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- 2020/01/24 掲載
ITベンダーとの交渉、「IT調達」で重要な10のポイントをガートナーが解説
まだ十分に活用されていない、有力な交渉材料
(1)競争(コンペ)シエンコフスキー氏は、「『競争(コンペ)』が過小評価されている」と話す。競合とのコンペは交渉の最も基本的な材料の1つであるにもかかわらず、使われていない。重要なのは「この取引は成立しないかもしれない」という可能性を残すということ。意中のベンダー、意中のサービスが決まっていたとしても、競争原理を働かせることは、交渉の基本である。
また、競争はベンダー間だけにあるものではない。あるベンダーが持つ複数のプロダクトの間で競争を促すことも可能だ。マイクロソフトを例に挙げよう。近年、マイクロソフトは顧客に「クラウドに移行してほしい」と考えており、実際に多くの企業が移行している。しかし、ユーザー企業側から「オンプレミスを維持する」と言えば、そこに競争を生み出すことが可能だろう。そして、クラウドへの移行にあたって値引きを引き出せるかもしれない。
(2)チームワーク
ベンダーの営業担当者は、交渉にあたってのトレーニングを受けており、また顧客について最新情報を得ている。また、多くの交渉経験を積み、誰が自分たちの味方なのかを明確に把握し、誰と交渉すればうまくいくのかを理解している。一方、ユーザー企業側のIT部門、あるいはITソーシング・調達部門は、バラバラで連携が取れていないケースが多い。そのため、ベンダーの営業はそこを突いてくることがある。
ある企業では、IT部門のオフィスに、ベンダーの営業担当者用の席を設けたことがあった。本来は社内ルールでも許されないことだったが、そのベンダーのプロダクトを使用していたことを理由に、特別に許可が出ていた。ベンダーの営業担当社員とランチに行ったり、スポーツイベントに参加したりと、とても密な関係を築くようになっていたという。
この件では、最終的にベンダー側の過信につながり、狙っていた案件は獲得できず、別のベンダーが勝ち取る結果となった。しかし、交渉の過程で社員から情報が漏れるようなこともあったという。
「ベンダーは、買い手のチーム内での不調和があると、それをすぐに察知し、その亀裂から情報を得ようとします。内部のコミュニケーションは内部に留め、チーム一丸となって1つのメッセージをベンダーに伝えることが重要です」(シエンコフスキー氏)
調達の鍵を握る「タイミングと在庫管理」
(3)タイミング交渉を行うタイミングも、見落とされがちな要素だ。すべてのベンダーには、売り上げのサイクルがある。往々にして、四半期または年度が締まる月に取引が集中するものだ。ベンダー側の営業担当者は「もう1件成約できるなら」と、買い手側にとってよい条件を提案してくる可能性もある。
メガベンダーの場合はなおさら決算月に取引が集中する傾向が如実に現れる。一方で、シエンコフスキー氏は「しかしそうなると、買い手に対して負に働く面もあります。取引が集中するので、間違いも犯しやすいからです。本来なら交渉に注力してもらえるはずが、繁忙期で手薄になる可能性もあります」とリスクがある点も言及した。
タイミング、つまり会計年度を意識して交渉を運ぶことは重要だが、買い手側も十分に時間を割くことができることを念頭に置いて、交渉のスケジュールを策定すべきである。
(4)既存在庫の最適化
実際に使っていないソフトウェアは、交渉によりベンダーに「下取り」してもらうことが可能だ。これは、お金に換えてもらうという意味ではなく、たとえば使っていないソフトウェアに対して支払っているサポート料をもって、別の使っているソフトウェアのサポートに当ててもらうといった対応のことだ。既存在庫の状況を整理しておくことで、新しく購入する際の交渉に活用できることは覚えておきたい。
しかし、シエンコフスキー氏は「既存在庫の最適化において最も大事なことは『すでに持っているものを買わないこと』です」と力説する。
「ソフトウェア、ハードウェアも含めたIT資産の管理においては、何を活用し、何を廃棄するのかのルールが必要です。それによって、在庫の有効活用を促すことがポイントです」(シエンコフスキー氏)。
【次ページ】ベンダーの希望と要望を把握する
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