- 2021/02/23 掲載
「シン・エヴァ延期」「ピクサー最新作公開中止」、“大作不在”映画業界のリアル(2/3)
大作延期による“玉突き事故”
一方、映画配給会社はどうか。配給会社のB氏が説明する。「公開延期の影響は、大きく言ってふたつ。ひとつはキャッシュフロー。チケット売上が立たないので、当然その作品から得られる収入は先送りになります。大作となれば、それを見込んでかなり大きな予算を組んでいるので、経営を圧迫しますね。もうひとつは、延期した先に別の大作が控えている場合、いわゆる“玉突き事故”が起こることです」
“玉突き事故”には説明が必要だろう。通常、映画のブッキングは、大作であればあるほど先まで決まっているので、たとえば全国何百館も開けるような大作が、4月から12月に延期するとなると、延期先の12月には、もともとその時期に公開しようとしていた超大作がすでにブッキングされている。
結果、同時期に大作が集中する、もしくは、もともとブッキングされていた自社配給の大作を、玉突きでさらに先へと公開延期せざるをえなくなるのだ。
なお、同時期に大作が集中すると、1作あたりの興収は確実に減る。なぜなら、普通の人が映画を観るペースは「毎週末に1本」「月に2本程度」などとほぼ決まっているため、いくら話題作でも、短期間に多くが公開されすぎると、鑑賞が追いつけなくなるのだ。これは完全な機会損失である。
振り回される映画宣伝
映画にとって、公開前の宣伝・PRはとても重要だ。限られた宣伝予算を使って、どのタイミングでCMを打ち、どの媒体に広告を出すか。評論家やライターに向けて、いつ頃試写を回すか。テレビ・新聞・ラジオ・雑誌・WEBメディアなどに紹介してもらうべく、監督や出演者の取材稼働日を慎重に設定し、細かくスケジュールを切る。宣伝はタイミングがすべて。公開初日に向けて徐々に露出度を上げていき、さあ今週末公開!というタイミングで、一気にボルテージを上げる。そこに宣伝予算とPRのカロリーの多くを突っ込む。そういう努力が、突如の公開延期ですべて崩れてしまうのだ。
公開が半年後に延期となれば、「すべて仕込み直し」となる。昨年、ある映画作品を表紙に持ってきていた雑誌があった。しかし雑誌の校了(印刷に向かう最終段階)直後に、その作品の延期が決まり、表紙を差し替えられないまま、泣く泣くそのまま刊行。それから数ヶ月が経過しているが、いまだ公開日は決まっていない。
こうなると、せっかくの表紙起用が、宣伝効果としてはほとんど意味をなさなくなってしまう。多くの人は何カ月も前に見かけた映画の宣伝内容など、覚えていないからだ。しかも、宣伝の「やり直し」には当然、人的コストが発生する。
「配給会社が宣伝業務の一部を、外部の宣伝会社やフリーの宣伝マンに外注しているケースもあります。公開延期すれば当然、外注先の稼働期間は延びるわけですが、外注元である配給会社としても売上(配給収入)が下がっているので、宣伝予算を増やせる由もなく、追加費用を出せない場合もある。これは、外注先の人たちにとっては、かなりきつい」(配給会社・B氏)
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