子高齢化の影響、および安定運行が課題となるのは鉄道システムならではといえる。

 そして、日本でも現状鉄道システムの40%を占める非電化路線にも課題がある。非電化路線を走る電車は「気動車」と呼ばれるが、気動車はエンジンが搭載され、エンジンを動力として車輪を回転させて走る。燃料は基地で補給し、補給された分だけ走ることができる。電化方式の車両と違い、ブレーキによって発電される電気の有効利用は発生しない。

 気動車は、ギアなど機械部品が多く、その分メンテナンスにコストがかかる。今後の労働人口の減少にあたり、このメンテナンスの課題をどのようにクリアしていくかは鉄道会社にとって大きな課題だ。

 安全・安定運行の面でいえば、地震や台風といった自然災害時に、たとえば送電所からの架線への電力の供給が止まってしまったとして、それでも次の駅に乗客を運べるよう、運行できる鉄道システムを構築できないか、という声がある。いかなるときでも安全に走ることができる鉄道システムの構築が求められている。

 これらに対する対策の1つとして、蓄電池技術が期待を集めているのである。

ハイブリッド駆動システムとは

 前述のように、従来の非電化路線の気動車(ディーゼル車両)の駆動システムは機械部品が多い。ディーゼルエンジンで動力を作り、液体変速機・転換器を通して車輪を駆動する。液体変速機のギアは使用するうちに摩耗するためメンテナンスが必要だし、転換器では前進後退を切り替えるギアが採用されており、こちらも油を使ったメンテナンスが必須だ。

 これらの気動車に対し、日立製作所ではJR東日本と共同開発で、従来の電車と同じ部品を使って、気動車に二次電池を追加した「ハイブリッド気動車」を実現した。

 「ハイブリッド気動車」では、ディーゼルエンジンと発電機を通して電気が生まれる。この電気は蓄電池に充電されたり、モーターを動かす電力として使われる。これにより、省エネルギーおよび装置のメンテナンスの軽減化などが図られていくとされる。

 また、ブレーキによる発電の有効利用も可能だ。ディーゼル車両はブレーキをかけるときに、回転している車輪に対し制輪子が出てきて車輪を挟み込み、この摩擦力で電車が減速し停止する。従来の車両ではこの摩擦力は熱エネルギーに変換され、消費されてしまう。これを解消すべく、ハイブリッド車両では、車輪が回転するエネルギーを使い、モーターが発電する装置を搭載。発電されたエネルギーを主変換装置を通し、蓄電池に充電していくという仕組みだ。

 こうして充電された電力は走行用の電源やサービス電源(蛍光灯やヒーター/クーラーなど走行以外に用いる)に再利用することができる。

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長野県小海線で走行するハイブリッド車両「キハE200形」。第4回エコプロダクツ大賞エコプロダクツ部門環境大臣賞を受賞している。
(出典:JR東日本 プレスリリース)

 このハイブリッド駆動システムの開発は、2001年から日立製作所と東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)との間で始まった。自動車を参考にハイブリッド車両の開発を進め、2007年、世界ではじめて営業運転に投入された。

 屋根上の箱の中に配置される蓄電池、車両下部に設置される主電動機、主電源機、主変換装置(インバータ/コンバータ)、これらでハイブリッド駆動システムが成り立つ。ハイブリッド自動車同様に、このシステムが1両の中に入る。

【次ページ】日立製作所は蓄電池と鉄道の未来を切り拓けるのか?

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