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  • 2019/09/12 掲載

老舗の倒産が増加中のワケ、「皇室献上品」ブランドも“あぐら”をかけばこうなる

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厳しい競争を生き抜き、ブランドを守り続けてきた「老舗」。しかし今、老舗の倒産が過去最高を記録しているという。老舗はなぜ今、落とし穴にはまるのか──。中小企業30社の倒産劇をまとめた著書『倒産の前兆』、その執筆に携わった帝国データバンク 情報部の二人に話を聞いた。

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:阿部欽一

聞き手・構成:編集部 中島正頼、執筆:阿部欽一

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帝国データバンク
東京支社 情報部 情報取材編集課 課長
丸山 昌吾氏
警察官としての勤務を経て、93年に入社。横浜支店調査部に配属となり、約11年間にわたってさまざまな業界の企業に対する信用調査を実施。06年から横浜支店情報部に転じ、リーマンショック後の倒産多発時には数々の破綻企業の取材を行ってきた。13年から現職

生き残る老舗は「変化」している

──よくある倒産のパターンとして、老舗の倒産が挙げられています。一般的に、創業10年後の企業生存率が10%を切るといわれる中、厳しい環境を生き抜いてきた老舗が潰れるのは、どのような状況なのでしょうか。

丸山氏:本書『倒産の前兆』の中では、「日本一高い、日本一うまい」というキャッチフレーズで有名だった花園万頭の倒産を取り上げています。同社はいいものを作っていて、ブランド力もあった。

 足りなかったのは「変化」です。実は、多くの老舗と呼ばれる企業は、意外にも時代に合わせて変化しているんですね。

 和菓子屋であれば、嗜好の変化に合わせて味を変えていくなど、伝統のコアとなる部分は残しつつ、新しいファン、新たな需要を取り込むための変化に取り組んでいかなければならない。でないと、どんどんファンが離れていってしまいます。

──花園万頭の創業は江戸時代後期で、184年の歴史を誇っていました。世代を超えた愛され方も知っていたはずなのですが……。

丸山氏:1つには、洋菓子やコンビニスイーツの台頭といったビジネス環境の変化が、これまでより大きかったのでしょう。それに合わせて、消費者の購買スタイルも変わりました。

 たとえば、若い世代が仕事帰りに「自分へのご褒美」として少し贅沢なお菓子を買うとします。そのとき、わざわざ百貨店に出向くかというと、それはハードルが高い。家の近くのコンビニに行けば、そこそこのご褒美感を得られる美味しいスイーツが買えてしまう。やはり手軽さが重視される傾向はあると思います。

遠峰氏:花園万頭のメインは「箱買い」なので、量的に自宅用の需要にはなかなか応えにくかった。また贈答用としても、贈答の習慣そのものが衰退してきています。それによって売り上げが徐々に減っていったのでしょう。

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帝国データバンク
データソリューション企画部 情報統括課 課長
遠峰 英利氏
90年に入社後、93年、経理部から産業調査部へ異動。マーケティングサービス「ATTACK」業務に従事し、主に「倒産確率算出用マトリクスデータ」、「倒産予測値」を担当する。仙台支店の情報部長、横浜支店の情報部長などを務めた後、18年から現職。全社情報部門の統括業務に従事する

──ただ、花園万頭は日本一高い、でも日本一うまいという高級路線で、一見、コンビニの需要とは競合しないようにも見えます。

丸山氏:高級路線であるがゆえに、出店戦略も慎重にならざるを得なくなったと思います。客層が違うところに出店しても失敗しますから。ブランドイメージを守るため、出店の難しさもあったのではないでしょうか。

バブル期の「負の遺産」が足を引っ張る

──商品も、1つのヒット商品に甘んじることなく、いくつもの商品が好評を博していました。

丸山氏:花園万頭さんは、「ぬれ甘納豆」が一番売れていたと思います。そして、洋菓子などともコラボして商品開発に取り組んでいたようですが、売上の減少を補いきるまでにはならなかった。そして、ピーク時の売上高は47億円。老舗の饅頭屋としてはかなりの規模でしたが、かといって全国区の規模でもなかった。

