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  • 2021/01/05

止まらぬ日本のCO2排出、原因は「粗悪な住宅」にあると言えるワケ

日本の脱炭素に立ちはだかる高い壁(後編)

菅政権の誕生をきっかけに、日本もようやく本格的な脱炭素政策に舵を切り始めた。だが、これまで脱炭素に消極的な政策を続けてきたツケは大きく、日本企業は環境技術において大きく出遅れている。前回は石炭火力に依存したエネルギー政策について取り上げたが、課題はそれだけではない。脱炭素社会を構築する上で、日本の家屋が大きなボトルネックとなる可能性があり、住宅事情の改善が急務となりつつある。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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脱炭素社会を構築する上で、日本の家屋が大きなボトルネックとなる可能性がある……
(Photo/Getty Images)
 

家庭部門にもCO2排出の責任アリ?

 日本における1人あたりの二酸化炭素(CO2)排出量は約9.0トンとなっており、英国(5.7トン)やフランス(5.2トン)、イタリア(5.8トン)など環境先進国と比較するとかなり多い(UNFCCC、IMF、IEAなどから筆者算出、2018年)。主要国において日本と同レベルかそれ以上にCO2を排出しているのは、欧州における工業生産の多くを担い、日本の2倍の輸出を行っているドイツと、石油をバラ撒くような生活をしている米国だけである。

 日本のCO2排出量が多いのは昔から変わっておらず、国連の気候変動枠組条約の基準年となっている1990年以降、日本の排出量はずっと上記3カ国を上回っている。

 日本のCO2排出量が多いのは、社会全体として低炭素化が進んでいないことに加え、石炭火力発電所に大きく依存しているからである。菅首相が所信表明演説で表明した2050年までの温暖化ガス排出量実質ゼロを実現するためには、石炭火力から全面的に撤退し、CO2の排出量が極めて少ない再生可能エネルギーへの転換を図ることが必須となっている。

 菅政権は今後、洋上風力発電所を大量に建設する方針とされるが、日本企業は関連技術への投資に消極的だったことから、再生可能エネの分野ではまったくと言って良いほど国際競争力がない。政府は2040年までに風力発電における国内調達比率を6割にするとの目標を掲げているが、これを実現するのはかなり難しいだろう。少なくとも初期段階のプロジェクトについては、ほぼ全量を輸入に頼らざるを得ないと思われる。

 これは供給側におけるボトルネックだが、問題はそれだけではない。供給サイドに加えて、利用サイドでも多くの改革を実施しなければならず、この壁はさらに厚い。

 利用サイドの排出量で大きな割合を占めているのは運輸部門だが、自動車については基本的に電気自動車(EV)にシフトするという選択肢がある。日本メーカーはEVの開発で出遅れており、相対的にハイブリッド(HV)を得意としているが、EVの比率を上げ、再生可能エネによって発電された電力を使用すれば、排出量削減を実現するのは不可能ではない。

 一方で、家庭も自動車と同じくらいCO2を排出しており、家庭における脱炭素化も同時並行で進める必要がある。だが日本の場合、ここに大きなボトルネックが存在する。

 日本における家庭部門の1人あたりCO2排出量は約1.5トンとなっており、この数字についても欧州各国と比較するとかなり多い(UNFCCC、IMF、IEAなどから筆者算出)。日本の排出量が多いのは、石炭由来の電気を多く使っていることが大きく影響していると思われるが、それだけが理由ではない。

 英国やフランスは日本と比較するとはるかに寒く、多くの地域が北海道並みの気候となっており、暖房にかなりのエネルギーを必要とする。エネルギー消費という観点で考えると、冷房よりも暖房の方が圧倒的に不利であり、本来なら日本の方が排出量を低く抑えられるはずだ。欧州ほどの暖房需要がないにもかかわらず、日本のCO2排出量が多い理由の1つは家の断熱性である。

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家庭も自動車と同じくらいCO2を排出しており、家庭における脱炭素化も同時並行で進める必要があるが……
(Photo/Getty Images)
 

日本の家屋の断熱性はすでに中国以下

 海外の住宅事情を知らない人は驚くかもしれないが、諸外国と比較して、日本の住宅の断熱性能は驚異的に低い。つまりいくら暖房を入れても、その熱の多くを外に放出しているので、多くのエネルギーがムダに捨てられているのだ。

 日本では冬になると、居間とトイレや風呂場に大きな気温差が生じるのは当たり前という感覚だが、主要国の住宅ではこうしたことはまずない。日本では窓枠にごく普通にアルミサッシが使われているが、アルミというのは最も熱伝導率が高い部材の1つであり、言い換えれば簡単に室内の熱を外部に逃がしてしまう。窓も単板ガラスを使ったものが多く、やはり多くの熱を放出する。

 アルミや単板ガラスの採用はコストを優先した結果だが、こうした低い断熱性能しかない家が標準的になっているのは先進国では日本だけであり、最新基準では、すでに韓国や中国よりも低いというのが現実だ。政府はこうした事態を打開するため、2020年に省エネ基準を義務化する方針で法整備を進めてきたが、結局は見送られた。理由は施工技術が低い事業者が多く、諸外国のように省エネ住宅を大量に建設することが難しいというものだった。

 住宅の断熱性は国民の健康にも直結しており、ヒートショックなどによる健康被害が大きいとの指摘が出ている。国内で行われた実地調査によると、寒い家に住んでいる人は、暖かい家に住む人と比べて、循環器疾患で死亡するリスクが4.3倍も高いという。また暖かい家に住んでいる高齢者と寒い家に住んでいる高齢者の脳機能を比較すると、寒い家に住んでいるグループの脳機能が有意に低かったという研究結果もある。


 住宅を高断熱化すれば、CO2削減にも効果があり、かつ国民の健康水準も向上するなどメリットばかりだが、技術力が壁になって実現できないというのは何とも情けない話である。単に社会慣習の問題として断熱性能が低かったのであれば、制度を変更することですぐにでも高断熱化が可能だが、技術が原因の場合、改善するのは容易なことではない。

【次ページ】状況をさらに悪化させている原因とは……

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