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2017年05月17日

水産ベンチャーのウミトロンは、「人工衛星とIoT」で魚の養殖をどう変えるのか

魚介類へのニーズが世界的に高まっており、水産養殖業の高度化が求められている。勘や経験、人手に頼る作業が多かった養殖にも、IoTの波が迫ってきた。センサデータでいけすや魚介類などの状況をリアルタイムに計測し、餌やりの頻度・タイミングを最適化するのが狙いだ。さらに、2016年に創業されたウミトロンでは、人工衛星で取得した海洋情報を利用し、水産養殖の生産コストのうち6、7割に上る餌代の削減を目指している。JAXAやNASAが海洋情報を取得する人工衛星を積極的に打ち上げていることを背景に、3年後には250基の人工衛星を活用して水産養殖の生産性向上を実現するのがウミトロンのビジョンだ。

執筆:佐藤 隆之

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「ウミトロン」は、養殖業の課題を人工衛星とIoTで解決しようとしている

(© paprikaworks – Fotolia)


水産養殖にかかるコストの6、7割を占めるのは「餌代」という事実

 魚を中心とした食生活は世界的なトレンドとなりつつある。先進国では健康志向の高まりによって肉より魚が好まれるようになり、また、新興国では所得レベルの向上によって炭水化物に加えて魚介類を含めたタンパク質の摂取が増えてきた。

 2050年には90億人に達すると予測される世界人口に対して適正な量の魚介類を提供するため、水産養殖業の成長および生産性向上が求められている。

 水産養殖業は過去30年で、その収穫量を500万トンから6300万トンへと大きく成長をさせた。この成長は今後も続くことが予想され、市場規模に換算すると2015年の1562億ドルから5.0%の成長率が続き、2021年には2094億ドルに達するとの調査がある。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告では、96%以上の水産養殖業は、アジアに集中しているという。

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プランクトンが異常に増殖することで海が真っ赤に染まる「赤潮」

 市場の拡大が見込まれる水産養殖業にあって、自然から受ける影響は大きく、生産性向上を阻害してきた。特に、植物性プランクトンの異常増殖による「赤潮」は、広範囲の魚を死に至らしめる。養殖してきた魚介類が壊滅的な被害を受けた水産養殖業者は倒産の危機に陥る場合もある。

 生産性の観点では、魚への「餌やり」が時間とコストに大きな影響を与えている。餌の分量や頻度、タイミングは養殖業者が培った勘と経験による部分が大きく、属人的な作業となっている。

 多くのいけすを運営する業者では、いけすの分だけ担当者が手作業で餌やりを実施しているケースがある。労働力の確保が難しい地域では、餌やりの人員が不足してしまう。

 餌やり作業にムダが増えてしまうと、事業運営上のコスト増加につながる。養殖産業では生産コストの6、7割が餌に使われているため、効率的な餌やりは重要な課題となっている。

 そこで、給餌(きゅうじ)量・タイミングの最適化を実現するために設立されたベンチャー企業が「ウミトロン」だ。人工衛星から取得した海洋データを水産養殖に活かすというユニークな試みが注目を浴びている。

宇宙と海のセンサデータを活用するIoT技術を開発したウミトロン

 ウミトロンは宇宙と海からデータを取得する。まず、人工衛星が取得した海面温度やプランクトン分布によってマクロな自然環境が把握できる。

 次に、いけすに設置したセンサから魚群行動や詳細な海洋環境を理解する。これらのデータを組み合わせて、養殖する魚介類に最適な給餌量・タイミングの最適化を行う。

 ウミトロンは、2016年に愛媛県で実証実験を実施した。過去に赤潮で10億円近い被害を出したこの地域は、IoTによって水産養殖業を高度化するニーズが高かったという。

 そこで、現地の養殖業者のいけすに水中カメラや各種センサを設置し、リアルタイムで給餌状況を把握する仕組みを構築した。

 センサで取得した情報はサーバーへと送信・解析され、給餌装置を自動で操作する。魚が餌を食べていない際には給餌を止め、また、もっと食べられる際には給餌を続けるようにするため、餌の無駄を削減できる。給餌の最適化によって餌代の1割削減を行うのがウミトロンの目標だ。

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(クリックで拡大)

ウミトロンとはいかなる企業か?


 生産コストの6、7割を占める餌代が一割削減できるのであれば、水産養殖業者にとって、ウミトロンのサービスを導入するメリットは大きい。ウミトロンの試算では、餌代一割に相当する月8万円のうち、25%をサービス料として徴収する。日本全国にある約2万台のいけすを対象にすれば、年間48億円の市場にアプローチできる。

JAXA、NASA、スペースXの人工衛星によって進歩する海洋情報計測

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 前述の実証実験では宇宙データよりも海洋データを中心に分析を行ったウミトロンだが、3年後の事業環境を考えると宇宙から取得できるデータが充実し、より付加価値の高いサービスが実現されると見込んでいる。現在、世界中で人工衛星の打ち上げが進められているため、その数は3年後には250基を超えると予想された。

 JAXA(日本)やNASA(米国)では人工衛星による海洋データの調査を長らく行っており、海面温度や海色、水位レベルといった情報を取得・公開している。2012年にはJAXAが地球環境変動観測ミッションの一環として、水資源管理や気候変動を観測するための衛星「しずく」を打ち上げた。

 ロケットの回収・再利用によって打ち上げ価格の低減を目指す取り組みで知られているスペースXが2015年に打ち上げたのも、海洋情報を計測する人工衛星だった。Jason-3(ジェイソン3)と呼ばれるこの人工衛星は海面上昇を計測する目的で米国や欧州の機関によって開発された。

【次ページ】アジアを中心に増える「水産×IoT」ベンチャー企業

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