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  • 2018/06/08 掲載

83歳 若宮正子氏「立派なことをやり遂げなくていい」 真にジェンダーレスな社会とは

100年の人生を女性はどう生きるか

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個人の生き方やあり方、社会との共生に関するトピックスを目にする頻度は高まっているが、センシティブなものや“声の大きい”ものだけが注目を浴びている感覚はないだろうか。一般女性の社会や家庭での役割、これからの生き方についての議論はどうだろう。時代の風が後押しする以前から自身で生き方をカスタムしてきた先行者たちは、どのような発想で都度現実と向き合い、どのようなツールやサービスを活用しているのか。フェイスブック ジャパンとリーン イン東京によって開催された“国際女性デー記念イベント「自分らしく人生をデザインする」”において生の声が伝えられた。

Miho Iizuka

Miho Iizuka

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参加したのは10~80代までと幅広い層。女性登壇者や参加者に交じり、企業で女性のキャリアを考える人事の担当者など男性陣の参加も目立った

ジェンダーギャップ大国の日本で多様性をどう伝えるか?

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フェイスブック ジャパン代表取締役・長谷川 晋氏「さまざまな個性によって産み出される議論が、人類にとってよりよい決断を生み出せるのではないか」と語る

 100年を生きる、というフレーズがよく目に飛び込むようになった。日本人の平均寿命はさらに延び、男性は85歳前後、女性は90歳前後まで生きるという数字がでている。仮にその寿命をまっとうするまで健康でいられたとしても、65歳を定年と考えるとリタイアした後の生活、その頃の日本や自分自身がどんな環境にあるのか、予測することは難しい。

 たとえば“家族を守る”ということばがある。具体的にどう守るのかと問われた時、あなたはどんな回答をイメージするか。男性であれば、一家の大黒柱として定年(たとえば60歳)まで勤め上げ、貯蓄や退職金などの資産を運用し、あるいは年金を受給しながら悠々自適に老後を暮らす。女性であれば結婚を機に扶養家族として嫁ぎ先の家事や育児に専従する。日本人にとって、かつてはそれがポピュラーな“家族のカタチ”でもあった。

 その背中を見て育った世代の多くは、刷り込まれた価値観、つまり何らかのバイアスを持ったまま今も生きている。考えてみれば、ロールモデル通りの画一的なモノの見方は、環境の激しい変化の中ではほとんど意味をなさないのだが、他国に比べると単一民族の島国・日本では、多様性を肌で感じる機会自体があまりに少ない。これほど全世界にインターネット、スマートフォン、SNSが普及することで情報の流れが一変しているにも関わらず、だ。

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今回、国際女性デーを記念して行われた「自分らしく人生をデザインする」”では、“無意識のバイアスに気づきを与えるトレーニング”といったワークショップや、参加者同士の交流を図るネットワーキングタイムなども設けられた

 今回、イベントを共催したNPO団体「Lean In Tokyo」は、フェイスブック初の女性役員でCOO のシェリル・サンドバーグ氏の著書『Lean In』に端を発し立ち上がった日本の地域代表コミュニティだ。最愛の夫を亡くした悲劇を乗り越え、自らの人生を力強く切り拓いてきた彼女は、著書にて“女性が野望を持ち挑戦すること”を訴えている。この本のメッセージに勇気をもらったという女性も多いことだろう。実際に女性に行動を起こしてもらうために「Lean In.org」という団体も立ち上がり、現在では世界中に36,000個以上のサークルが存在する。

 イベントの冒頭では「ダイバーシティ&ソーシャルインクルージョン」といったテーマを全社的に推進しているフェイスブック ジャパン代表取締役・長谷川 晋氏より、なぜフェイスブックがこのテーマに取り組むのか、その意義についてプレゼンテーションがあった。社内では部署も異なる男女6名からなるダイバーシティ&インクルージョンチームが立ち上がり、“Managing Bias(バイアスをどう乗り越えるか)”という課題について、男性も、そして女性自身もマインドセットを変えていく、ボトムアップの活動を行っているという。

