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  • 2020/01/15 掲載

企業が「クラウドサービスの契約」で注意すべき5つの重要ポイント-ガートナー海老名氏

マイクロソフトやSAPなどとどう交渉すべき?

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あらゆるソフトウェアで、クラウドは避けられない選択肢となったが、クラウドサービス、中でもビジネスソフトウェアを契約する際に、オンプレミスと異なる点があまり理解されていない。クラウド契約に当たって事前に準備すべきことと、ITリーダーが確認するべき5つのポイントをガートナーのバイス プレジデント, アナリスト、海老名剛氏が解説する。
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メガベンダーとクラウドサービスを契約するうえで確認すべきポイントとは?
(Photo/Getty Images)

インフラだけでなくソフトウェアもクラウドへ

 これまでクラウドといえば、インフラのイメージが強かった。実際、ガートナーが2019年5月に国内企業を対象に行った調査によると、ERPやオフィス系などのビジネスソフトウェアを「オンプレミスで使用している」企業はまだ約7割ある。

 しかし、ソフトウェアに関して「ITベンダーからクラウドへの変更を打診されたことはあるか」の問いに対し、「ある」と答えた企業は62%にも上る。この結果を踏まえ、ガートナーは「2021年までに、50%の組織において、クラウドやサブスクリプションの知識・経験が欠かせなくなる」と予測する。

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およそ62%の企業がクラウドへの変更を打診されたことがあるという
(出典:ガートナー)

 ITベンダーが、インフラだけでなくソフトウェアも合わせてクラウド化を推奨する理由は、将来の一定期間、確実な売り上げが立つことが大きい。メンテナンスも決まったタイミングで一斉にかけられることもITベンダーにとってメリットだ。

 所有権を持つ既存のソフトウェアをクラウドのインフラに乗せたいと考える企業も多いが、ITベンダーのビジネスモデルは、ソフトウェアもインフラも、すべてクラウドで提供していく方向へ舵は切られており、「今後IT部門は(インフラ領域だけでなく)ソフトウェアの領域も含めたクラウドの契約交渉力が問われるようになる」と海老名氏は指摘する。


契約交渉に臨むための事前準備

 ITベンダーと対等に交渉するためには、事前準備が肝心だ。海老名氏が主なタスクとして挙げたのは、「クラウド化の対象範囲の決定」「社内のクラウド需要の把握」「ITベンダーの調査・選定」「稟議プロセスの整理」「交渉担当の決定」「交渉時期・スケジュール策定」などで、これらの準備には概ね3カ月かかるとの目安を示した。そして実際の契約交渉には、3~6カ月程度かかる。

 クラウド化の対象範囲は、全社の業務プロセスに影響するもの、たとえばERP、HCM(人事管理)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、CRM(顧客関係管理)といったシステム、あるいはオフィス系などが管理対象となるだろう。

 グループ会社・関連会社、海外拠点まで含め、社内のどこにクラウドのニーズがあるかをすべて把握しておくと、契約締結までのプロセスをスムーズに進められる。

 海外拠点がある企業の場合は、その地域ごとに取引先が違うことがあり、本社のIT部門の知らないところで契約が結ばれてしまうケースもよくある。

「稟議を通す社内プロセスについては、それが事業部門や関連会社が起案したものであっても必ず本社IT部門のチェックが入るようにし、現場で勝手に契約されないようなルール策定が必要です」(海老名氏)

事前準備におけるITベンダーの調査と選定

 クラウドの時代になると、オンプレミス時代に主流だったSAPやオラクル、マイクロソフトなどの他にも選択肢となりうるプレイヤーが台頭してきている。

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メガITベンダーと新たなプレイヤーとの競合関係を知ると交渉が有利に運べる
(出典:ガートナー)

 社内の既定路線として、契約先は特定のITベンダーに決まっているケースは多いだろう。「しかしそうだとしても、他のITベンダーからも何らかの提案を受けていただきたい。その提案をもとに、よりよい条件を引き出す交渉ができます」と海老名氏は話す。

 さらに、ITベンダーの選定は交渉スケジュールとも関連する。日本では多くの企業が3月に年度決算を迎えるが、米国のIT業界、特にクラウドのITベンダーの決算月にはばらつきがある。SAPは12月、オラクルは5月、マイクロソフトは6月、セールスフォースは1月、アドビは11月といった具合だ。

 「ITベンダーの決算期を確認し、交渉のピークを年度の決算月に持ってくるよう逆算して計画を立てるとよいでしょう。複数ITベンダーとの交渉をする場合は、タイミングを合わせるのが難しいかもしれませんが、少なくとも四半期の決算月にピークを合わせていく想定で準備をしていただければと思います」(海老名氏)

交渉する上で重点的に確認すべき5つのポイント

 海老名氏は、実際の契約交渉を進める際に重点的に確認すべきポイントを5つ挙げ、適切な条件を引き出す施策について解説した。

確認ポイント(1):クラウド契約で取り交わされるドキュメント

 クラウドのITベンダーとの契約で取り交わされるドキュメントは、基本的にはオンプレミスの場合と大きな違いはない。マスター・アグリーメント(基本契約書)とオーダー・フォーム(発注書)、それに加えてSLA(サービスレベル合意)、セキュリティ・ポリシーの詳細を定める附属ドキュメントによって構成される。グローバルに展開しているITベンダーならたいていテンプレートを持っており、個々の顧客ごとに細かなカスタマイズをしていくのが一般的だ。

 スムーズにクラウドを導入するためには、「ライセンシー」「データセンター」「ITベンダー責任」「導入・移行優遇」のポイントを確認しておくべきだ。

 また、コスト最適化に直接的な影響を与える「支払い条件」「契約期間」、品質に関わる「保守計画・サービスレベル合意(SLA)」などを含めて基本契約書に記され、ユーザー企業はその内容を理解しておく必要がある。

「特に日本の企業では、クラウドというと『所与のもの』、交渉自体ができないと考えられがちですが、実際はそんなことはありません。テンプレートの内容を確認して受け入れられない点については交渉し、自社にとって適切な基本契約の合意を目指すべきです」(海老名氏)

【次ページ】確認ポイント(2):立ち上げ時の「つまづき」を招く要素

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