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  • 2021/10/25 掲載

ガートナーに聞く「DXが進まない根因」、なぜデジタル人材を育成できないのか?

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「日本企業の9割以上がDX(デジタル変革)に着手できていない」、経済産業省が2020年12月に公表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」の調査結果だ。同省が2018年9月に発表したDXレポートでは「2025年以降に年最大12兆円の経済損失になる」と説いているが、日本企業のDXは一向に進んでいないという。その理由は何か。ガートナージャパンのディスティングイッシュトバイスプレジデントでガートナーフェローを務め、CIOリサーチに所属し、人材育成や組織作り、組織文化の変革、CIOなどのリーダーシップの支援などを担当する足立 祐子氏に、ITジャーナリストの田中 克己氏がDX推進のヒントを聞いた。

執筆:ITジャーナリスト 田中克己

執筆:ITジャーナリスト 田中克己

日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長、主任編集委員などを歴任し、2010年1月からフリーのIT産業ジャーナリストとして活動を始める。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)、2012年度から一般社団法人ITビジネス研究会代表理事を務めるなど、40年にわたりIT産業の動向をウォッチする。主な著書に「IT産業再生の針路」「IT産業崩壊の危機」(ともに日経BP社)がある。

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ガートナージャパン
ディスティングイッシュトバイスプレジデント
ガートナーフェロー
足立 祐子氏

DX阻害要因とは何か

田中 克己氏(以下、田中氏):日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)はなぜ、進まないのか。

ガートナー 足立 祐子氏(以下、足立氏):DXの阻害要因としては「ITシステムやユーザーとITベンダーの関係」「IT部門の立ち位置」などが挙げられるケースが多い。だが、私の担当する人材育成などの面からみると、阻害要因の1つに「人材育成の焦点がずれている」ことが考えられる。また、経営者のリーダーシップというより、デジタル化に対する理解が間違っていたり、はき違えている企業が多いことも要因の1つと捉えている。

田中氏:焦点がずれていると具体的にどういうことか。

足立氏:デジタル化を推進する人材育成については、「プレゼンテーションやコミュニケーションに関するスキル」「イノベーションを促すアイデアを出せる」などがフォーカスされるべきだ。だが、「日本の企業文化」や「日本人の特性による制約を考えた組織のフォーメーション、リーダーシップ教育」でなければ、DXにはつなげられないだろう。

 日本人の特性には大きく3つのポイントがある。まず、「リスクの許容度」だ。たとえば、日本人は世界で一番不確実性を嫌がると言われている。「このリスクは許容してほしい」と提案しても限界がある。そのため、日本人に欧米のようなリスクテイクのリーダーシップ教育はしないことが重要だ。

 2つ目は「権力の格差、パワーディスタンスの制約」だ。上司が部下に指示を出す階層構造の組織で、部下が発言するのは容易なことではない。フラットな組織を目指し、発言するように教育しても、いきなり変えられるわけがない。まずは、ミドルマネージャーのあり方、発言を促すスキルを身につけさせることから始めた方がいい。

 3つ目は「多様性」だ。ダイバーシティとイノベーションは大きな関係にある。たとえば、多様性に富んでいるチームは、イノベーションの進度が速く、より面白いものが生まれる。また、意思決定の正確度も高いと言える。

 ただ、多くの日本企業では、日本人の構成比率が高く、他国と比較する場合、多様性を得られていない状況だ。DXを推進するには、意識的に多様性を創り出すこと。そこを押さえなければ、外部のコンサルタントに人材育成に依頼しても、空回りしてつまずいてしまうこともある。

DX推進における5つの重要な役割

画像
表1 ガートナージャパンが提示した「DX推進における5つの役割」
(出典:ガートナージャパンのプレスリリース「Gartner、デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な5つの役割を発表」2021年8月)

田中氏:ガートナージャパンは2021年8月に「デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な5つの役割」を発表した。具体的には「ビジネス系プロデューサー」「テクノロジー系プロデューサー」「テクノロジスト」「デザイナー」「チェンジリーダー」などが示されている(表1)。DX推進における5つの役割を公表した意図を教えてほしい。

足立氏:日本企業がDXを考えるきっかけになればと思い提示した。DXが進んでいる米国では、クラウドのアプリエンジニアなどもっと役割が細かく、専門性も高くなっている。だが、日本であまり細かくすると「100人も必要になるのか」と驚かれると考え、5つに絞っている。

田中氏:日本の経営者には「こんな人材を育てる」という明確な意識や考えが乏しいのではないか。どのように現状を捉えているか。

足立氏:人材の定義は「スキルと意識、コンピテンシーがセットになる」こと。ただ、多くの経営者が意識だけに注力しがちで、たとえば「情熱的な人」「デジタルを推進できる人」など、抽象的であることは否めない。「どんなスキルを持っているのか」「どんな経験を積んできたのか」などを忘れているかもしれない。

田中氏:デジタル化が進んでいる企業は、従来のIT活用にも先進的に取り組んできた同じ顔触ればかりだ。

足立氏:そうした企業には共通点がある。それは、いつも早く決断し、早く取り組み始めていることだ。当然、苦労もあり、リスクもある。ただ、歴史の古い企業では、変革自体が難しく、意思決定などの制約も出てくる。そのため、コネクテッドな子会社を作って、デジタルを進めようとする。だが、子会社だけではスケールアウトができないのが現状だ。本体と一緒に動かなければ、大きなうねりは生み出せない。コネクテッドな会社だけが小さく動いて、萎んでしまうので、私はこの方法を勧めていない。

田中氏:DX事業を別会社にしたり、別組織として場所を隔離したりして推進する「出島」に取り組む企業は増えている。ただ、確かに成功事例は少ないと感じる。

足立氏:違う環境を作ることは、融合が難しくなることを意味する。そのため、シリコンバレーにいた人が帰国すると、辞めてしまう。立ち上げ時はよくても、融合の道筋がなければ、失敗することが多い。

【次ページ】「日本企業はIT部門の力が弱い」のではない、DX推進におけるアドバンテージ

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