「われわれは、世界中で人と人が身近になる、コミュニティとして距離感を縮める、ただそれだけのために存在している会社です。メッセンジャーやインスタグラムなど色んなサービスプラットフォームを通じてコミュニケーションを活性化させることで、世界がちょっとでも良くなるんじゃないかと信じてやっている」(長谷川氏)

 21億人の方が毎月使うSNSであるフェイスブックは、宗教・民族・国籍・性別・年齢・趣味嗜好……それこそ多様性の向き合い方と密接にある存在だ。多様な組織でないとサービス自体をブラッシュアップしていくことは難しい。

「テック業界は依然として男性が多い職場です。優秀な女性がジョインして活躍してもらうためには、キャリアやプライベートをサポートする環境を整えることが重要だと感じました。日本の場合、特にジェンダーギャップが大きい国。社会に対してインパクトある施策を、われわれだけでなくさまざまなパートナーと共に推進しているところです」(長谷川氏)

 月に一度は女性社員が集まり、女性が働きやすい場所や環境、起業を目指している女性や先輩経営者の声が聞こえるイベントやネットワーキングを促すような動きも行っている。たとえばリーダーシップに関するワークショップを社内で開催するなど、サポートする男性社員も一部参加して相互の理解を深めているという。

「やってみると、男性がサポートできることっていっぱいあるんだなと。それぞれの悩みや問題を100%理解できるわけではないと思うんです。ただ、理解できてから……なんて言ってると何年たっても動かないですから」(長谷川氏)

“ガラスの天井”が意味するもの

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女性たちが社会に対して一歩踏み出すためには、いったい何が必要とされているのだろうか? 登壇したフェイスブック ジャパンの社内での多様性を推進しているダイバーシティ& インクルージョンチームの麗狗 乃美氏

 日本の民間企業において女性の総合職採用は一般的になった。ただ、管理職や経営層に起用される女性は希少である。欧米でも似たような状況ではあるが、比較すると追い付いているとは言いにくい。政府や企業がトップダウンの施策を打ち立て、20~30年前とは比べ物にならないくらい門戸は開かれているにも関わらず、残念ながら現場では男女共生を実感することが少ない。多くの働く女性は、男性社会の中で女性らしさも求められながら、耐性や根性で叩き上げられているのが現状ではないだろうか。

 このような上の世代の理不尽さや無力さを察知してか、はたまた昨今の予測不能な世相へのリスクマネジメントか、現在20~30代前半女性の考え方は想像以上にコンサバ化している。40代以上に比べると同世代の人口が半分ほどしかいない世代だ。モノや情報は十分にある。人が選ばない道を選ぶと、なにかと悪目立ちをしてしまう。社会進出や自立して稼ぐといったハードルの高さよりも、実家暮らし、若いうちの寿退社、専業主婦、スキルアップには興味がなく、転勤や出世は拒否、といった「安定重視」の選択肢に支持が集まり、もはや昭和時代への逆行感すらある。

 ここで思うことは、何もガラスの天井を誰もが突破する必要性はないということだ。全員が誰からも絶賛されるほど優秀である必要はないし、起業する必要もない。男性と変わらぬスタミナでバリバリ働くことが美徳ではないという点も、多様性の一つの視点だ。好きなことややりたいことが何かはわからないけれど、それでも自分らしい生き方はしたい、という思いをサポートすることが実際は求められているのではないだろうか。

55歳でも「女の子」として扱われる環境にいた若宮氏流の“ハック”

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「好きなことをキャリアに繋げる」をテーマに登壇した、フェイスブック ジャパン 広報部長・下村 祐貴子氏、83歳のアプリ開発者・若宮 正子氏、『日経DUAL』編集長・羽生 祥子氏(写真左より)

