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  • 2020/08/18 掲載

存続か廃業か苦境の中小アパレル、新興テック「シタテル」は業界の救世主となるか

【連載】成功企業の「ビジネス針路」

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新型コロナウイルスの感染拡大により、ビジネスモデルの変革を迫られる企業は少なくない。こうした中、事業の見直しを進めるうえで、他社のビジネスモデルの事例を学ぶことは意義のあることだろう。今回は、アパレル業界の課題克服に挑むシタテル(熊本市)のビジネスモデルを紐解く。

執筆:経営コンサルタント 清水大地

執筆:経営コンサルタント 清水大地

MIRARGO Director
野村総合研究所、アクセンチュアなど、14年以上に及ぶコンサルティングと実行・執行支援の経験を基に、現在はスタートアップの経営支援を中心に、日本社会の更なる飛躍を目指している。共著に「時間消費で勝つ」(日本経済新聞社)、「経営コンサルタントが読み解く 流通業の「決算書」」(商業界)など

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小さな企業が多いアパレル業界には、従業員の賃金を減らして、なんとか生き残ってきた企業が少なくない
(Photo/Getty Images)
 

アパレルは従業員の“低賃金化”で生き延びてきた業界?

 アパレルメーカーの国内生産拠点が、廃業の危機に瀕している。一般的に、アパレル業界は、「素材(糸・生地など)の生産→染色→縫製→販売」といった流れをとり、それぞれの工程を分業している。このうち、縫製については、小さな工場が各地に分散する形で産業として成り立っている。

 業界全体で見ると、海外生産の拡大やグローバルアパレルメーカーの台頭による低価格化の流れを受け、国内生産は減少。さらに小さな企業が多いアパレル業界には、生産性を高めるための設備投資や近代化もままならず、従業員の賃金を減らして、なんとか生き残ってきた企業が少なくない。

 もう1つアパレル業界の特徴を挙げるとすれば、「季節性」が挙げられる。季節ごとにトレンドに合わせた新商品を展開するため、商品供給側としては繁閑差が激しくなりがちなのだ。こうした事情も、国内生産拠点が設備投資に踏み出しにくい要因と言える。

 つまり、グローバル競争の中で、小資本性と季節によるブレの高さから、近代化による高付加価値化・生産性向上は進まず、低賃金化により生き長らえてきたため、働き手としての魅力は低くなり、縮小均衡を重ねてきた。これが国内生産拠点の現状と言える。

ラクスルのモデルは、アパレル業界を救うヒントになるか

 もし、国内生産拠点をフル稼働することができ、生産が平準化されれば、負のスパイラルを止めることができるかもしれない。

 こうした、小資本性と季節による生産のブレの高さなどによる「負のスパイラル」を解消するビジネスモデルは、他業界でも散見される。たとえば、印刷業界だ。印刷事業者は大規模な印刷機器を持たないと事業ができず、印刷をする時以外は印刷機器も休んでいる状態であった。この隙間時間を活用し、安価なサービス提供を可能としたのが、印刷・流通大手のラクスルである。

 ラクスルは印刷機器という固定資産を持つ小規模な印刷会社を束ね、発注者の印刷ニーズに最も合った事業者をマッチングさせるビジネスであり、このモデルを武器に、印刷以外にも動画制作など、事業の幅を広げている。アパレル業界においても、同様の取り組みの可能性はないのだろうか。

 以前から、アパレル業界では「小規模ながら、オリジナリティの高い服へのニーズ」、いわゆる「小ロット・OEM(相手先ブランドによる生産)生産ニーズ」があった。このようなニーズに応えるべく、さまざまな企業が対応を進めてきたが、特にコストの問題から、広く普及しているとは言い難い(図表1)。

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図表1:小ロットに対応するOEM/OEMベンダー
(出典:各種資料を基に筆者作成)


 また、印刷業界とは異なりアパレルの場合は、商品の企画や仕様を固めるためには職人の技を借りる必要がある。ほとんどの場合は、発注者側にアパレルの知識はなく、そのため、職人など専門家の力を借りなければ、企画の具体化やサンプル作成などが困難になる。また、新たに商品の生産を発注する際、素材メーカーや縫製工場の得意・不得意を熟知した上で、発注者とマッチングさせる必要があるのだ。

 これらの難しさを乗り越えることが、アパレル版ラクスルを実現するための条件と言えよう。

アパレル版、リクナビの「リボンモデル」とは

 こうしたアパレル業界の課題の解決に動き出した人物がいる。それが、シタテル(熊本県)の創業者河野秀和氏だ。

 同氏は、外資系金融業界を経て、2014年にシタテルを創業した。アパレルに関与していたわけではないが、地元熊本にてコンサルティングに従事する中、さまざまな中小企業が事業の継続、そして事業承継に苦しむ姿に直面し、テクノロジーの力で解消できないかを考えるようになった。さらに37歳の時、熊本のアパレルショップでアパレル業界が直面する「負」のスパイラルを知り、解消に向け立ち上がる。

 いまだ、解決できていないアパレルの伝統的な「負」を解消するため、はじめに点在する国内生産拠点と川下(ショップ、ユーザーなど)をつなぐプラットフォームの構築を行った。これは、「服を作りたいという」ニーズと、「服を作れる・創れる」というニーズをマッチングするビジネスである。

 服を作りたい人は、シタテルのプラットフォームに会員登録し、その後、シタテルのコンシェルジュがヒアリングを通じて「作りたい服」を具体化させていく。シタテルには縫製工場だけでなく、デザイナーやパタンナーなど、企画の具体化を実現させるさまざまな専門家と連携が可能となっている。その後、生産先を選び、工賃や納期などを確認の上、サンプル作成を実施、実物を確認の上、生産を進める流れとなる。

 このビジネスが成立するには、まず供給者の数とバラエティの豊富さが重要になるほか、需要者を増やすことがサービス全体の魅力を高めることにつながる。同ビジネスモデルは、リクルートが提唱したサービスモデルの1つであり、サービスの顧客がカスタマーとクライアントの両面に存在する、いわゆる「リボンモデル」にあたる。そのため、シタテルのビジネス成立においても供給者の開拓が重要であった(図表2)。

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図表2:リボンモデル
(出典:各種資料を基に筆者作成)


 ここで1つ、難しさがある。アパレルの供給者側にあたる縫製工場は、中小・零細企業が多く、その多くはホームページすらなく、場所も地方に点在しており、これら企業の開拓には大変な労力を要すことだ。

 そこでシタテルは、地方に点在する生産拠点に泥臭く往訪し、サービスの内容に納得してもらい、登録数を重ねていく地道な取り組みを行った(図表1のStep1にあたる)。


 シタテルの現取締役の鶴征二氏は、リクルートエージェントの出身であり、若くして営業企画の責任者を務めた逸材であり、前述のリボンモデルを知り尽くした人間と言える。創業間もないシタテルに参画した時から、営業を担当し、このモデルの強化がなされてきたと言える。

【次ページ】アパレルの先駆者たちは何を間違えたのか

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