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  • 2020/07/28 掲載

「都心で働く価値」に疑問、地方への「U・I・Jターン」加速条件がそろったか

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コロナ禍を経験し、大都市圏で働く人の間で、地方への移住を伴う就職である「U・I・Jターン」への関心が高まっている。地方創生を掲げる国の財政支援を受けて振興策をとってきた自治体にとって、「働く人のマインドの変化」はチャンス到来と言える。自治体はU・I・Jターン者を獲得し、地域活性化につなげたいところだが、どのような振興策に取り組めばよいのだろうか。地方自治政策を専門とする関東学院大学法学部の牧瀬 稔准教授は「自治体横並びでは結果は期待できず、行政手腕が問われる」と指摘する。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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「Uターン」「Iターン」「Jターン」に関心が高まっている

コロナで変わった「地方創生」の風向き

 2020年6月12日、「2020年(令和2年)度 第二次補正予算案」が国会で可決された。その目玉の1つが「新型コロナウイルス感染症対応地方創生交付金」(同年4月に国会で可決)だ。

 新型コロナウイルス対策に奔走する地方公共団体の取り組みを支援する同交付金については、今年度予算枠が第一次補正予算の1兆円から3兆円へ3倍に拡大されたが、これは全国知事会などの強い働きかけによって実現した。コロナ対策の経済政策を打ち出そうにも財政難が足かせだった地方自治体にとって、国からの交付金増額は歓迎だろう。

 国会では同じ6月12日、「改正金融機能強化法」も可決された。その主目的は地方銀行支援の強化で、公的資金注入の15兆円枠が「半永久化」した。金融機関が公的資金を受け取りやすくなったことで資金繰り支援体制が整い、コロナ禍で苦しむ地方民間企業にとっては雇用確保への強い後押しになる。


 今回のパンデミックは、安倍内閣が旗を振ってきた「地方創生」の芽を摘むかと思われたが、それを逆手にとって地方経済の振興や、長らく日本の国土政策の基本理念とされてきた「国土の均衡ある発展」をより一層推進させようという政府の意図がうかがえる。

【調査】高まる「U・I・Jターン」への関心

 さらに、働く人の意識もコロナ禍を経験したことで「地方」に向いてきた。

 20代専門の転職サイト「Re就活」を運営する学情は、2020年4月から5月にかけて、その新規会員登録者を対象にアンケート調査を実施している。その中で「U・Iターンや地方での転職希望」に関して調査したところ、「Yes」と回答した比率が2020年4月の集計で36.1%と3分の1を超えた。同年2月の集計では21.8%だったので、2カ月で14.3ポイント、65.6%も伸びたことになる。

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U・Iターンや地方での「転職希望者の比率の推移」と「転職希望に対する意識」

 また、同アンケート調査で4月に「新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の発令を受けて、地方での転職への意識に変化はありましたか?」と質問したところ、全体の3分の1を超える36.6%が「より地方での就職・転職を希望するようになった」「どちらかというと地方での就職・転職を希望するようになった」と回答した。

 「Uターン」は、自分の生まれ故郷の市町村に戻って働くことを指す。「Iターン」は、生まれ故郷でもその近くでもない市町村に行ってそこで働くことを指し、「Jターン」は、生まれ故郷ではないものの、県庁所在地や地域の中心都市などその近くにある市町村で働くことを指す。たとえば、首都圏に住む広島県の山間部の出身者が広島市や福山市の周辺で働き始めたら、Jターンになる。

働く場所が都心である意味とは? 若者のマインドに変化

 今年を振り返ると、2月は中国の武漢市や横浜港の豪華客船での新型コロナウイルス感染拡大が大きなニュースになっても、日本人はやや「対岸の火事」視しているムードがあったように思える。しかし、4月以降に国内感染者が増加して政府が緊急事態宣言を発令、学校は休校になりイベントは中止が相次いだ。東京オリンピック・パラリンピックも1年延期を余儀なくされた。「Stay home」の呼びかけで、企業には在宅勤務が要請され、大きな不安が日本列島を覆っていた。

 それらが、過密な大都市圏に住む20代の転職希望者の意識を「地方」に向けさせることになったと調査結果からうかがえる。

 4月のアンケート調査では「U・Iターンや地方での転職を希望する理由」も選択肢を設けて尋ねており、「地元に帰りたいから」「都市部で働くことにリスクを感じたから」「地元に貢献する仕事をしたいと思ったから」という回答が上位を占めた。

 さらに、自由回答で「地方での就職・転職を積極的に希望する理由」を問うと、「『三密』を避けたい」「人口密度の高いところを避けたい」など、大都市圏の人口過密を問題視する回答が目立ったという。「人との出会いの場が多い」など、魅力でもあったはずの人口集中が、コロナ禍で自分の命に関わるようなリスクと認識し、大都市圏脱出を志す20代が確実に増えている。


 「働く場所は過密な大都市圏にこだわる必要はないのではないか?」というマインドの変化は、何十年も前から「減少する人口をU・I・Jターンで呼び戻したい」と願って、さまざまな政策を打ち出してきた全国津々浦々の市町村にとっては絶好のチャンスが到来したと言えるだろう。

 地方自治政策が専門の関東学院大学法学部の牧瀬 稔准教授は、コロナ禍で在宅勤務が増えたことで、多くの人の視点が「家庭」や「地域」の再発見に動きつつあると指摘する。

「私たちの志向が家庭や地域など足元に向き、継続的に続くなら、Uターンの前の段階で地域から出ていかない『転出抑制』につながります。たとえ地域から転出しても、Uターンで戻ってくる可能性は高まります」(牧瀬准教授)

【次ページ】好条件がそろった、U・I・Jターンに有効な自治体の政策とは

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