 イベントでは「好きなことをキャリアに繋げる」をテーマに、83歳のアプリ開発者・若宮 正子氏、子育てや介護など家族の生活と共にある働き方についてさまざまな提言やスタイルを紹介する『日経DUAL』編集長・羽生 祥子氏がディスカッションに登壇。P&G出身で家族と共に海外へ赴任しグローバルな働き方を経験しているフェイスブック ジャパン 広報部長・下村 祐貴子氏がファシリテーターとして壇上に登場した。

 若宮氏は60歳の定年後からPCを触り始め、Excelでアートを作る「Excel Art」を考案し79歳でTed Tokyoに登壇した。その後プログラミングを習得して81歳で日本初の高齢者向けゲームアプリ「ひなだん(hinadan) 」を開発。2017年にはアップル社主催WWDC(世界開発者会議)に最高齢プログラマーとして紹介され、現在は「人生100年時代構想会議」の有識者議員を務めている。

 若宮氏が銀行勤めをしていたのは戦後すぐ。お札は指で数え、そろばんをはじく。やりがいがどうとか好きかどうかじゃなくて給料がもらえるだけでありがたいという時代。早くて正確で文句言わない、ロボットに近い人が一番高い評価を得ていたという。

「昭和36年くらいに電気計算機というのが銀行にやってきたんです。その時、珠算一級の男の子の表情がサッと変わった。技術革新が来ることがわかっちゃったんですね。今、AIの時代が来ると分かっておじさんたちが内心思ってることと同じ」(若宮氏)

 このような技術革新による時代の変わり目は、進展するチャンスでもあると言う。

「どのみち仕事はロボットやAIが中心のやり方に変わるでしょう。すると高齢者・外国人・障がいの方も能力が活かせるようになる。テレワークが一般的になって、翻訳技術も進歩する。車いすでもどこに居てもいい。先日亡くなったホーキンス博士も車いすからは一歩も動けなかったけれど、頭の中に宇宙が入っていたわけですよね。動ける私たちよりもよっぽどできることが多い。女性もこれまで以上にチャンスです。心配するとしたらこれまで通りではいかなくなった男性で落ち込む人が出てきて、不機嫌老人になって(笑)周りに当たり散らしたりするんじゃないかと。それは何とか食い止めなくてはいけない」(若宮氏)

 年齢や性別をものともしないそのパワフルな活動は、“失敗しても失敗するまでの過程には学びがあるので、とにかくやってみよう”という彼女のポジティブな精神によるものだ。やりたいこと好きなことはあって、好奇心や物好きな情報発信型の異端者ではあったという。自分にしかできないこと、強みのカードを切るということは大切、という一方でこのようにも述べた。

「好きでもないけれど、やらなければいけない仕事というのはあるんです。やりたいことや好きなことを直結するだけでは組織がもたない。むしろ、やりたくないことをやらなければいけない人は幸運だと考えるべきです」(若宮氏)

 ビジネススキルの積み立て方を、OSとアプリにたとえてこうも述べた。

「たとえばOSとアプリがあるとしますよね。人間力はOSなんです。スキルはアプリ。OSの処理能力や容量がしっかりしていないとアプリも進展していかないじゃないですか。好きじゃないこともやりながら、人間そのものを形作っている。それは、やらなければいけないことなの。決して時間の浪費ではない」(若宮氏)

 女性は55歳でも“女の子”として扱われる環境にいたという若宮氏は、そこでどういうハックをしてきたのかもコッソリ教えてくれた。

「会議室に来てくれっていうから何を話すのかなと思って行ったんですよ。そしたら、コピー取ってきてって言うんです。それでもコピー取りながら資料の内容を一枚一枚見てると、いま会社の中で何が起きてるのか動きがだいたい見えちゃうわけですよ。まだあの会議やってるのか、何やってんだ、とか言いながら(笑)」

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ユーモアを交えながらも飾らないトーク。誰にどう見られるかより、自分のやりたいことをやってみたら今に行き着いた。お二人の経験談の中にはヒントがたくさん詰まっていた

【次ページ】 “ボーリングのガーターから始まった”『日経DUAL』編集長のキャリア

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