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  • 2018/03/28 掲載

ヤンマーアグリイノベーション 橋本康治社長が開拓する「コメ農家自立」への道

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50年以上続いたコメの生産調整、いわゆる「減反」が今年で廃止される。自由競争の中、米の大幅増産に転じれば価格の下落は必至だ。主食用米の需要が年間8万トン以上減り続ける中、コメ農家にとって不安材料は山積だ。大手農業機械メーカーであるヤンマーのグループ企業、ヤンマーアグリイノベーション社長 橋本康治氏は「収益の少ないコメ農家で国の補助金に頼らない経営をしていくために必要なのは、他の農作物を栽培することによる体質の強化です」と語る。同氏に話を聞いた。

中森 勇人

中森 勇人


中森勇人(なかもりゆうと)
経済ジャーナリスト・作家/ 三重県知事関東地区サポーター。1964年神戸生まれ。大手金属メーカーに勤務の傍らジャーナリストとして出版執筆を行う。独立後は関西商法の研究を重ね、新聞雑誌、TVなどで独自の意見を発信する。
著書に『SEとして生き抜くワザ』(日本能率協会)、『関西商魂』(SBクリエイティブ)、『選客商売』(TWJ)、心が折れそうなビジネスマンが読む本 (ソフトバンク新書)などがある。
TKC「戦略経営者」、日刊ゲンダイ(ビジネス面)、東京スポーツ(サラリーマン特集)などレギュラー連載多数。儲かるビジネスをテーマに全国で講演活動を展開中。近著は「アイデアは∞関西商法に学ぶ商売繁盛のヒント(TKC出版)。

公式サイト  http://www002.upp.so-net.ne.jp/u_nakamori/

photo
ヤンマーアグリイノベーション社長 橋本康治氏
握っているのは後述のやぶ医者にんにく

野菜との兼業化で収益を伸ばす

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 ヤンマーアグリイノベーションは2010年に設立された、ヤンマーの100%子会社。社長の橋本氏はヤンマーディーゼルで農業分野の新規事業を数多く手掛け、ヤンマーの創業100年を機に、新規事業に従事すべく現職に就くことになった。

 橋本氏は「ヤンマー自体は農機大手ということもあり、ハード面ではトップクラスの実績があるのですが、農業経営などのソフト面で弱い感が否めません。ヤンマーアグリイノベーションでは親会社の農機インフラを生かして、日本の農家の活性化を目指して新規事業の提案し、さまざまなコラボレーションを行っています」と話す。

 特に同社が力を入れているのが、コメ農家の高収益野菜生産の支援だ。その一例に、コメ農家による加工用野菜生産がある。

コメ農家と相性の良い農作物を探して

 国内野菜の流通量およそ3,000万トンのうち、加工業務用は51%を占める。市場規模は1.5兆円にも上る。輸入量も12%に及ぶなど、加工用野菜の需要は年々伸びていく傾向にある。この背景には外食産業からの需要や、共働き家庭向けのカット野菜の需要がある。今後も伸びが期待できる。

 この需要の伸びを背景に、橋本氏は滋賀県東近江市でコメ農家を中心とした農家や農業法人、JAなどで協議会を設立し、キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、ジャガイモ、ほうれんそうなどの栽培を開始。組織化により零細農家でも肥料や苗などの仕入れが容易になり、農機具の共用などが進んだことから、平成23年当初は5反(約50a)だった作付面積を平成27年には500反(約50ha)にまで拡大した。

 キャベツベースで収益に換算すると1反につき5tの収穫が見込まれることから、1反で約30万円の収益が上がる。これが500反で年2回収穫できるため、3,000万円の増益をもたらしたことになる。

 協議会の設立は収益面だけでなく、さまざまな効果をもたらした。

 協議会は市を挙げての取り組みであることから、東近江市が会の取りまとめをおこない、JAでは農業機械のレンタルや農業指導をおこない、ヤンマーは農機の販路拡大を実現した。雇用を協議会全体でカバーしていることから、機械で賄えない手作業を補うために高齢者や子育て中の女性などの人材を活用するといったメリットも現れ、地域が総出で農業に従事するという地域活性化をもたらした。

 同様のビジネスモデルは日本各地で展開され、広島県世羅町ではヤンマーファーム第一農場を設置。大規模機械化農業(10.6ha)が展開されている。ヤンマーOBと現地採用のスタッフ6名が協力し、4年間で約50名の研修生を受け入れた。

 農業の国家戦略特区である兵庫県養父(やぶ)市ではヤンマー直営の「ヤンマーファームやぶ農場」を設立し、1.6haの農地で米や野菜を育てている。ヤンマーの支援と地元企業や農家、自治体の協力で開発された「やぶ医者にんにく」は耕作放棄地の再生や水田転作に適したニンニクを地元ブランドの農産物として全国のスーパーや飲食店向けに販売されている。

 橋本氏は「ニンニクは作付けに手間がかからず、5月~6月と9月の3カ月間に作業が集中するといった特徴があります。そのため足の長いコメ農家との親和性は高く、異業種からの参入も見込まれます」と話す。

製本業者もニンニク栽培に参入

 実際、野菜生産に乗り出したのはコメ農家だけではない。図書館製本を中心とする諸製本や古文書の修復など資料修復事業を行う兵庫ナカバヤシも野菜生産を始めた。

 同社は、書籍・書物のデジタル化に伴い受注の減少に悩まされていた。そんな時、兵庫ナカバヤシと関わりのある橋本氏に話を持ち掛けたところ、ニンニク栽培はどうかということに。

「図書館関係の仕事は大学が休みになる7~8月が忙しく、ニンニクの農繁期である5月~6月と9月はそうでもない。うまくマッチングがとれるのではというのがきっかけですね」(橋本氏)

 実際にニンニク栽培を導入してみると、2015年に常勤2名、0.4haの作付けではじめた事業は年々、増産してゆき、翌年には常勤5名で2.5ha、2017年には7名で5ha、今年は10名で10haにまで成長。来年は20haで20名の雇用を見込んでいる。

【次ページ】コメの活用方法を増やすことでコメ農家を応援

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