緊急対応策ではなくなった「ライブコマース」
中国の2大ショートムービープラットフォームである中国版TikTok「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)のライブコマースが驚異的な成長をしている。
抖音、快手ともに2018年にライブコマースをスタートさせたが、話題に上ることは多くはなかった。しかし、2019年後半から販売業者の参入が増え始め、2020年になるとコロナ禍で爆発的に成長した。外出自粛により店舗営業が難しくなったため、閉店している店内からライブコマースを配信する店舗が続出したのだ。
中国では2020年5月にはコロナ禍も終息が見える状況になり、経済活動が本格的に再開されている。それから1年、ライブコマースはますます広がりを見せ、完全に定着している。コロナ禍での緊急避難的な販売手法ではなく、新しい小売手法として完全に定着した。従来のECを電子商品棚方式とすると、それがライブコマース方式へと時代が移り始めたとする議論も出ているほどだ。
その根拠となっているのは、数年前から中国のマーケティング領域で注目され始めた「私域流量」(プライベートトラフィック)という考え方だ。この「私域流量」については、
後半で解説する。
わずか2年で楽天超え、驚異的成長のライブコマース市場
快手、抖音のライブコマースの成長は驚異的だ。快手を運営する快手科技(クワイショウテクノロジー)の財務報告書によると、2020年のライブコマース流通総額(GMV)は3,811.7億元(約6.5兆円)。2019年は1,771.1億元、2018年は0.966億元でしかなかった。わずか2年で4000倍に成長したことになる。抖音も、運営元の
バイトダンスは2020年のGMVが5,000億元(約8.5兆円)を突破したことを公表している。
これはにわかには信じられないほどの驚異的な数字だ。日本におけるアマゾンのGMVの3倍から4倍に相当するのだ。
さらに、2020年のBtoC ECのGMV世界ランキングでは、アリババ、アマゾンなどよく知られた企業名が並ぶが、ここに抖音、快手を挿入してみると、それぞれ7位、9位に相当する。わずか3年で、何もなかったところから、世界ランキングトップ10に入る新たなスタイルのECが2つも出現したことになる。
|
企業 |
国 |
GMV(百万ドル) |
1 |
アリババ |
中国 |
1,145 |
2 |
アマゾン |
米国 |
575 |
3 |
京東(ジンドン) |
中国 |
379 |
4 |
拼多多(ピンドゥオドゥオ) |
中国 |
242 |
5 |
ショッピファイ |
カナダ |
120 |
6 |
イーベイ |
米国 |
100 |
|
抖音(ドウイン) |
中国 |
77.8 |
7 |
美団(メイトワン) |
中国 |
71 |
8 |
ウォルマート |
米国 |
64 |
|
快手(クワイショウ) |
中国 |
59.3 |
9 |
ウーバー |
米国 |
58 |
10 |
楽天 |
日本 |
42 |
11 |
エクスペディア |
米国 |
37 |
12 |
ブッキングホールディングス |
米国 |
35 |
13 |
エアービーアンドビー |
米国 |
24 |
世界のBtoC ECサービスの流通総額ランキングに、抖音、快手のライブコマース流通総額をあてはめると、それぞれ7位、9位に相当する
このライブコマースの急速な成長は、快手の業績にも大きく影響している。同社の2020年の総収入は約587.8億元(約9,960億円)で、2019年の391.2億元から50%以上も増加している。その伸びのほとんどはライブコマース関連によるものだ。
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