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  • 2021/03/30 掲載

日本郵船、商船三井らも参画のブロックチェーン「TradeLens」「GSBN」とは

連載:「日本の物流現場から」

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島国である日本では、貿易による輸出入なしに生活は成立しない。だが輸出入にはとても手間がかかる。手間の一因は、貿易に係る情報のボリュームにある。輸出入に必要な書類の処理状況から、コンテナ船の運行状況まで、貨物を安全に輸出入するためには、膨大な情報の海から、人海戦術によってひとつずつ必要な情報を探し、つなぐしかなかった。だが今、暗号通貨で脚光を浴びたブロックチェーン技術を用いたデジタルプラットフォームの出現が、貿易業務を劇的に変革させようとしている。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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ブロックチェーンによる貿易DXとは
(Photo/Getty Images)

膨大な情報を人海戦術で処理してきた、貿易関連業務

 貿易によって輸送されるのは、貨物だけではない。付帯する各種の情報が、貨物とともに動き、そして貨物の状態とともに刻々と変化する。

・輸送に関係する情報
輸送手段(航空機、船、鉄道、トラックなど)と、その契約情報、現在位置、荷役状況など。

・通関に関係する情報
輸出入の許可や、関税などの税金に関係する貨物内容の申告など。

・その他、保険など

 これらの情報は、相互に影響しあい、変化する。

 厄介なのは、これらの情報が一元管理されていないことだ。輸出入を担うフォワーダー(貨物利用運送事業者)は、海運事業者やトラック事業者、もしくは各国の通関から情報を入手する。最近ではオンラインで情報が提供されていることも多いが、いずれにせよ、フォワーダーは人海戦術によって、複数の情報ソースをあたり、かつ刻々と変化する最新情報を入手してきた。

 だが、人の目で確認することには限界がある。

 こういった膨大な情報ボリュームに反して行われてきた、人海戦術によるアナログな情報確認は、時としてミスを生む。ミスを回復するために、さらなる手間を生むという、悪循環も課題となっていた。

ブロックチェーンを利用した貿易情報の一元化

 このように課題となっていた貿易関連業務の情報を一元化し、貿易関連業務に大幅な業務変革をもたらすのが、前回の記事で紹介したデジタルフォワーダーや、「TradeLens」「GSBN」といった、ブロックチェーン技術を用いた物流DXである。

 ブロックチェーンとは、ビットコイン等の暗号資産を実現する要となる技術であり、以下のような特徴を持つ。

  • ・大量のデータ、特に頻繁な情報更新(ステイタスの変化)を伴うデータを取り扱うことができる。
  • ・セキュリティが強い。情報の改ざんや破損等のリスクが、極めて低い。

 繰り返しになるが、貿易においては、対象となる貨物に対し、常にさまざまな情報が付加され、そして更新されていく。輸送状況、通関処理のステイタスはもちろん、貨物に掛けられる保険の契約状況なども欠かせない。

 貨物をめぐる情報を持つトラック事業者、海運事業者(船会社)、各国の税関、保険会社などの金融機関等が、自身の持つ情報を貨物に付加していく、情報のデータバンクとして、ブロックチェーン技術の有用性が注目されたのだ。

日本郵船、商船三井らも参画の「TradeLens」とは

 2016年9月、世界有数の海運事業者であるマースク(Maersk)は、IBMとともにブロックチェーンに投資することを発表した。これが、TradeLensである。

 TradeLensは、2018年8月に正式稼働を始め、2019年1月時点で、年間約2000万個、世界を流通するコンテナにおける20%もの情報をカバーしている。

 TradeLensには海運事業者のほか、各国の港、オーストラリア、バーレーン、カナダ、サウジアラビアなど各国の税関、保険会社などの金融機関が参加している。日本からは、川崎汽船、商船三井、日本郵船の定期コンテナ船事業を統合した「Ocean Network Express」が、TradeLensに参加している。

 貨物は生産国から出荷されてから長い旅を続けるが、TradeLensでは、旅を続ける貨物に関する最新情報が常にアップデートされる。アップデートを行うのは、海運事業者らTradeLensに参加する企業だ。

 参加者は自社のシステムからAPIを通じてTradeLensに情報を提供する。と同時に、他の参加者がアップデートした最新の情報を受け取ることができるという仕組みである。

 TradeLensに接続するためのAPIや、TradeLensでやりとりされる情報を活用するためのアプリケーションは、一部公開されているものもあるが、参加者自身が開発する必要がある。こうした事情から、TradeLensを直接利用するのは、先に挙げた海運事業者、港、税関など、貿易とその関連業務を生業としている貿易関連事業者が中心となっている。

 将来的には不明だが、現時点では、荷主等貿易を必要とするメーカーや商社、小売などは、直接TradeLensに参加するのではなく、貿易関連事業者を介してTradeLensの恩恵を受けている。

【次ページ】TradeLensを追うGSBN、主要な海運事業者は二分

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