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  • 2020/07/03 掲載

イーロン・マスクのスペースXは何がスゴイ? 民間有人宇宙飛行の快挙達成できた理由

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米宇宙開発企業のスペースX(SpaceX)が5月、民間で初めて国際宇宙ステーション(ISS)への有人飛行を実現させるという快挙を達成した。米国において宇宙事業を官から民へ移す方針に従い、2002年に創業されたベンチャー企業が宇宙ビジネスの在り方を変えるに至った。スペースXらの参入により、2億ドルを要していた人工衛星の打ち上げは、6000万ドルまで削減。新たな大型ロケットやそれに付随するサービスの開発によって、スペースXによる宇宙事業の変革は続いていきそうだ。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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宇宙飛行士2名を乗せたスペースXの宇宙船「クルードラゴン」発射の様子
(Photo:NASA/Bill Ingalls)

ISSへの輸送コストはわずか1/20に

 2020年5月30日、2名の飛行士を乗せたスペースXの宇宙船「クルードラゴン(Crew Dragon)」がISSへ到着、米国の有人宇宙飛行としては2011年以来9年ぶりの快挙となった。米国はこれまでロシアの宇宙船ソユーズに依存しており、民間企業の有人宇宙船がISSへ接続するのも初めてとなる。


 スペースXはご存じの通り、電気自動車(EV)大手のテスラ創業者、イーロン・マスク氏が2002年に創業した宇宙開発企業。同社がこれまで手掛けたことは、民間企業として初めて実現したものばかりだ。たとえば、2010年には民間企業として初めてISSへの物資輸送を実現。また、打ち上げロケットの回収を実現したのは官民問わず、史上初となった。

 スペースXが宇宙事業の商用化を牽引する存在になったのは、NASAが宇宙事業を民間へ委託する方針へと転換した点が大きい。2011年のスペースシャトル退役以降、米国がロケット打ち上げを行ってこなかったのは、膨大なコストがかかることが要因だった。そこでNASAは民間の自由競争によってコストを削減するよう、ISSへの物資輸送を民間に委託するCOTS(商用軌道輸送サービス)プログラムなどを推進してきた。

 実際にスペースXは、宇宙事業のコスト削減を実現してきた。従来、米国政府が主導して打ち上げる人工衛星は1基あたり2億ドル要していたのに対し、スペースXは1回の打ち上げの価格が6,000万ドルと言われている。

 ISSへ輸送する1キログラムあたりのコストは、5万4,500ドルから2,720ドルへ低減されたとの試算もある。委託したNASAにとっては大きなコスト削減となったわけだ。


なぜスペースXは大幅コスト削減に成功したのか

 スペースXが大きくコストを削減できる理由の一つが、その製造プロセスだ。機器の7割以上を内製していると言われ、垂直統合を追求しているのが特徴とされる。部品の設計から組み立て、ソフトウェア開発まで、ほとんどの工程がカリフォルニアの工場で行われる。

 多くの工程が手作業で実施されてきた従来の宇宙事業に対し、3Dプリンターなどの最新IT技術を駆使している点もコスト削減に寄与している。

 ロケットエンジンは数百もの部品を組み合わせる複雑な産業機械なので、その製造は非常に困難なものだった。しかし、複雑な金属部品でも3次元モデルでの設計・製造を内製することで、品質の維持、リードタイムの削減、知的財産の流出防止などの効果が得られたという。

 クルードラゴン内の映像が明らかにしたように、コックピットに配されたダッシュボードも、ボタンや計測機器で一杯だった過去の宇宙船と比べ、極めてシンプルな構成になっている。

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クルードラゴンのコクピットの様子
(Photo:NASA Kennedy)

 物理的なボタンよりも、ソフトウェアの表示・操作を重視するのは、テスラの自動車にも共通する設計思想と言える。製造の観点からも、タッチパネルに集約されたコックピットにより、設計・組み立ての難易度が下がり、コスト削減につながる。

 スペースXが実現したロケットの再利用もコスト削減に寄与する。毎度、すべてのロケットを製造する必要がなく、繰り返し使うことで、その性能が検証可能だ。使い回せない部品であっても、前回の打ち上げデータを基に、設計から製造までの検証サイクルを回し、部品の改良につなげられる。

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スペースXのビジネスモデル。新価値提案とコスト削減の両軸で進めている

【次ページ】人工衛星打ち上げの「相乗り」を含め、宇宙関連サービスの多様化が進む

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