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  • 2019/03/25

「攻めのIT経営銘柄」はどう選ばれている? 選定委員が解説するIT戦略と株価の関係

経済産業省・東京証券取引所が毎年発表する「攻めのIT経営銘柄」の選定委員の一人でもあるガートナーのマネージング バイス プレジデント・山野井 聡 氏が、IT戦略を社内外へ発信する際のポイントを解説。目指すべきIT戦略のあり方と、それを活用するIR活動の本質的な意義を問う。

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ガートナー マネージング バイス プレジデント 山野井 聡 氏

IT戦略が企業価値を高めるものなら、もっと発信していくべき

 経済産業省・東京証券取引所が共同で毎年行っている「攻めのIT経営銘柄」選定事業において、山野井氏は選定委員を務めている。

 「攻めのIT経営銘柄」とは、IT戦略に優れた企業、つまり株式銘柄を選定し、投資家に紹介する取り組みのこと。2014年に始まり、毎年5月に業界区分ごとに選ばれた「攻めのIT経営銘柄」と「IT経営注目企業」が発表される。

「ガートナーはここ数年、これからはデジタル変革が重要だというメッセージを発信してきました。IT戦略が企業価値を向上するものであるならば、自社の経営層、あるいは社外のステークホルダー、上場企業であれば株主や投資家に対しても、IT戦略をもっとアピールしてもよいのではないか。そのような問題提起から『IT-IR』という考え方が生まれました」(山野井氏)

 デジタル時代には、企業のIT戦略に関心を持つステークホルダーが、自社の経営層や事業部門のみならず社外の投資家にまで広がる。CIOをはじめとするITリーダーは、ITが企業価値向上に貢献するという事実を「啓発」する術を持つべきだというのが山野井氏の主張だ。

IR情報において、非財務情報がより重視される傾向に

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 山野井氏によると、上場企業のIT部門リーダーで、IR担当者と定期的にコミュニケーションをとっている人は「ほとんどいない」という。ITとIRは完全に離れた世界になっている。

 そもそも「IR(Investor Relations)」とは何か。山野井氏は、企業が経営状況や財務状況、業績動向に関する情報を用いて投資家と対話する活動、その仕組みであると説明する。

 発信する情報の構成要素として、ガートナーでは「ビジネスモデルと戦略」「市場評価」「サプライチェーン」「パフォーマンス」「セグメント分析」「サステナビリティ」「ガバナンス」「リスク」の8つの項目を挙げている。

 それらの情報を、速報性の高いものから、決算短信、有価証券報告書、中期経営計画、アニュアルレポート、統合報告書など、さまざまな形でまとめ、発信する。時間軸が長期にわたるものになるほど、財務情報ではなく非財務情報の割比率が高くなる。

「現在は財務情報だけでなく、中・長期的な企業の健全性を示す非財務情報が重視される方向へIR情報の内容が変わってきています。その最たるものが統合報告書またはアニュアルレポートです」(山野井氏)

IRにおける非財務情報とは何か

 非財務情報とはどんなものを指すのか。山野井氏は「戦略」「無形資産」「ESG」3つの軸を挙げた。

 「戦略」とは、経営理念・ビジョン、経営・事業戦略、ビジネスモデルなどのことだ。山野井氏によると、「投資家が最も重視するのは、ビジネスモデル」だという。また、経営トップのマーケットに向けた発言も投資判断に及ぼす影響が大きい。

 「無形資産」とは、人材、知財、ブランド、技術力、R&D、情報、テクノロジーなど。

 「ESG」は環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス要因(Governance)の頭文字を取った言葉である。企業がこれらとどのような関わりを持つのかという情報だ。

「リーマン・ショック以降、短期的な財務情報のみにフォーカスした投資行動の危険性が明確になった。そのため非財務情報を重視する風潮がグローバルの動きとして広がり、定着しつつあります」(山野井氏)

