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- 2017/06/30 掲載
東大 松尾豊 准教授らが討論! 日本はAIで世界をリードし、産業競争力を得られるか?
ディープラーニングと眼の機能で「カンブリア爆発」が起きる
「かつてコンピュータは画像認識が苦手でしたが、その精度が上がり、2015年にコンピュータが人間の能力を超えた。こういう時代は初めてです。また強化学習を組み合わせて、ロボットや機械のピッキングも上達しました」(松尾氏)
松尾氏は、「眼の誕生」というアンドリー・パーカーの書籍を引用し、このような状況を説明した。
46億年という地球の歴史の中で、5億4200万年前から5億3000万年前という短期間の間に、現存の種が出そろう「カンブリア爆発」が起きた。この発現について、著者のパーカーは、生物に眼ができ、視覚情報が入るようになった“光スイッチ”で説明している。それまでの生物は匂いを頼りに緩慢に動いていたが、眼を持つ三葉虫は遠くの外敵を察知し、素早く動けるようになった。やがて相手の生物も眼を持ち、生存戦略が多様化したのだ。
松尾氏は「同様のことが機械やロボットの世界でも起きる」と語る。
「ただし、現在は前カンブリア時代です。イメージセンサーは網膜の働きしかない。脳の裏にある視覚野で信号を受け、初めて本当の意味で眼が機能し、多様な作業ができます。この視覚野の働きがディープラーニングにあたります。眼を持った機械により、自動化できなかった農業、食品加工、建設、組立て加工などの産業が一気に発展する。“機械・ロボットのカンブリア爆発”が起き、大きな産業を興せるでしょう」(松尾氏)
楽天はすでにバックエンドでかなりAIを活用
森氏は「我々は、楽天のビジネスフィールドを使い、実ビジネスを行う人々と研究を行っています。ビジネスにAIをリアルタイムで反映させることがミッションです」と強調する。
そこで同研究所では、昨年からスタートさせたドローン配送の実証実験の開発を担当。安全な着陸のための画像認識技術などを研究して、ドローンに実装したそうだ。また楽天のC2C向けフリーマーケットアプリ「ラクマ」において、ディープラーニングを使った商品認識技術を開発し、販売を支援している。
すでに楽天は、バックエンドでかなりAIを活用している。たとえば価格と在庫の最適化システム“PIOP”を開発し、2億5000万もの商品アイテムの需要を予測。過去の売行きのみならず、天候状況や販促キャンペーンなどの条件を踏まえた最適価格を提案している。
「より高度なマーケティングプラットフォームも開発しました。顧客の趣向はもちろんですが、売買のタイミングも重要です。個人が求めるベストな価格に合ったディスカウント幅を最適化し、リアルタイムに在庫を見ながら、パーソナライズされたクーポンを発行する。これは世界初となるシステムです」(森氏)
さらにAIによって、隠れたニーズを掘り起こすことも可能だ。細分化されたニーズに応えるために、たとえばトレンド動向から、同一の動きを抽出して発見してくれる。
「隠れたニーズを探す事例として“父の日”と“ステテコ”の検索の動きが同じことを自動的に抽出したことがあります。2億5000万のアイテムからトレンドと商品の関連性を発見することは、人手では不可能。またユーザー行動を分析し、ユーザーが思い描くジャンルを推測して提案するシステムも開発しました。それに基づいて、ファッションのキャンペーンなどを行って成功を収めています」(森氏)
同研究所はスタンフォード大学やMIT、シンガポール国立大学と共同研究を行い、グローバルで成果の実装を行っているところだ。
IBM Watsonは“教師なし学習”
このコグニティブ・コンピューティングは、機械と人間のパートナーシップを示すものだ。人間の専門知識を拡張し、データをエンジンとしてキュレーションする。ベリシモ氏は「IBM Watsonはトレーニングをすることに真髄があり、4つの機能を有している」として、各機能について説明した。
まず1つ目の機能は、自然言語の理解だ。2つ目の機能は、データの関係性を確率的に推論すること。機械学習でスマートになり、さまざまな仮説に対して結論を導き出せる。3つ目の機能は、Watsonが専門家の代わりになることだ。すでに医療分野などで、専門知識に基づいてガンを発見している。4つ目の機能は、自然な人間とのやり取り、すなわちインタラクションを可能にすることだ。
AI技術は日々進化を遂げているが、最終的に企業が求めているのは、画期的な技術ではない。事業活力につなげたり、顧客獲得に結び付けたり、マーケット拡大などのビジネスモデルをAIに求めているのだ。ベリシモ氏は、オーストラリアの企業の事例を挙げて説明した。
「企業にとってコグニティブは重要な要素です。たとえば次世代エンジニアを育成するために、IBM Watsonで従来のナレッジを保持し、瞬時に活用できるようにした。エンジニアが質問すると、30年分の何億もの事例を振り返り、最もよい回答を導き出してくれる。IBM Watsonは、国内では日本郵便の簡易保険にも導入されている」(ベリシモ氏)
【次ページ】AIが人を超えるのか? という議論は「知能と生命を混同している」
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