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  • 2020/06/18

なぜ日本の家は「働きづらい」のか? 今こそ「住宅政策」を見直すべきワケ

新型コロナウイルスをきっかけに多くの企業がテレワークを行ったが、コロナ後も多くのビジネスパーソンがテレワークの継続を望むなど、予想よりもスムーズに移行が実現できている。一方で、住宅環境の面から課題があると考える企業も多く、標準的な業務形態として定着するのかは何ともいえない状況だ。日本人は住宅が狭く環境が悪いことは仕方のないことと考えているが、それは正しい認識とはいえない。日本の住宅環境が悪いのは不可抗力ではなく、日本の商習慣と住宅政策がもたらした人為的なものである。テレワークへの移行が国民的なテーマとなった今、見て見ぬフリをしてきた住宅問題についても本格的な議論が必要だ。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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テレワークを恒久的な制度として定着させる場合には、住環境の問題について避けて通ることはできない
(Photo/Getty Images)
 

日本の住宅が狭いのは不可抗力ではない

 クラウドソーシングなどを手がけるクラウドワークスが行った社内調査によると、テレワークによって生産性が向上した社員は59.4%と6割近くに達した。コミュニケーションに制限がある状況を考えると、まずまずの結果といって良いだろう。

 ただ、場所や設備といったハード面については少々課題があるようだ。場所について「満足」と回答した人は47.3%、設備については「40.6%」だった。14.5%が場所について、31.5%が設備について「満足していない」と答えている。

 日本経済新聞社が管理職らに対して行った調査でも、大企業の46%、中小企業の43%が「在宅勤務で生産性が落ちる社員がいる」と回答している。生産性が落ちた理由ははっきりしないが、住宅の環境が影響した可能性について排除できないだろう。

 個人で書斎を持てるような人は少数派なので、多くのビジネスパーソンが自宅内で工夫を重ねて仕事場所を確保していると考えられる。もし、テレワークを恒久的な制度として定着させる場合には、住環境の問題について避けて通ることはできない。

 日本では、住宅が狭く環境が悪いことは不可抗力と考える人が圧倒的に多いが、これは単なる思い込みである。日本の住環境が悪いのは、ほぼすべて人為的なものであるといっても過言ではない。

 「日本は土地が狭いので、広い家を作れない」という話は、あたかも常識のようになっているが、これはまったくの誤りである。東京都心の人口密度は、パリやニューヨークの中心部と比較すると半分しかない。

 東京の人口密度が高いとされるのは、行政区など人口動態とは無関係のエリアで比較した場合であって、都市としての東京は実はスカスカなのである(千代田区や港区には依然として古い木造の戸建て住宅が多数、存在しているが、パリやニューヨークではあり得ない。この事実ひとつとっても、東京の人口密度が低いことが分かる)。両都市に行ったことがある人ならよく分かると思うが、街の真ん中にもたくさんの人が住んでいる。

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東京都心の人口密度は、パリやニューヨークの中心部と比較すると半分しかない
(Photo/Getty Images)
 

日本と諸外国は気候が違うので比較できないという話はウソ

 戸建て住宅も含めて日本の家が狭く、環境が悪いのは、日本の住宅政策によるところが大きい。

 たとえば米国では、都市部と郊外においてそれぞれ異なる住宅政策を実施しており、都市部では賃貸用集合住宅の整備を、郊外では戸建て住宅の品質維持を重視している。同国における住宅の品質は極めて高く、築100年の物件でも普通に売買されており、築年数は物件価格にほとんど影響しない。30年も経過すれば半ば朽ち果て、建物の価値がほぼゼロになってしまう日本とは大きな違いである。

 欧米各国(米国、英国、フランス)で売買される住宅の6~9割は中古だが、日本は全く逆で8割以上が新築物件である。日本はもともと貧しく近代的な住宅の絶対数が少なかったことに加え、景気対策を最優先し、新築住宅の建設を過度に優遇したことから、安価で粗悪な新築物件が大量供給されてしまった。このため長期にわたって価値を保てる良質な住宅の整備が進まず、造っては壊し、また造っては壊すという資源の浪費を続けてきた。

 日本の住宅の断熱性能が著しく低く、冷房や暖房のエネルギーをムダに捨てていることは住宅業界では常識だが、これも低コストで粗悪な住宅の建設を続けてきた結果である。

 この手の話をすると、日本と欧米では自然環境が異なるので同じ条件で議論はできないという意見が出てくるのだが、こうした意見を声高に主張する人たちというのは、ほぼ100%、欧米各国の住居事情を知らないと断言してよい(諸外国の事情を知らないのになぜ日本と諸外国は違うと断言できるのかはまったくもって不明である)。

 そもそも自然環境が違うというのは、何がどう違うのだろうか。米国を例にとってみよう。一口に米国といっても、それこそ気候はさまざまである。湿度、温度とも快適で過ごしやすいロサンゼルス(カリフォルニア)、四季があり日本と似たような気候を持つ東部から中西部にかけての各都市、砂漠が続き極めて湿度が低いラスベガス(ネバダ)、日本と同等かそれ以上に高温多湿で不快なオーランド(フロリダ)、夏は涼しく冬はかなり冷え込むデンバー(コロラド)など千差万別であり、場所によって環境が違うのは当たり前のことである。

 だが米国ではどこに行っても、家の構造はほぼ同じであり、一定の住宅品質が確保されている。結局のところ人間にとって住みやすい家という条件は、気候によって大きく変わるものではないのだ。「日本の気候は他とは違うので云々」という話は完全な思考停止と考えて良い。

【次ページ】各国の住宅政策を比較、なぜ欧米では立派な家に住めるのか

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