 経済産業省が2017年にまとめた『価値協創のための統合的開示・対話ガイダンスーESG・非財務情報と無形資産投資ー』は、非財務情報の重要性、投資家・市場との対話のガイドラインである。「この中でも実は、IT戦略は非財務情報として扱われている」と山野井は話す。

 投資家は企業価値を高める情報にアンテナを張っているが、では「企業価値」とはそもそも何か。

 有り体にいうと、ある企業を買いたいと思った時に「いくらで買えるか」ということだが、企業価値算定の仕方にはいくつかパターンがある。

 1つは、将来生み出されるキャッシュ、すなわちフリー・キャッシュフローを現在価値に割り戻した時にどれくらいの価値があるかを算定する方法。

 あるいは、シンプルに「株式時価総額+負債」の合計を見る、同業種上場企業の財務指標と比較して類推する、貸借対照表の資産合計を見るといったパターンがある。

 「企業価値に貢献するIT、あるいは企業価値を高めるデジタル戦略という文言をIRに明記するなら、具体的に企業価値とは何かを明確にしておく必要がある」と山野井氏は話す。

投資家は、IT戦略のどこに興味を持っているか

 山野井氏が選定委員を務める「攻めのIT経営銘柄」の選定においては6つの視点で銘柄を採点しているという。具体的には以下の6つだ。

  1. 経営者・経営計画におけるIT戦略の位置付け
  2. IT戦略・施策の要諦
  3. 推進体制・IT人材育成
  4. 下支えするIT基盤の整備
  5. IT投資評価&PDCAの仕組み
  6. ROE(株主資本利益率)

 2018年は500社近くの企業が応募し、山野井氏を含む8人の選定委員により「攻めのIT経営銘柄」として32社、「IT経営注目企業2018」には22社が選定された。

「ただ、選定委員を4年務めさせていただいていますが、そもそもの疑問をずっと持っている。それは『IT戦略が優れていれば株価は上がるのか?という疑問』です」(山野井氏)

 経済産業省・東京証券取引所の資料を見ると、「攻めのIT経営銘柄」に選定された企業の株価の推移は日経平均を上回っていることは確かである。ただ、相関はあったとしても因果関係はあるのか。

「正直にいえば、IT戦略が貢献できる対象はあくまで企業の業績、いわゆるファンダメンタルズだけです。本来、株価には景気、政局、為替、金利などさまざまな要素が影響するため、IT戦略の影響はごく一部に限定されると言ってよいでしょう。しかも短期的に影響するかというと、やはり中期的な投資判断指標になります」(山野井氏)

 山野井氏はさらに「投資家は企業のIT戦略にはほとんど注目していない」と続ける。やはり投資家の関心の第一は財務情報なのだ。

 その上でさらに比較評価をする上で見られる非財務情報の1つがIT戦略だということになる。そして、その比較評価の際に、IT戦略が「比較しやすい」指標になっていないことが、投資家の目を引かない1つの要因となっている。

「投資家はさまざまな指標、インデックスを集めて比較検討します。決算短信から統合報告書までさまざまなものがある中で、IT戦略が分かりやすく分離明記されているケースはほとんどありません。だから、投資家はIT戦略に興味がないわけではないが、比較評価する術がないため“分からない”というのが正確なところでしょう」と山野井氏は話す。

 そのような状況下で、投資家がIT戦略への関心を持つとしたらどのようなケースが考えられるのか。山野井氏は3つのポイントを挙げる。

 1つは、持続的にキャッシュを生む「仕組み」との因果関係が明快である場合。2つ目は、IT戦略がESG関連の取り組みへ貢献しているケース。3つ目は、経営者がマーケットに対してIT戦略を明確に発信している場合だ。

 「IT-IRにおいては、ITリーダーがこれら3つの観点をいかに発信し、投資家に伝えていくかが重要になる」と山野井氏は語る。

【次ページ】投資家がIT戦略に関心を持つ「3つのポイント」

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