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- 2020/10/01 掲載
今後起きる「シニア争奪戦」、企業側の勝負は「これから2~3年」だ
シニアの活用・採用を試行錯誤する時代が到来
令和の時代、少なくとも2020年代は、日本の企業にとって新たな「シニアの活用・採用」を試行錯誤する時代になるのではないか。「少子高齢化で若者が減っているからシニアを雇わざるを得ない」
「60歳から年金がもらえず働かなければならないシニアの働き口が必要」
「法律で60歳での定年退職をさせられなくなったから雇い続けなければならない」
といった具合に、企業にとって「シニアの活用・採用」が必要なのではなく、仕方なく活用するだけではといった声も聞こえてきそうだ。確かにシニア人材の採用や活用は上記のようにネガティブな理由で行われることも少なくない。
しかし、辞めることを前提として、給料の安い若者を大量に採用するような人事戦略が有効だった時代は、とっくに過去のものになっているのも間違いない。
今回はなぜ企業は今後「シニアの活用・採用」を推進する必要があるのか。「シニアの活用・採用」を進める企業にはどんなメリットがあり、進めない企業にはどんなデメリットがあるのか。もはやシニア層だけの話にとどまらない、企業の人事戦略への大きな影響を語っていきたい。
企業の努力義務となる70歳までの就業機会確保
新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の経済に多大な影響を与え、日本の労働市場についても、これまで売り手市場だったものが、内定取り消し、派遣切り、来年の新卒採用の縮小など、一気に買い手市場へと変化した。新卒については、少子高齢化に歯止めがかかる見込みがまったくないことから、いずれは再び売り手市場になるだろうが、中高年については、転職・再就職が絶望的であるように説く記事も珍しくない。
そのため、現時点ではわざわざ「シニアの活用・採用」を強化する必要はないと考える経営者や人事担当者が多いと思うが、一部の企業はすでに「シニアの活用・採用」の強化を見据えている。
コロナ禍の影響が出ているにも関わらず、一部の企業が「シニアの活用・採用」を今から見直し始めている理由は、2021年4月1日に施行される改正高年齢者雇用安定保、いわゆる「70歳就業確保法」があるためだ。
この「70歳就業確保法」については、本連載でも触れてきたが、基本となる内容は、65歳から70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とするものだ。
あくまでも努力義務なので、企業としては無視を決め込むこともできるが、意外と真剣に施策を考えている企業が多いのは、労働人口減少への危機意識だけでなく、この法律が今までになかった働き方を示してきたからだ。
今までの65歳までの継続雇用義務では、雇用形態はともかく自社で雇用し続けなければならなかったのが、今回の65~70歳までの就業機会確保の努力義務では、他社での再就職という選択肢に加え、フリーランスや起業への支援と業務委託、社会貢献活動への参加の支援なども新たな企業の施策の選択肢に入ってきた。
企業が行う就業機会確保としては、これまでなかったまったく新しい選択肢であるため、企業の戸惑いも大きいようだが、自社で雇用せず固定費を削減できる可能性があることで注目している企業もあり、これを機に若い世代も含めた新たな労働力確保の方法として確立させたいという意欲も一部の人事担当者からは漏れ聞こえてくる。
もっとも、執筆時点の2020年9月現在、具体的な方法について触れたガイドラインなどが国から発表されていないため、積極的な企業であっても腹案を温めつつ、ガイドラインの発表を待っている状況で、発表後4月までの期間で一気にルールを作りに行くだろう。
70歳までの働き方で企業が選ばれる時代に
ところで、この法律が施行されると、シニア以外の、たとえば新卒も含めたすべて人材の採用時に、求職者がその企業の「老後の働き方」を見て企業選びをする可能性が出てくる。65歳以降の働き方は、上記のようにフリーランスや起業など新たな選択肢が増えたが、労働者自身では選べない。
つまり、新卒でも中途でも、入社時に自分が考える「老後の働き方」を提供する会社を選ぶしかないのだ。
正社員として会社に70歳まで残りたい人は、フリーランスにせよ起業にせよ、65歳で会社を去らなければならない老後の働き方の会社には入社しないだろうし、フリーランスや起業にチャレンジしたい人はそうした老後の働き方が示される会社に入るだろう。
まして、60歳以降は契約社員となって給与が半減するような会社であれば、超大手など50代までの在籍期間によほどの価値がない場合、70歳まで正社員でいられる会社よりも求職者に選ばれなくなってしまうのではないだろうか。
【次ページ】少子高齢化に逆らう年齢構成自体が難しくなる
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