• 2022/03/04 掲載

SDGsがLGBTQに明確に言及しない、知られざる理由。失望と希望が入り混じる実状とは

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SDGs(持続可能な開発目標)は、ここ数年ですっかり認知度を獲得し、誰もが一度は耳にしたことがある言葉になりました。SDGsは「誰ひとり取り残さない」を理念に、17個の目標が掲げられていますが、そこにLGBTQの人々の権利保護は明確に記載されていません。SDGsでLGBTQが抱える問題について言及されていない、知られざる理由と背景を法律家が解説します。

LGBTとアライのための法律家ネットワーク アレキサンダー・ドミトレンコ、大原純子

LGBTとアライのための法律家ネットワーク アレキサンダー・ドミトレンコ、大原純子

アレキサンダー・ドミトレンコ Alexander Dmitrenko
LGBTとアライのための法律家ネットワーク共同代表及び共同創設者。2000年にカナダにて法律家としてキャリアをスタートし、同国において同性婚訴訟及びLGBTの権利に関する活動に参画。デビボイス&プリンプトン(ニューヨーク)、双日株式会社、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所(外国法共同事業)に勤務ののち、現在は、アシャースト法律事務所・外国法共同事業東京オフィスパートナー。ロシア連邦、米国ニューヨーク州並びにイングランド及びウェールズの法曹資格を持ち、日本においては外国法事務弁護士として活動。TELLの役員、八丈島ふるさと観光大使を務める。

大原純子
LGBTとアライのための法律家ネットワークメンバー。第二東京弁護士会登録(2016年)。慶應義塾大学法学部法律学科、一橋大学法科大学院卒業。フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所のGlobal Transactionチームに所属。

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SDGsを構成する17のゴール(目標)
(出典:国連広報センター)


すっかり認知度を得たSDGsの意外な事実

 すでに多くの方がご存知の通り、SDGsは2015年に国連で採択された、すべての人に尊厳のある生活を実現するための強力なコミットメントを具現化したもので、「より良く、より持続可能な未来を実現するための青写真」と言われています。SDGsは、貧困、格差、気候変動、環境保護、平和、正義など、地球規模の課題に取り組んでいます。SDGsを構成する17個の目標は相互に関連しており、国連は2030年までにこれらを達成することを目標として掲げています。

 では、このSDGsが掲げる目標の中には、LGBTQ(性的マイノリティ)の人々の権利の保護も含んでいるのでしょうか。この記事を読んでいる読者の皆様は、LGBTQの問題も当然、目標の中で取り上げられているのではないかとお思いかもしれません。

 しかし実際には、国連が発表しているSDGs本文、持続可能な開発のための2030アジェンダ、2021年度版「持続可能な開発目標報告書(2021 Sustainable Development Goals Report)」のいずれにおいても、LGBTQコミュニティに関する明確な言及はありません。

 以降では、LGBTQが抱える問題についてSDGsで言及されていない理由、政府間の協議におけるLGBTQ問題の歴史、そして、明確な言及はなくともLGBTQへの配慮がSDGsの暗黙の礎となっていることについて、ひも解いていきます。


なぜLGBTQの権利はSDGsに明確に言及されていないのか?

 すべての人の尊厳ある生活を実現するための枠組みを示すべく策定されたSDGsが、過去から今日に至るまで世界中で迫害と抑圧に苦しんできた人々について明確に言及していないのはなぜでしょうか? この問いに対する答えには、失望と希望の両方の側面があります。

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SDGsとLGTBQインクルージョンの関係性に隠された失望と希望とは
(Photo/Getty Images)

 それは、LGBTQの権利に関する国際的なコンセンサスが依然として得られていないことを示すと同時に、具体的なコンセンサスが得られていないからこそ、SDGsに対してよりヒューマニスト的、普遍的、包括的な視点を示すことができるという希望でもあります。

 現在、世界には195カ国が存在すると言われており、そのうち193カ国が国連に加盟しており、2カ国が正式加盟国ではないオブザーバー国家となっています。このうち、71の国・地域では、合意の上で行われる同性間の私的な性行為を犯罪としており、そのうち43の国・地域では、「レズビアン」「同性との性的関係」「重大なわいせつ行為」を禁止する法律を用いて、女性同士の合意に基づく私的な性行為を犯罪としています。

 また、11の国・地域では、合意の上での私的な同性間の性行為について(少なくとも理論上は)死刑を法定刑として定めており、少なくとも6カ国では、実際に死刑が執行されています。

 その上、15の国・地域では、いわゆる「女装(cross-dressing)」「なりすまし(impersonation)」「変装(disguise)」を、法を用いてトランスジェンダーの人々の性自認や表現を犯罪として扱っています。

 このように、世界195カ国のうち、少なくとも71カ国で法的抑圧を受けているLGBTQの人々の発展を、SDGsの目標の1つとして積極的に定めることができるでしょうか。残念ながら、それは不可能です。

【次ページ】SDGsなどの「権利に関する法」の採択プロセスから読み取れる“希望”

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