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  • 2021/02/04 掲載

三菱商事らが仕掛ける「貿易DX」、1,320億円削減するプラットフォームの詳細

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三菱商事は祖業である貿易をDXの対象に選び、根深く残る紙のコミュニケーションによる業務効率の低さを抜本的に解消しようと決断。NTTデータらが仕掛ける貿易コンソーシアムに参加し、貿易実務の効率化を図るシステム開発に参画している。ここでは、貿易実務全体の44%の業務効率向上、1,320億円のコスト削減を実現する貿易プラットフォーム「TradeWaltz」の詳細を解説する。

執筆:フリーランスライター 吉田育代

執筆:フリーランスライター 吉田育代

企業情報システムや学生プログラミングコンテストなど、主にIT分野で活動を行っているライター。著書に「日本オラクル伝」(ソフトバンクパブリッシング)、「バックヤードの戦士たち―ソニーe調達プロジェクト激動の一一〇〇日 」(ソフトバンクパブリッシング)、「まるごと図解 最新ASPがわかる」(技術評論社)、「データベース 新たな選択肢―リレーショナルがすべてじゃない」(共著、英治出版)がある。全国高等専門学校プログラミングコンテスト審査員。趣味は語学。英語と韓国語に加えて、今はカンボジア語を学習中。

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三菱商事が進める、貿易DXの取り組みを担当者が解説
(写真:森田直樹/アフロ)

本記事は2020年12月15日~2021年1月15日開催「第15回 業務改革/BPMフォーラム2020~ニューノーマル時代のDX変革に対応する業務改革とは~」(主催:公益社団法人企業情報化協会(IT協会))の講演を基に再構成したものです。


貿易実務のDXに乗り出した三菱商事

 総合商社の三菱商事は、これまで産業界におけるサプライチェーンをエンド・ツー・エンドでカバーすることで事業拡大を続けてきた。

 食品業界を例にとれば、出発は貿易と卸であった。その後、川上である食品製造業に進出、小売りではコンビニエンスストアのローソンや食品スーパーとの関係を強化してきた。

 一方、金属資源という観点では、こちらも当初は貿易から参入。日本における資源確保の重要性を認識し、オートラリアや南米などで投資を開始した。また、製鉄会社に原材料を供給するのみならず、そこで生産された鉄鋼製品をメーカーへ遅滞なく届けるために流通網の最適化にも乗り出した。

 こうした同社の軌跡は、同社におけるDXの考え方にも通じるところがある。三菱商事 デジタル戦略部長 平栗 拓也氏は次のように語る。

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三菱商事
デジタル戦略部長
平栗 拓也氏
「各産業のコストプール(コストがかかっている場所)を探し出し、DXによってこれをプロフィットプール(プロフィットを生み出す場所)に変える。それが私たちの考え方です」(平栗氏)

 食品流通では商品が生産から消費者に届くまで、間接費用が日本全体で4兆円かかっている。三菱商事では、これをDXで削減し、消費者やメーカー、卸に還元することで、流通業、製造業全体の生産性向上を目指しているという。

「中でも貿易は私たちの祖業で、コストプールを削減していくとしたら、その一丁目一番地は貿易実務です。まずはこの分野で三菱商事が実験台となって良い仕組みを立ち上げ、日本の産業界に幅広く使っていただきたい──そういう思いで『TradeWaltz(トレードワルツ)』という事業を進めています」(平栗氏)

輸出入1回にEUは2時間、日本は72時間

 それでは、貿易実務にはどのような課題があるのか。貿易市場そのものは、いまだ成長軌道にある。財務省の統計資料によると、輸出・輸入を合わせた対日貿易総額はCAGR(年平均成長率)5%で成長しており、海上貨物の貿易取引件数を見ても、CAGR1.8%で着実に増加している。

 しかし、貿易実務に携わる人口は減少の一途をたどっている。それを定量的に示しているのが貿易実務検定受験者数の推移だ。すべての級において減少傾向にある。三菱商事も、この分野の人材不足を痛感しているという。


 つまり、需要は伸びているのにそれに携わる人材が足りない。このままいけば必要な貿易を履行できなくなる恐れもあり、業務の生産性を向上する以外に解決策はないのだ。世界に目を向けると、EUはすでにこれを実現している。三菱商事から出向し、トレードワルツ社で取締役 CEO室長を務める染谷 悟氏は次のように語る。

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トレードワルツ
取締役 CEO室長
染谷 悟氏
「世界銀行の調査では、デンマーク、オーストリア、スペインなどEU加盟国の輸入1回輸出1回にかかる合計値が2時間であるのに対して、日本は72時間かかっています。日本よりさらに時間がかかっている国もあり、中国・韓国・ASEANでは240時間、最も長いアフリカでは400時間を要しています」(染谷氏)

 この差はどこから来るのか。その原因の1つとして、日本ではある1つの契約情報を扱うにしても、荷主が、港、通関事業者、決済事業者、物流事業者といった相手先とそれぞれ個別の紙文書やPDFを受け渡していることが挙げられるという。

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EU加盟国に比べて、日本やアジア、南米、アフリカは貿易実務プロセスが非効率

「一方、EUは制度を簡素化し、通貨やシステムをそろえるといった取り組みを行ってきました。私たち貿易実務者はこうした課題を討議によってつきとめ、デジタル技術で改善していけないかと考えました。そして、2017年8月、通関システムの開発・運用を行っているNTTデータが中心となり、3メガバンク、3メガ損保、8総合商社、船会社・物流会社などとともに貿易コンソーシアムを発足しました」(染谷氏)

【次ページ】貿易プラットフォーム構築で「44%の業務効率化」「1,320億円削減」

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