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- 2019/04/17 掲載
世界で高まる「不動産テック」投資熱、三井不動産・三菱地所・ソフトバンクの動きは
不動産テックとは何か
不動産テックは、賃貸・売買といった取引、資産管理といった業務、市場調査や鑑定といった評価の各場面に応じて先端テクノロジーを活用し、新たな付加価値を生み出す概念と言い表せる。たとえば、民泊ビジネスで一躍有名となったエアビーアンドビーは、自宅を貸したいホストと旅行などで滞在したいゲストをWebサイト上でマッチングすることで、これまで特定の世帯が永続的に占有していた住宅という空間を、旅行者の宿泊空間へと変身させた。これは住宅やホテルという存在の垣根を消失させるものであり、宿泊・観光業界のみならず各地の小売業や文化にも多大なインパクトをもたらした。
不動産テックとは、単にデジタルツールを活用して漸進的な業務改革をめざすものではない。新しいテクノロジーを活用することで、不動産に関連する事業や市場を変え、そして不動産に関わる人々の意識そのものを変革する。組織変革やビジネスモデルの転換に重点を置いた用語を使えば、デジタル・トランスフォーメーションをめざす動きといえよう。
世界、そしてソフトバンクの投資先は
英サヴィルズによれば、世界の不動産市場規模は217兆ドル。利益率で金融業に次いで2番目に高い産業となっている。その巨大さにもかかわらず、業界には情報の非対称性、労働集約型の産業構造など多くの非効率が温存されてきた。米コンサルティング会社PwCストラテジー&によると、不動産業界のデジタル化浸透度は運輸・物流業と同程度で、大半の産業と比較して遅れた立場にある。巨大で利益率が高く、かつ非効率な市場こそ、一般にテック企業の参入余地が大きいとされる。オンライン化される前の旅行業界や証券業界などが典型だ。野心に燃える起業家、投資機会に貪欲なベンチャーキャピタリストなどの顔ぶれが、次なるユニコーンを求めてこの業界に流入している。
米調査会社のCBインサイツによると、世界の不動産テック・スタートアップへの投資は年率180%のペースで増加しており、18年は44億ドル(約5000億円)を超えるのが確実だ。国別に見ると、世界最大の不動産市場である米国が約5割を占めた。
米国不動産テックのスタートアップを見渡すと、数の上で目立つのはリスティング(物件検索)サイト、小口投資家の資金を不動産取得・開発に投資するクラウドファンディング、不動産会社に業務支援ソフトを提供するマネジメントツール系不動産テックなどである。資金調達額ランキングの上位には、ウィーワーク、エアビーアンドビーを筆頭に不動産仲介会社のコンパス、買い取り再販事業を手がけるオープンドアなどの顔ぶれが並ぶ。
同国ではVC業界最大手のセコイアキャピタルや、有名スタートアップ・アクセラレーターのYコンビネーターなどが複数の不動産テック企業に出資。ここに来て、不動産テック専門アクセラレーターも相次いで設立されている。
数あるベンチャー投資家のなかでも、日本のソフトバンクの存在感は米国において群を抜いている。サウジアラビアの政府系ファンドなどと共同投資するビジョン・ファンドを中心に約150億ドルを投資してきた。
ソフトバンクグループの不動産テック企業への投資 (出典:Crunchbaseと各社報道を基に作成) | |
投資先 | 業態 |
WeWork | コワーキングオフィス |
View | 自動調光ガラス開発 |
WeWork China | コワーキングオフィス |
Katerra | ITを活用した建設会社 |
Compass | デジタル仲介 |
Opendoor | 住宅買い取り・再販 |
Housing.com | 住宅ポータルサイト |
Reonomy | 不動産データベース |
Fieldlens | 建設プロジェクト管理 |
Updater | 引越し手続き代行サービス |
OYO | IoTを採用したインドのホテルチェーン |
Prop Tiger | インドの不動産リスティングサイト |
最近では住宅買い取り再販大手オープンドア、オンライン型の不動産仲介会社であるコンパスへの大型投資が注目を集めた。中でも目立つのがコワーキングオフィス運営大手、ウィーワークへの投資だ。18年1月に実施した30億ドルの新株予約権の引き受けや、19年1月に発表した20億ドルの追加出資などを合わせ、すでに104億ドルを投じている。
【次ページ】三井不動産、三菱地所の不動産テック投資は?
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