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- 2023/06/09 掲載
イーロン・マスクの「ニューラリンク」とは? 脳デバイス(BCI)企業に大注目のワケ
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/
マスク氏のニューラリンクとは? 実用化への動きが加速
現在最も注目を浴びる先端テクノロジーといえば「ジェネレーティブAI」だが、米国では脳とコンピュータをつなぐ「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」と呼ばれる技術への関心も急速に高まっている。BCIを開発する代表的なスタートアップが米食品医薬品局(FDA)による承認を続々と獲得、実用化に向けた動きが加速しているからだ。注目株の1つは、テスラやスペースXのCEOを務めるイーロン・マスク氏が共同創業したニューラリンク。同社は2023年5月26日、FDAから同社初となる人間を対象にした臨床試験の実施承認を受けたことを発表した。
同社が開発する技術の1つが「Link」と呼ばれる脳インプラント。このインプラントは、神経信号のみを使用してコンピュータなどの外部機器をコントロールするデバイス。重度のまひを持つ患者のコミュニケーション能力回復などでの活用が期待される。同技術を活用すれば、ALSなどの重度の変性疾患を持つ患者でも、マインドコントロールによりカーソルを動かしたり、タイピングすることが可能となる。

同社のBCIシステムは、患者に対し侵襲的な(生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激を与えること)脳手術を行う必要がある。これまでの試験は、動物を対象としたものだったが、FDAの臨床試験承認を得たことで、人間を対象とする試験が可能となる。ただし現在のところ、承認された試験の範囲は明らかにされていない上、臨床試験の被験者募集も開始されていない。
BCI分野の代表格ともいえる同社が今回FDAの臨床試験承認を受けたことは、BCI技術が実用化に近づいたことを意味する。しかし、同社の取り組みは、これまでいくつかの課題が指摘されていた。2月には、不適切な方法で汚染されたハードウェアを包装・輸送していたとの疑惑により米運輸省が調査を開始。また、3月にはロイター通信が、FDAが数十の課題を指摘し、同社の人間臨床試験申請を拒否したと伝えていた。今回のFDA承認は、これらの課題が少なくとも一部解決したことを示唆する。
BCI技術は、この数十年にわたり研究が進められてきた領域だが、実用化・商用化に向けた動きが本格化し出したのはこの数年だ。デバイスの小型化などのテクノロジー要因やFDAの体制が整備されたことなど制度的要因など、複数の要因が関係している。 【次ページ】増加中のBCIスタートアップ86社、ニューラリンクの競合とは?
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