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  • 2020/04/23 掲載

製造業は新型コロナとの共存を見据えた「リスク回避型バリューチェーン」を構築せよ

【緊急連載】コロナショック復興計画

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世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス。同ウイルスとの戦いが長期化するという見通しの中、多くの製造業でサプライチェーンの分断化による生産停止など多大な被害が発生しています。悲惨な状況下でも生産を止めないためのリスク回避策に乗り出す企業も増えています。今回は実際に検討を進めている製造業の参考となるよう、各社の復興計画の具体例などを紹介します。

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎

フロンティアワン 代表取締役。 同志社大学工学部化学工学科卒業(生化学研究室)、1989年米国総合化学デュポン社(現ダウデュポン社)入社、1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(組立工場、化学プラントなどの業務知識・経験)、基幹系(ERP/SCMなど)、クラウド(エンタープライズ系:PaaS、SaaSなど)、製造現場システム(MES/MOM/IoTなど)の調査・企画・開発・導入の支援に携わる。一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)のサポート会員であり、IVIのエバンジェリストをつとめる。

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世界中で130万人以上が感染し、8万人以上の死者が出ている新型コロナウイルス(2020年4月8日現在)
(Photo/Getty Images)
連載一覧(※この記事は中編です)

コロナショック長期化を見据えた「リスク回避型バリューチェーン復興計画」

 前回に引き続いて、新型コロナウイルスによる製造業への影響を踏まえたコロナショック以降のものづくり復興計画をテーマとして、その動向と対策について解説します。

 さて、コロナショックによる影響がサプラチェーンの分断を招き、全世界の経済活動に多大なる被害を受けています。日本では、タイミングも悪く年度末3月という節目のタイミングで多くの売り上げがストップしてしまいました。

 多くの製造業では、届かない部品が理由で製品生産が完了できず、大量の仕掛品を抱えて期末を迎えることになりました。新年度の4月に入っても、必要な部品がそろわず生産が止まる工場が続発して状況はさらに悪化しています。長期化すれば、資金繰りや賃金支払いに影響が出てくると思われます。

 今回は、コロナショックが長期化すると想定し、新型コロナウイルスとの共存を見据えた「リスク回避型バリューチェーン復興計画」をご紹介いたします。

3拠点体制は「チャイナ・プラスワン」から「ジャパン・プラスツー」戦略へ

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 前回もお話した通り、復興計画の骨子は「3拠点生産体制」を速やかに再構築することです。これは、米中貿易紛争によって中国から米国への輸出に高額の関税がかけられるのを回避する目的で策定された「チャイナ・プラスワン」戦略をベースとしています。新型コロナウイルスとの長期戦を考慮した復興・成長戦略です。

 3拠点とは、日本と中国、そしてアジア新興国(プラスワン)による役割分担と相互補完による取り組みとなります。これは「チャイナ・プラスワン」から「ジャパン・プラスツー」戦略への転換となります。

 この戦略における国内工場の役割は「リスク回避型ノックダウン生産工場」となることです。ノックダウン生産とは、製品を構成する全ての部品を輸入して、これを組み立てて現地(消費地)で販売する方式です。製品によってはキーパーツのみを輸入し、その他部品は現地調達して製品として組み立てる場合も考えられます。

 ここでは、国内工場の役割として「リスク回避型ノックダウン生産工場」という言葉を用いています。その意図は「すべてのキーパーツを内製化できる国内工場を作る」ということにあります。

 今回のコロナショックでは、サプライチェーンが分断されたことで必要となる部品がそろわないため製品が作れず、仕掛品が大量に工場で死蔵される事態が生じました。製造業では、たった1つの部品がそろわなくても製品として完成できませんでした。製品を出荷できなければ、売り上げを計上できずに業績に大きなインパクトを与えてしまいます。これが、この3月末に発生した製造業の大惨事です。

コマツやダイキン工業などが実施するリスク回避策戦略へ

 建設機械大手のコマツは、中国からの部品調達を日本やベトナムからに切り替えました。また空調機器大手ダイキン工業は、中国からマレーシアへ代替生産に切り替えると報道されています(日本経済新聞 2020年2月15日記事)。

 このように「代替生産」という判断を直ちに行動に移したメーカーもいます。当然のことながら、「生産を止めない」という想定で代替生産というリスク回避策が用意されていたからこそできることです。つまり、国内工場の最も重要な役割は「どんな状況でも、生産を止めない」ということに尽きます。

 3拠点生産体制の日本工場では、「生産設備が常に使えること、必要な労働力が確保できること、そして製品に必要なキーパーツをそろえられること」が必須となります。コマツのケースでは、部品在庫を確認して生産可能な工場へ送る手配をしています。しかし、これでは部品在庫が尽きるまでのわずかな時間を稼ぐだけで生産は継続できません。長期化すれば、いずれ部品が足りなくなり生産は止まります。このリスクにも対応できる対策が必要となります。

部品在庫不足のリスクを回避する最善策とは?

 その解決策として注目すべきものとして「AM(積層造形)技術」があります。つまり、3Dプリンターを使って不足する部品をゼロから生み出せる仕組みが必要となります。具体的には、リバースエンジニアリングによる既存部品の解析を起点として、AM技術を活用して代替部品を造成するという手法です。このようなAM技術は、樹脂AMでは米ストラタシスなど、金属AMでは国内企業のソディックや米GEアディティブ(コンセプト・レーザー)が先行しています。

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ソディックの金属3Dプリンター「LPM325」
(出典:ソディック報道発表)

 既に大手商社系企業とAM技術を持つAM対応工場が協力した取り組みを始めています。AM対応工場には、リバースエンジニアリングを行うために必要な3D測定器や検査装置と、ここから得たデジタルデータからキーパーツを造成する3Dプリンターであらゆる部品を短時間で生み出すことが可能です。

 この先行事例としては、米国海軍の空母や工作艦では3Dプリンターを使って航空機のサプライパーツの製造が挙げられます。これによって、何万点にもおよぶ補修部品の在庫を持たなくても、必要な時に必要な部品だけを作れるので長期間無補給で製造が可能となります。

 AM技術のメリットは、再びサプライチェーンが分断されてもデータだけを他工場に送れば同等の製品を現地で造成できることです。AM技術のデジタルデータによってリスク回避能力が向上します。

【次ページ】国内工場が稼働しているという絶大な安心感を

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