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  • 2018/03/20 掲載

なぜ多くの大企業が宇宙ビジネスに参入するのか

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日本発の宇宙ビジネスを多角的に考察する本連載。今回は宇宙ビジネスを支える「お金」に注目してみよう。内閣府は宇宙産業の市場規模を、2030年代に現在の2倍となる2兆4000億円まで拡大させる目標を設定している。しかし、「ニュースペース先進国」である米国の市場規模と比較すると、その規模は小さい。日本発 宇宙ビジネスが成功するためには、どのような“お金の流れ”が理想的なのだろうか。
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かつて「官需産業」だった宇宙開発だが、一部を民間が担うようになってきた
(© alonesdj – Fotolia)


宇宙ビジネスに取り組むための「ファイナンス」

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 スタートアップによる新たな宇宙ビジネスを指す「ニュースペース」。この領域のスタートアップ創業と躍進が相次いでいるが、鍵となっているのは優秀な人材や高度な技術だけではない。技術開発と企業経営を支える資金は、絶対に欠かせないファクターだ。

 政府主導で行われてきた従来の宇宙開発では、資金源のほとんどが政府の国家予算だった。政府の宇宙開発事業の予算の一部が、委託先のメーカーやシステム企業などに分配されることで、宇宙産業は維持されてきた。宇宙開発が「官需産業」と言われ続けて来たゆえんである。

 一方で、ニュースペースの資金の概念はまったく異なる。ベンチャーファイナンスのコンセプトが基本のひとつにあり、資金源を民間にも求めるものだ。

 宇宙ベンチャーは、創業期(シード・ステージ)から事業立ち上げ期(アーリー・ステージ)に、カスタマーも売り上げもない時期を過ごす。その中で、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)といった投資機関から資金を集める。

 これにより、ロケットや衛星の試作機開発や試験打ち上げR&Dを進め、経営幹部を体制強化したり、エンジニアリングやファイナンス、マーケティング、知財担当などのメンバーを拡充したりすることが可能になる。現在、多くの宇宙ベンチャーは、このステージにある。

 資金調達を生かして事業を成長させ、カスタマーと収益を獲得する成長期(グロース・ステージ)に入ると、赤字続きだった経営が、単年度収支で黒字になってくる。

 顧客のペイロード(積載物)を積んだロケット打ち上げや、カスタマーへの衛星データ提供などの事業が文字通り“軌道に乗る”と、さらなるカスタマーを獲得するなど、その成長は飛躍的なものになっていく。

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日本の非宇宙系大企業(事業会社)による主なニュースペース参入の動き(図の拡大はこちら

 VCや事業会社からのさらに大きな資金調達が実現するのも、この時期だ。米国ではPlanetやOneWebなど、このステージまで成長したいくつかの宇宙ベンチャーがおり、業界をけん引している。

 ベンチャーとしての成熟期(レート・ステージ)になると、最終的には株式上場(IPO)をして経営大型化と安定化を図ったり、事業売却(M&A)したりして、大企業の傘下に参入することがゴールとなる。

 1980年代に創業され、宇宙ベンチャーの第一世代と呼ばれる米国Orbital ATK(旧Orbital Sciences)は、従業員1万人を超える大型ベンチャーにまで成長をした後、2017年に航空宇宙大手であるNorthrop Grummanに売却された。また、ニュースペースの先駆者であるSpaceXは、2017年頃から米国メディアや金融機関筋から「IPO間近か」と推測する記事・レポートが多く出ている状況にある。

「新たな宇宙ビジネス」は魅力的な投資先?

 2018年1月、「Google Lunar XPRIZE(GLXP)に挑む日本代表チームHAKUTOが、当レース期間中の月面ローバー打ち上げを断念した」という非常に残念なニュースが舞い込んできた。HAKUTO代表の袴田武史氏は記者会見で「資金調達のタイミングが少し遅かった。技術的には十分達成できた」旨をコメントしている。

 宇宙ベンチャーにとって、資金調達は技術開発と同様、またはそれ以上に難しいものであることを表した言葉であった。なおHAKUTOの基幹企業ispaceは、この一カ月前に宇宙ベンチャーとして世界最高額のシリーズA資金調達を完了したばかりだった

 米国の宇宙シンクタンクBryce Space and Technology(旧Tauri Group Space and Technology)によれば、2000年以降、ニュースペースへは世界で166億ドル(約1兆8000億円)の資金が投入され、その3分の2は最近の5年間に集中している。2015年、2016年の直近2年間では、連続で過去最高レベルの年間30億ドル(3300億円)弱の資金が集まった。この数年間で、確実にカネの流れが宇宙ビジネスに移ってきている。

 この流れの中心的な役割を担っているのが、資金投入シェアが最も高い54%を占めるVCや事業会社によるベンチャー投資である。米国ではシリコンバレーに集まるVC勢による宇宙ベンチャーへの投資が活発だ。例えば、100年以上の歴史を持つ全米最古のVCであるBessemer Venture PartnersはPlanet、Spire、Terra Bellaといった業界をリードする小型衛星ベンチャーに投資をしてきた。

 PayPalの創業者でシリコンバレーにおいて非常に強力な力を持つと言われるPeter Thiel氏らによって創設されたFounders Fundは、SpaceX、Planetの他に、次世代のロケットエンジンや衛星スラスター(推進装置)となり得る小型電気推進装置を開発するAccion Systems、農業向けに衛星データを交えた気象ビッグデータ解析を行うClimate Corporationに投資している。

 アップルやグーグル、米ヤフー、ユーチューブ、エアビーエンビー、ドロップボックスなど、日本でも知られるあらゆるユニコーンベンチャーに投資してきた老舗VCのSequoia Capitalも、衛星データのAI解析プラットフォーム事業を展開するOrbital Insightと、小型衛星打ち上げに特化した小型ロケット開発を進めるVector Space Systemsに投資した。

 このような例は枚挙に暇がない。宇宙ベンチャー専門のエンジェル投資機関Space Angelsによれば、これまでに約100社のVCが約250社の宇宙ベンチャーに対して投資をしてきた。

 この250社うちおよそ半分に当たる120社は衛星を中心とした地上系宇宙ビジネスであるが、残りの半分は、宇宙でのライフサイエンス研究などの宇宙空間ビジネスや資源探査といった天体系ビジネスであり、実に多様性に富んでいる。この点は米国のVCの柔軟性と多様性を表していると言えよう。

【次ページ】大企業×宇宙ベンチャーは成功するのか

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