──バブル期の過剰投資の負債もあったと聞いています。

丸山氏:バブルを経験した老舗企業の中には、バブル期に銀行から受けた過剰融資の返済に苦しむケースがあります。バブルが弾けたときに、当時の借入金が負担になって経営がおかしくなるパターンです。

遠峰氏:老舗の場合、土地、建物といった資産を保有している企業が多いので、当時はそれを担保に金融機関から多額の融資を受けるケースが多かったですね。

丸山氏:ですから、過去の負の遺産に加えて、これまで述べてきたような、高級路線を貫く中でスイーツ市場が変質してきた。「安く、手軽に買える」プチスイーツのような需要に取って代わられる中で、経営が徐々に苦しくなって倒産に至る、ということです。

老舗の倒産は、これからますます増えていく

──老舗企業の倒産に共通する、構造的な問題というのはあるのでしょうか?

丸山氏:老舗といわれる会社を対象にアンケートを取ると、自社の強みについて聞いた質問に「進取の精神」、つまり新しいものをどんどん取り入れていく文化を挙げる回答が多かったんですね。

遠峰氏:変化という意味では、創業から100年を超える老舗企業のうち、当時の本業から今の本業が変わっている会社というのが約7割だといわれています。創業当時の業態のままで今も続いている会社というのは実は少ないんです。

 そして、最も多い業種が「貸事務所業」、要するに不動産業なんですね。

──老舗で一番多いのが不動産業というのは意外です。

遠峰氏:これは、たとえば呉服屋で創業して、ずっとお店を出して事業を続けていたものが、やがて資産ができ、自社ビルを構え、その1階に店舗を入れて他のフロアを貸しているというケースです。

 そして、徐々に呉服の売上が下がっていって、今では不動産賃貸業の売上が多くなったというパターンが多いですね。

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『倒産の前兆』
(画像をクリックすると商品ページへ)
「あの時」気づいていれば……第一線の企業信用調査会社、帝国データバンクが見た、どこにでもある「普通の会社」の末路
──なるほど。やはり老舗といえども、変化を取り入れない企業は淘汰されていくのですね。

遠峰氏:我々が発表した最新の資料では、倒産件数が減少傾向にある中で、2018年度の老舗の倒産・休廃業・解散件数は465 件発生し、過去最多を記録しています。

 先ほど、老舗の業態は不動産が一番多いという話をしましたが、倒産した業種で最も多かったのが呉服店でした。それから、旅館の倒産も多かった。

 旅館もバブル期に、企業の大口利用に対応すべく積極的に設備投資をした業種ですが、最近は社内旅行そのものが減少傾向にあります。個人旅行向けに部屋を改装するとか、サービスを見直すといった変化に対応できず、負債を抱えて倒産するケースが多くみられます。

──他に、このタイミングで過去最多になった要因というのはありますか?

丸山氏:このタイミングというより、これからも増えていくかもしれません。老舗の倒産、あるいは廃業というケースは、この2、3年のトレンドではなく、大きな流れとして続いていくと思います。

──次の世代に事業継承ができないというケースもありそうです。

遠峰氏:そうですね。老舗は同族経営のところが多いですから、次代を任せる人材育成がなかなかできないケースもあるでしょう。

丸山氏:これは私見ですが、バブル後の「失われた20年」と言われる中で、経営者である親世代が儲かっていなくて苦しんでいる姿を見た子ども世代が、家業を継ぐことを敬遠するケースもあると思います。

遠峰氏:逆に、親の世代の方から「子どもに苦労させたくない」と家業を畳む決心をするケースもあるでしょうね。

【次ページ】室町から続く「皇室献上品」の老舗はなぜ潰れたか?

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