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  • 2021/02/19

映画館が「誇張でなく死ぬ」理由、なぜ鬼滅ヒットでも“売上8割減”になったのか

稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」

新型コロナウイルスにより2020年の日本の映画興行収入(興収)は1,432億8,500万円と、2019年に比べ、ほぼ半減した。人々の外出自粛や映画館の短縮営業・休業により、客足が激減したため、売り上げが減っていることは容易に想像できるが、コロナ禍が映画館にもたらした「被害」、そして「緊急事態宣言」の影響は想像以上に大きかった。“売上8割減”に陥ったという関係者らから話を聞いた。

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター 稲田豊史

キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書は『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』。おもな編集書籍は『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著/キネマ旬報社)。「サイゾー」「ビジネス+IT」「SPA!」「女子SPA!」などで執筆中。 (詳細

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コロナ禍で映画業界は大きな打撃を受けた
(Photo/Getty Images)


映画興行収入はコロナ禍でどうなった

 2020年、日本の映画興行収入(興収)は、たったの1,432億8,500万円だった。史上最高(2,611億8,000万円)を記録した2019年に比べ、ほぼ半減の54.9%。興収を計測しはじめた2000年以降、最低の数字である(いずれも出典:一般社団法人日本映画製作者連盟)。半減の理由は言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大だ。人々の外出自粛や映画館の短縮営業・休業により、客足が激減した。

 映画ライターとして、映画業界に近い場所で仕事をしている筆者の耳には、苦境にじっと耐え抜く彼らの胸の内、あるいは悲痛な叫び、そして業界の今後を不安視する声などが、絶え間なく入ってくる。

 今回は「コロナ禍で映画業界は大丈夫なのか?」と題し、映画興行会社勤務のA氏、映画配給会社勤務のB氏に、おもに劇場の現状を聞いた。仮名としたのは、所属会社の原稿チェックという制約を受けることなく、また取引先に忖度することなく、現場の声を拾うためである。ご了承いただきたい(取材日はA氏、B氏ともに1月下旬)。


昨対8割減、6月は「93~94%減」

 A氏の勤める興行会社は、関東圏を中心にシネコンを含む複数の劇場を運営している。都心から地方まで、複数の劇場を横断的に監督する業務に就いているA氏は、衝撃の一言を放った。

「2020年の売上は、昨対で8割減です。1回目の緊急事態宣言を受けて休業した昨年4、5月の売上は限りなくゼロ。明けた6月も昨年同月比6〜7%。TOHOシネマズさんが同4〜6月を6%程度と発表していましたが、うちも似たようなものですね」(興行会社・A氏)

 昨年同月比「6~7%減」ではない。「93~94%減」である。国内資本の配給会社で宣伝業務に就くB氏は言う。

「年間興収が半減といっても、1,400億のうち、360億円は『鬼滅の刃』ですからね。大手ではない配給会社の体感的には、半減どころではありません」(配給会社・B氏)

 たしかに、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020年10月16日公開)は、2021年1月3日時点で350億円近く、2月15日時点では374億円以上も興収をあげている。2020年の年間興収が、洋画が前年比28.6%と大きく落ち込んだのに比べ、邦画は同76.9%にとどまったのは、そういうわけだ。

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映画館は感染症対策を施して営業を再開したがコロナ禍の影響はあまりに大きかった
(出典:イオンシネマ 報道発表)


 ただ、興収の減退率は、館別・作品別で差があった。地方より都心、若者向けよりシニア向け作品のほうが厳しかったという。

「感染の危険が高いとされている電車移動とターミナル駅の通過がネックになる都心館より、自家用車で行ける地方館のほうが、お客さんの減りは少なかったですね。地方で強いのはファミリー向け作品。小学生以下のお子さんが観たい作品に、2、30代の親御さんがついてくるパターンです。いずれも重症化リスクが少ないと踏んだのでしょう。一方で40代後半以上、なかでもシニア層向けの作品はダメでした」(興行会社・A氏)

 都心・地方問わず、コロナの影響が少なかったジャンルがある。オタク層向けのアニメ作品だ。

「苦しい時だからこそ“推しを支えたい”という気持ちが強い。なかでも10~20代女性がついている作品は、影響がほぼなかったと言えます」(興行会社・A氏)

コロナを恐れなかったのは「ニッチ層」と「若者」

 コアなファンは何があっても観に行く。それは理解できる。逆に、混雑した映画館に行くこと自体にリスクがある(というイメージがある)から、「どうしても観に行きたい」作品以外は選ばれない。すなわち「マス向け」「映画ライト層」向け作品は、どうしたって影響を受ける。

 配給会社B氏も、「『今日から俺は!!劇場版』など一部の若者向け作品を除き、マスに向けた作品は厳しかったです。その一方、作品のテイストがニッチ(隙間)を狙ったものは、上々の結果でした」と振り返る。B氏は「ニッチ」の一例として、2020年7月3日に公開された『アングスト 不安』という実録スリラー映画を挙げた。1983年に制作されたオーストリア映画だ。

「新作ではないので、普通に公開すれば興収500万円といったところでしょうが、2,000万円を達成したと聞いています」(配給会社・B氏)

 ただし、手放しでは喜べない。「マス」とは興収規模数十億円を見込む作品であり、「ニッチ」とは同数百~数千万円台前半のものを指す。つまり、いくらマニア向けのニッチ作品が好調であっても、映画産業全体への貢献度は低いのだ。

【次ページ】都心のテナント劇場が“死ぬしかない”とこぼしたワケ<

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