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- 2018/11/20 掲載
不動産テックのコンパス(Compass)、ソフトバンクが44億ドル出資する理由
コンパスは不動産販売の「エージェント」を支援する
不動産業界は全世界で実に217兆ドル相当の資産があると試算されるが、その取引のプロセスは属人的で、テクノロジーを使った生産性向上の取り組みが進んでいなかった。
この分野に情報技術の力を使って変革をもたらそうとするのが、2012年にニューヨークで創業されたコンパスだ。
コンパスの狙いは、不動産営業員の生産性向上にある。物件をWeb上で紹介するところから、物件の清掃を依頼するところまで不動産取引に関わる諸手続きをオンラインで簡潔に行えるようにする。営業員は、煩雑な手続きから解放され、物件の買い手との対話やニーズの聞き取りに集中できるようになる。
米国の場合、一般的に、営業員は成功報酬をベースに不動産会社と契約し、州から宅地建物取引の資格を得たプロとして「エージェント」業を営んでいる。日本のように不動産会社に属する固定給の社員が営業を行うわけではない。米国のエージェントは物件購入に至るさまざまなアドバイスや売り手との交渉で付加価値を発揮する。腕のいいエージェントは多額の収入を手にし、また、不動産会社から引く手あまたとなる。
こうした不動産取引のプロセスを考えると、エージェントの生産性向上は業界の改革、ひいては、消費者の満足度向上にも寄与する。たとえば、エージェントは物件の「売り出し中」という看板も自分で作成しなければならないが、コンパスでは、チラシやソーシャルメディアで拡散する画像の作成も含め、エージェントの仕事を総合的に支援する。いわば、エージェントの「働き方改革」を進める役割を担っている。
コンパスを使ってできること
コンパスのアプリには「コレクション」と呼ばれる物件管理の機能が提供されている。これは、買い手やその家族の興味に合いそうな物件を集めて紹介する、不動産版「ピンタレスト」のような仕組みだ。メッセージのやり取りをアプリ内で行えるため、Eメールなどを別途開く必要がない。さらに、売り主が価格を変更した際には、自動的に通知がなされるので、掲載状況を逐一追跡せずに済む。また、「インサイツ」はWebサイトやソーシャルメディア上での集客状況を分析する機能だ。マーケティング計画を適宜見直し、見込客の獲得を最大化する。同機能を毎日使用するエージェントは実に92%に及ぶという。
コンパスには「マーケティングセンター」というサービスがあり、印刷物やデジタルメディアに掲載する販促物のデザインを簡単に作成できる。わずか数クリックで高度なデザインが行えるのがメリットだ。コンパスのクリエイティブチームが作成と拡散を支援するサービスもある。
コンパスでは、契約したエージェントを支援する「コンシェルジュ」が選任される。コンシェルジュはITサービスの利用方法を説明したり、物件の掃除や塗装といったサービスを斡旋したりして、エージェントが買い手と向き合う時間を増やせるようにする。また、優れたエージェントは無利子ローンが利用可能であり、マーケティングや研修、採用やコーチングといった目的に使うことができる。
そのほかにも、市況データを確認するコンパス「マーケット」や顧客情報を一括で管理する「CRM」の機能もある。また、ロゴ作成、写真・動画撮影、ソーシャルメディア運営、Eメールマーケティングといった、エージェントの活動に必要なサービスが網羅されている。
4年で10億ドルの手数料収入を上げるまで急成長
コンパスのビジネスモデルは、基本的にはこれまでの不動産仲介業者と変わらない。エージェントが成約させた金額の15~30%がコンパスの収入となる。エージェントの仕事をスムーズに行えるようにする情報技術を売りに、優れたエージェントと契約し、都市部の高価格帯物件を手掛けてきた。その結果、わずか4年で米国20の都市に140のオフィスを構えるまでに成長し、2018年時点で所属するエージェントは7000を超える。成約額ベースでは2017年の148億ドルから、2018年の340億ドルへと増加している。コンパスが手にする手数料収入でも10億ドルを視野に入れているが、この急激な成長には買収によるものも含まれ、2018年8月にはカリフォルニア州最大の不動産会社Pacific Unionを買収した。
【次ページ】コンパスの成長を支える「あの会社」からの投資
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