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  • 2018/02/19 掲載

高電圧直流(HVDC)は知られざる成長分野、EVやデータセンター向けも追い風に

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電気を「交流」ではなく、それよりも電力のロスが少ない高電圧の「直流」で送電するのが「高電圧直流/高圧直流送電(High Voltage Direct Current:HVDC)」の技術である。ヨーロッパでは主に長距離の海底ケーブル送電線で利用されている。HVDCの世界市場はEVやデータセンターのニーズもあり、今後10年で2倍になると見込まれ、まさに成長市場。国策には左右されるものの、温室効果ガスを削減し、再生可能エネルギーに置き換えていく世界的な潮流に乗れば、足並みを揃えて成長しそうだ。
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ABBの高電圧直流(HVDC)ライトバルブホール
(出典:ABB報道発表資料)

交流に比べて直流が「古くて劣る」というのは誤解

連載一覧
 電気に「直流」と「交流」があることは、小・中学校の理科の授業で習う。乾電池や自動車、スマホのバッテリーは、常に+から-の方向に電流が流れる直流方式、家庭の100Vのコンセントは交流方式で、1秒間に+と-が東日本では50回(50ヘルツ)、西日本では60回(60ヘルツ)、入れ替わっている。

 発電所から電気を送る送電線の中を通るのは高圧の交流だが、それが直流であっても構わない。1880年代、米国で送電の基本システムを決めるとき、「送電は交流で行うか? 直流で行うか?」を巡る「電流戦争」が起きたが、最終的に交流に軍配があがり、発明王エジソンが支持した直流陣営が敗れる出来事があった。それ以来「交流送電」がグローバル・スタンダードになっている。

 電流戦争での交流の勝因は、変圧器で電圧を変えやすく、当時は交流のほうが電力のロスは少ないと考えられたからだが、その後の技術の進歩で直流も「パワー半導体」を利用して容易に電圧を変えられるようになり、電線の改良もあって10万V(100kV)を超える高圧なら直流のほうが電力のロスが小さいことがわかってきた。今もし「電流戦争」が再発したら、直流が逆転勝ちして天国のエジソンが雪辱を果たしても、決しておかしくない状況になっている。

 日本では在来線の東海道本線や山陽本線が直流電化で、交流電化の新幹線のほうが速いために、直流より交流のほうが進んでいるようなイメージを持たれているが、イタリアの新幹線TAVのローマ~フィレンツェ間は3000Vの直流電化で、列車は最高250キロのスピードを出している。直流でも新幹線は高速で走れる。直流は古く劣り、交流は新しく優れているというのはまったくの誤解である。

高電圧直流(HVDC)は10年で2倍の成長市場

 電力インフラで、発電所からの送電を交流ではなく200kV~500kVの高圧の直流で行う技術を「高電圧直流(HVDC)」という。一般にはあまり知られていないが、パワーエレクトロニクスの領域では、HVDCは「スマートグリッド」「超高圧送電(UHV)」と肩を並べる成長市場である。

 三菱電機が2017年3月に発表した「電力システム事業戦略」によれば、2015年度に4,800億円だったHVDCの世界市場は、2020年度に1.5倍の7,200億円に、2025年度に2.15倍の1兆300億円に、2030年度に3.08倍の1兆4,800億円に伸びると見込んでいる。ざっくり言えば、10年で約2倍の成長スピードだ。

 HVDCは以前からある「他励式」と、1990年代に実用化したコストの安い「自励式」の2つのタイプがある。2015年度では他励式が上回っているが、自励式が大きく伸びて逆転し、2030年度は自励式が約7割を占めると予測されている。15年間の成長率は他励式は1.7倍、自励式は4.7倍で、自励式がHVDCの成長の主役になる。

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高電圧直流(HVDC)の世界市場予測

 MarketsandMarkets Analysisによる別の予測では、HVDCトランスミッションの世界市場は2016年の67.9億米ドルから、2023年には115.2億米ドルに拡大する。7年間で1.7倍で、最も成長するのはアジア太平洋地域と見込まれている。

 交流送電に対するHVDCのメリットは、電力のロス率が交流の6%程度に対し、HVDCは1000キロ送電しても3%程度と少ないことと、コストが安くなること。どちらも送電の距離が長くなればなるほど効果的で、「HVDCは長距離送電に向く」と言われるゆえんだ。アフリカではHVDCで約1700キロも送電しているところがある。研究開発中の「超電導直流送電」の技術が実用化されれば、電力のロスはさらに小さくなると期待されている。

 第二次世界大戦後にHVDCを商業化し、ヨーロッパに直流送電網を築いたのはスイスのABBだった。ドイツのシーメンスやエジソンを祖とするアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)も参入し、それに日本の東芝と三菱電機を加えた5社が、現在の世界市場の主要プレイヤーである。

 東芝は、モンテネグロとイタリアを結ぶアドリア海越え約400キロのHVDC海底ケーブル送電プロジェクトに全面的に関わっている。三菱電機は兵庫県尼崎市にHVDCシステムの実験棟を2018年に完成させ、2020年度までに世界市場で累計500億円を受注し、世界のトッププレイヤーになることを目指している。

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東芝がイタリアで受注した直流送電システムのイメージ図
(出典:東芝エネルギーシステムズ報道発表資料)

 日立製作所も2012年にABBと合弁企業を設立し、世界シェアを分け合う主要5社の間に割って入ろうとしている。住友電工にはHVDCで使われる電力ロスの小さい直流用送電ケーブルの技術があり、2017年3月にHVDCの主要プレイヤー、シーメンスと業務提携した。

電気自動車やデーターセンターが発展を待つ

 家庭内を見渡せば、エアコンや冷蔵庫や電子レンジや洗濯機のような大型家電はプラグを交流100Vのコンセントに直接差し込んで使うが、中・小型の電気機器はACアダプターで交流100Vを直流に変換して使うものが多い。ノートパソコンも、家庭用ゲーム機も、スマホもみなそうである。画面の小さい液晶テレビにもACアダプターが付いており、LED電球も直流で光る。それは一般家庭でも「直流コンセント」のような、直流への潜在的なニーズがあることを示している。

 工場でも、インバーター付きのモーターや産業用ロボットは直流でも動く。しかし、これから最も有望な直流のニーズと言えば、プラグインハイブリッド(PHV)も含めた電気自動車(EV)への充電だろう。家庭で充電する場合、交流100Vを直流に変換するよりも直流そのままのほうが電力ロスが少なく、電気代が節約できる。充電スタンドも直流による配電には期待するはずだ。

 ITの重要インフラであるデータセンターも同様で、NTTデータ先端技術が開発したHVDCの給電システムを採用したデータセンターを、さくらインターネットは北海道に、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は京都府に開設した。交流から直流への変換時の電力ロスを抑え、コストダウンにつながることが期待される。石狩市のさくらインターネットのデータセンターは約500メートル離れた場所に自前の太陽光発電所があり、電力の「地産地消」も行っている。

 家庭も、カーユーザーも、IT企業も、電力インフラとしてのHVDC、直流による配電が発展することを待望しているのだ。

【次ページ】日本でも進むHVDC活用の電力網

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