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- 2020/09/29 掲載
ついに石油時代の終焉か?英BPが「エネルギー業界の大変革」を予測、その理由とは?
石油メジャーが発表した「衝撃のレポート」とは
BPは毎年、エネルギー需要に関する報告書を公表しているが、2020年版はこれまでになくエネルギーシフトに踏み込んだ内容だった。報告書では、二酸化炭素の排出量削減が順調に進んだ場合、2020年代後半から再生可能エネルギーのシェアが急上昇し、2035年には20%を突破、2050年にはなんと40%以上が再生可能エネルギーで賄われると予想している。天然ガスの需要はしばらく微増が続き、その後、減少に転じるとの見立てだが、石油と石炭の需要は今後、急減するとしている。
世界のエネルギーを支配してきた石油メジャーの1社であるBPにとって、再生可能エネのシェア拡大は、自社の存亡に関わる問題である。これまでも、同社は再生可能エネのシェア拡大を冷静に予想してきたが、今年に入ってその見立てを大きく前進させた理由は、新型コロナウイルスによる感染拡大である。
同社ではコロナ後の世界経済について、数年かけて部分的に回復すると予想しており、大幅に低下した石油需要も徐々に戻るとしている。だが、再生可能エネの普及に加え、ポストコロナ社会の進展によってエネルギー消費全体の伸びが鈍化するため、石油の絶対的な需要はむしろ減少すると指摘。2018年が石油消費のピークであった可能性についても示唆している。
二酸化炭素の排出量削減が目標通りに進むことが前提条件とはいえ、石油メジャーがこうした報告書を公表したことの影響は大きい。日本では再生可能エネへのシフトは机上の空論という見方が多いが、時代は確実に変わっていることを認識する必要がある。
限界コストゼロのモデルは再生可能エネにもあてはまる
以前、本連載において世界有数の天然ガス産出国カタールが、国をあげて脱石油資源プロジェクトに取り組んでいる事例について取り上げたことがある。同国が計画している太陽光発電所の出力は800MWもあり、中規模の原子力発電所に匹敵する水準だ。注目すべきなのはコストで、すでに現時点で同発電所のコストは天然ガスを使った火力発電を大幅に下回っている。中東は砂漠が多く天候が良いという好条件を考慮に入れる必要があるが、天然ガスが無尽蔵に採れるカタールですら、石油系のエネルギーはもはや割高なのだ。
こうした話題に対しては、ほぼ100%、中東は気象条件が良いのでコストが安くなっているだけであり、日本などには当てはまらないという反論が出てくるだろう。だが本当にそうだろうか。
日本のように砂漠地帯ほど日射量がない地域でも、近い将来、採算が合う可能性は十分にある。その理由は、太陽光を中心とした再生可能エネのビジネスはITビジネスとの類似性が高く、限界コストが限りなくゼロに近づく可能性について否定できないからである。
ITビジネスは従来型ビジネスと比較して断絶的なイノベーションだと言われる。その理由は、ITビジネスは限界コストが限りなくゼロに近くなるという特徴を持っており、従来のビジネス基盤を破壊してしまうからである。
従来型ビジネスは生産量を2倍にするためには、単純計算でコストを2倍にする必要がある。トヨタが自動車の生産量を2倍にするためには、2倍の生産ラインを構築する必要があるのは自明の理である。だがITビジネスは必ずしもそうとは限らない。グーグルは利用者を2倍に増やすために、2倍のコストをかける必要はない。
もちろんサーバーなどのインフラについては利用者の増加に応じて増やす必要があるが、ネットワーク外部性(当該サービスを利用する人の数が増えるほど便益が増え、そのサービスの価値が高まる現象)と呼ばれる効果によって、勝手に利用者数が増え、コスト以上に収益が拡大していく(収穫逓増モデル)。
生産を1単位増やすために必要な追加コストのことを経済学的には限界コストと呼ぶが、ビジネスが拡大すればするほど規模のメリットが発揮されるので、限界コストが限りなくゼロに近づいていく。このため、従来型ビジネスでは想像も出来なかったスピードで事業を拡大できるのだ。
【次ページ】「NTT」「テスラ」の動向からわかる、再生可能エネの未来とは
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