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- 2017/09/15 掲載
トヨタが狙う「自動倉庫」でも世界トップ、相次ぐ買収に見せる本気度
総本家、豊田自動織機が「自動倉庫」有力ベンダーを買収
現在のトヨタ自動車は同社の自動車部門が1937年に「分家」して設立された。社名の由来の繊維機械は2017年3月期では売上高比で2.9%にすぎない。主要製品は世界トップシェアの「TOYOTA L&F」ブランドのフォークリフトや、カーエアコン用コンプレッサー、ディーゼルエンジンなどで、「RAV4」や「ヴィッツ」の完成車を受託生産する「トヨタ系車体メーカー」としての顔も持っている。
前期の売上高は1兆6751億円、営業利益は1273億円、最終利益は1313億円。グループではトヨタ自動車、愛知製鋼、ジェイテクト(旧・豊田工機)とともに戦前派の名門であり、デンソー、アイシン精機とともに「トヨタグループ御三家」と呼ばれている。
そんな名門企業でも、守りに入ることなく新事業分野の開拓、拡大にアグレッシブに挑戦する姿勢をみせる。その一つが産業車両部門(トヨタ・ロジスティックス&フォークリフト)に属し、1986年に参入した「物流ソリューション」の領域である。
物流ソリューションは英語で「マテリアル・ハンドリング」略して「マテハン」という。顧客の物流の課題を解決するシステムを構築するので「ソリューション」だが、現在のコア・プロダクトは、物流センターの入出庫や在庫管理を完全自動化して省人化、コスト削減を図る「自動倉庫」である。
搬送機器を用いて荷物を機械的に出し入れし、保管するメカトロニクス「フリートマネジメント」だけではない。受・発注のオペレーションと結びついたオンライン化、タグをつけた荷物1個1個のIoT化、さらにAIも活用して倉庫内の荷物や各作業を「見える化」「最適化」したり、システム障害の予防保全を行うなど、物流関連のテクノロジーはどんどん高度化している。
ロボットによる作業の自動化、無人化も進んでいる。ICTも盛んに活用され、生産計画や販売と連係した総合的なシステムもあって「スマート・ロジスティクス」と呼ばれている。
そんな物流システムの構築・提供を担っているのが「物流システムサプライヤー」と呼ばれる業態だ。現在、世界シェアでトップの座についているのが自動倉庫システムで躍進した日本のダイフク(本社・大阪市西淀川区)である。2位はドイツの自動搬送機メーカーのシェーファー(Scheaefer)グループ(フランスのBIC傘下のアメリカの万年筆メーカー、シェーファーとは無関係)。3位は同じくドイツ企業で、シーメンスが最初に設立したデマティック(Dematic)社。4位には日本の村田機械(本社・京都市伏見区)が入っている。5位はオランダのファンダーランデ(Vanderlande)社である(2016年暦年の売上高ランキング)。
豊田自動織機は今年2月にランキング16位のアメリカのバスティアン社、3月に5位のファンダーランデ社の買収を、続けざまに発表した。
その売上高を合計すると13億8700万ドルで、豊田自動織機がもともと有していた売上約330億円(およそ3億米ドル)を加えると16億8700万米ドルになり、12億6000米ドルの村田機械を抜いて4位に浮上する。首位のダイフクはその1.7倍もあるが、3位のデマティック社との差は3億2900万米ドルで背後の村田機械との差よりも小さく、その背中は、見えている。
参入以来30年間はほぼ国内オンリーで、世界シェアはごく小さかった豊田自動織機は今年、積極的なM&A攻勢により一気に世界で5本の指に入るほどのプレイヤーに、のし上がったのである。
2社とも売上高を2ケタ伸ばした急成長企業
しかも買収先は、成長力を秘めている。物流ソリューションのビジネス自体も成長力が大きい。その主役がアマゾン・ドットコムに代表される「eコマース(ネット通販)」で、市場規模(全世界)は2012年から2017年までの5年間で2.2倍になると予測されている。伸び率は2012年の22.2%から徐々に下がっているが、それでも2017年は14.8%で、2ケタ成長が見込まれている。
豊田自動織機によると北米のeコマース市場は日本円換算で2014年の53兆円から2018年の79兆円へ、4年で約1.5倍に成長する見込み。アマゾン・ドットコムのような有力プレイヤーは競うように自動倉庫を建てている。
個別に見ても、バスティアン社もファンダランデ社も、急成長企業である。2016年の前年比売上高伸び率は、バスティアン社が+11.3%、ファンダランデ社は+18.4%もあった。ランキング上位では、ダイフクは+7.3%だがシェーファー社は+1.3%で、デマティック社は-8%、村田機械も-8%のマイナス成長に甘んじていた。
「豊田自動織機+バスティアン+ファンダランデ」陣営が、もし2017年に10%成長すれば世界売上高は18億5500万米ドルに増え、デマティック社がもし前年並みの-8%だったら、わずかに追い抜いて3位に浮上できる計算。デマティック社も昨年、親会社が代わったので立て直しを図るはずだが、それでも肉迫できそうだ。
フォークリフトのライバルが火をつけた?
世界シェア3位のデマティック社は2016年、ドイツのキオン・グループが21億米ドルで買収したが、このキオンは実は、豊田自動織機のフォークリフトの世界トップシェアの座を脅かすような最大のライバルである。国内のシェア争いでは2位のニチユ三菱フォークリフトに百分比でダブルスコアの大差をつけているが、世界シェアのほうは2位キオンとの差が小さく、2013年にわずか2ポイント差まで詰め寄られたこともあった。その最大のライバルが物流ソリューションでシェア3位の企業を買収したのだから、豊田自動織機の社内に「機器単品からシステムへ、流れが変わっている」「今のままでは世界トップシェアの座も危うい」と、危機感が充満したことは想像に難くない。キオンに、物流ソリューションの提案と合わせて、自動倉庫であっても出荷作業で使われるフォークリフトを売り込まれたら、なし崩し的に自社のシェアを奪われる恐れがある。
その切迫した危機感が、それまで国内中心で控えめにやっていた物流ソリューションのビジネスを、一気に世界シェア4位まで押し上げるような積極的なM&Aに火をつけた、と言えそうだ。ひとたび本気を出せばそこまでやってしまえるのが、トヨタ。M&Aで得た自動倉庫など物流ソリューションの新しい販路に主力製品のフォークリフトを乗せれば、そっちでも新規顧客を開拓できるだろう。
【次ページ】ファンダランデもバスティアンも「いい買物」
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