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- 2017/12/18 掲載
不動産テックによって、なぜ市場の「断片化」が進むのか 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(93)
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家計の市場参入と市場のグローバル化
不動産業界が「装置産業」であった時代は、空き部屋の貸し出しといえば、学生街の下宿やひなびた町の民宿など細々とした小市場に過ぎなかった。
ところが、Airbnbのように、マッチング機能を低コストで提供するデジタル・プラットフォームが出現したことで、供給サイドの参入コストは劇的に低下し、家計部門から膨大な量の市場参入が相次いでいる。
他方、需要サイドでは、利用者のすそ野がグローバルに広がり、デジタル・プラットフォーム上の取引で、これまでにない多様な目的のニーズが需要として顕在化するようになった。
その結果、住居施設と宿泊施設の垣根はなくなり、埋もれていた資産が一気に再評価されて、古民家の活用など個性的なニッチ市場も生まれている。家計の参入と市場のグローバル化によって、供給面でも需要面でも従来の顔ぶれとは異なる膨大な数のプレイヤーが一気に登場し、全国津々浦々で活気ある多彩な市場が創出されているのだ。
情報が不動産の価値を左右する
2016年の訪日外国人旅行者は、10年前から3.3倍増加し2,400万人を越えた。2017年も1~10月累計で前年比18.3%増だ(JNTO[2017])。2020年の東京五輪を視野に入れると、その数は一段と増加するだろう。国境を越えたモビリティの高まりは「情報化のグローバル化」を特徴づける現象のひとつだ。人口減少下にある日本の不動産業界にとってこの大奔流は見逃せない。従来は、ヒト、モノ、カネが集積する都市部のさまざまな活動が情報を生み不動産の価値を高めた。
ところが、高い解像度の情報がグローバルに行き交う現在は逆の連鎖が生まれ、まずきめ細かな情報が先に動くことで「では、行ってみよう、買ってみよう、会ってみよう」と、ヒト、モノ、カネのリアルな活動が後から派生している。
つまり、情報が起点となってリアルな経済が動き、それが不動産の価値を動かす要因になっているのだ。「定住人口」は減少しても、情報で惹起される「交流人口」が不動産評価に影響を与えるという点で、マネタイズ(収益化)に情報を生かす新たなビジネスの発想が求められる。
モビリティ革命で境界がなくなる交流人口と定住人口
グローバルな「交流人口の拡大」は、居住地が必ずしも1か所とは限らない人口を増大させ、「モビリティ革命」を生んでいる 。この現象は、不動産の所有と利用のあり方にも深く影響するだろう。人々のモビリティが高まれば、1年365日を「同一住所」に定住する割合が低下するからだ。まして、生涯を通して同じ地に定住するような生き方は、今後ますます減少していくとみられる。
Manyika (2017)によると、2015年には世界で2億4,700万人が出生地とは異なる外国で生活しており、過去50年間で3倍に増加したとされる。このうち9割以上は自ら望んでの行動だ。
そもそも「定住人口」と「交流人口」は、区別はあっても境界は曖昧だ。日本の現状をみても、転勤族の一家、単身赴任中のビジネスパーソン、長期あるいは高頻度の出張者、親元を離れて暮らす学生、来日中の外国人留学生などは、実質的な活動拠点と名目上の居住地(戸籍や住民票など)が一致しないケースも多い。
こうした「滞在」は、数十年から数年、数カ月から数週間、場合によっては数日といった具合に、期間の長短があるだけで、どこまでが「定住」でどこからが「交流」かを明瞭に二分することは難しい。人はみな多かれ少なかれ定住者ではなく交流者なのだ。
居住地が定まらないと「住所不定」と否定的に認識されがちだが、実は、こうした人材は、意識の上でも実態上も地域やコミュニティの帰属先がただひとつではない「複数のアイデンティティ」を擁しており、地域社会にとっては多様性と活力をもたらす源泉だ。
【次ページ】複数のアイデンティティとデジタル化する不動産の関係
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