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- 2020/02/26 掲載
「ミュージックテック」展望 音楽のハードルは下がり、権利関係も解決するか?
楽譜はすべてタブレット1台に
ゲストパネリストとして参加したのは、さまざまな立場から音楽サービスを展開している3名。Piascoreの小池 宏幸氏は楽器を弾く人を増やしたいという思いからiPad/iPhone用の電子楽譜ビューアや電子チューナーを手がけている。クロスフェーダーの名波 俊兵氏は学生時代のダンス経験から、ユーザーが自身の動画を切り取り音楽にはめ込めるアプリ「ムビート」を展開。ANAGRAMの戸辺 タカトシ氏は、高校時代にクラブミュージックに傾倒し自ら作るようになり、そのときにできたクリエイターの友人たちを世に出したいという思いから18歳で起業。今はチームで音楽を制作している。ディスカッションのテーマは「音楽とテクノロジーの掛け合わせ」。技術の発展によりどれほど音楽の楽しみ方が変容したのか、未来はどうなるのか、が焦点になる。
鈴木氏は「僕らの時代は音楽を楽しむためにCDを買うのが普通でしたが、今はダウンロードが一般的ですよね」と語り、黒田氏も「たしかに、『初めて買ったCDはなんですか?』という質問は最近の子にはしなくなったような気がしますね」とうなずく。
「以前は楽譜は紙で持ち運ぶのが一般的でした。1曲分でもそれなりに重量があるので、演奏者がツアーなどをまわるとなると、かさばって重たい楽譜を大量に運ばないといけない。ですが今はタブレット1台あれば済んでしまう。データで保存できるから楽譜紛失もなくなります」(小池氏)
動画アプリ「ムビート」の開発に携わっている名波氏は、その技術についてこう語る。
「動画に音楽をつけるアプリはいくつもありますが、『ムビート』は逆に動画を切り取って音楽に当てはめる仕組みです。動画アプリ界隈の中では最速で編集ができると評判です。ボタンを押してちょっとだけ待てば出来上がる。ユーザーが簡単に使用できることを重視して開発しました」(名波氏)
また戸辺氏は、テクノロジーによる音楽業界の収益モデルの変化についても言及する。
「僕は音楽を作っている立場の人間なので、自分で曲を作って発表するときはSpotifyなどのストリーミング機能もよく利用するのですが、以前まではアルバムであったり、もしくは一曲単位での購入が多かったのですが、ここ2〜3年で急激にストリーミングの売り上げが上がってきました」(戸辺氏)
煩雑な権利関係もテクノロジーで解決?
冒頭の議論では、テクノロジーの恩恵が認められる一方で、音楽業界の収益モデルが抱えるボトルネックの存在も挙げられた。それがJASRACである。2000年半ばからJASRACの出現により音楽を気軽に使用することができなくなった上に、すべてを把握しきれていなかったり、値引き問題が発生したりなど、管理面での不十分な部分がある。鈴木氏も権利関係についてはひとつの課題感を抱いていたと語る。
一方で、戸辺氏はJASRACの功績や努力を認めながらも、権利関係の整理が不十分である状況はテクノロジーが解決していくかもしれないと答える。
「将来的に有望なのが、ソニー・ミュージックエンタテイメントが昨年発表しているブロックチェーン技術を用いた著作権管理サービスです。今まではどの結婚式でどの曲が何回使われたか、といったローカルな回数は厳密に測定することが難しかったのですが、ブロックチェーンやIoT、クラウドなどが進化してくると、今まで測定できなかった小さなケースもしっかりと把握できるようになるかもしれない」(戸辺氏)
【次ページ】日本で大規模な音楽サービスが興る可能性は?
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