• 2021/07/03 掲載

法律家の私たちが、「憲法は同性婚を禁止している」論を“都市伝説”だと言い切る理由

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この数年、日本で同性婚についての意見を発信する人が増えているように感じます。結婚をする/しないも含めて、結婚とは人生における重大事であり、結婚についての議論が盛んに行われることは自然だと思います。ただし、日本では現在、多くの先進国とは異なり、同性婚は法的に認められていません。これはどうしてなのでしょうか。現在の制度では、誰かが誰かを好きになり、結婚したいと思った場合に、相手の「性別」を国が(戸籍に基づいて)チェックし、「あなたはあの人と結婚してよし」「あなたはあの人と結婚してはだめ」というように国が「判定」しているとも考えられます。これは正しいのでしょうか。この問題について、法律家である私たちは、法律の観点から検討してみます。

弁護士/ニューヨーク州弁護士 佐々木 弘造、弁護士 中山 佑華

弁護士/ニューヨーク州弁護士 佐々木 弘造、弁護士 中山 佑華

佐々木 弘造
『特定非営利活動法人(東京都) LGBTとアライのための法律家ネットワーク』理事及び共同創設者。1996年早稲田大学法学部卒業、2003年米国コロンビア大学ロースクール卒業(法学修士)。1998年弁護士登録(第50期)、2004年ニューヨーク州弁護士登録。

中山 佑華
『特定非営利活動法人(東京都) LGBTとアライのための法律家ネットワーク』メンバー。2015年慶應義塾大学大学院法務研究科卒業、2016年弁護士登録(第69期)。

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法律的視点から、同性婚について考える


憲法は「同性婚」を本当に禁止しているのか

 婚姻について規定した憲法第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定めています。

 この規定を根拠に、「憲法は同性婚を禁止している」「憲法を改正しない限り、同性婚は不可能」という議論を、ネット上をはじめ、政治家同士の討論やメディアの中で見かけることがあります。

 たとえば、2015年2月18日、参議院本会議において、安倍晋三内閣総理大臣(当時)は「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない」と発言し、同年4月1日にも参議院予算委員会において同様の発言をしました。

 そして、これらの発言については、「安倍氏が『日本国憲法は同性婚を禁止しており、同性婚を認めるためには、憲法の改正が必要である』と考えていることを示す」という趣旨の報道が散見されました。

 現在、日本政府は「同性婚制度を憲法が禁止している」という立場を明確にはしていないものの、「(同性婚は)わが国では憲法上想定されていない」という曖昧な回答を繰り返すにとどまっているため、いまだ「同性婚制度を憲法が禁止している」という議論が完全にはなくなっていないのが現状です。

 しかし、法律家である私たちは、上記のような議論には根拠がなく、「都市伝説」と言ってよいと考えています。以下では、その理由について述べます。


憲法第24条第1項が作られた背景

 まず、憲法第24条を改めて見てみましょう。憲法第24条第1項は、次のとおり定めています。

「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない。」

 ここでの「両性の合意のみに基づいて」という文言は、どういう意味なのでしょうか。また、どのような経緯で憲法にこの文言が入ることになったのでしょうか。

 すべての法律について多かれ少なかれ言えることだとは思いますが、憲法のような根本規範においては特に、特定の歴史的経緯や文化的背景から条文が作られることが多いです。このような視点からこの問題を考えてみることにします。

 第二次世界大戦前、日本は封建的な家長制度を採用していました。具体的には、「家長」(たとえば、父親や長男)の許可がない限り、たとえ愛し合う者であっても、本人たちの意思だけでは結婚をすることができなかったのです。しかし、戦後、現行憲法起草時に、このような家長制度を廃止し、愛し合う者本人たちの合意だけで婚姻ができるようにしました。これが、憲法第24条第1項です。

 つまり、憲法第24条第1項の「両性の合意のみに基づいて」とは、「『両当事者の』合意のみで」婚姻が認められるという意味なのです。

 憲法起草時といえば、今から70年以上前のことです。当時は、現在と違って、同性愛が公の場で議論されることはほとんどありませんでした。憲法起草者たちは、同性同士で結婚したいと考えている人については、憲法起草に際して明確に考えてもいなかったに違いありません。

 明確に考えられていなかったのですから、同性同士の結婚を禁止するために「両性」という文言が採用されたとはおよそ考えられません。言い換えれば、憲法第24条第1項が同性婚を禁止したとは考えられないのです。

 なお、憲法第24条第1項には「夫婦」という言葉もあります。これは、憲法起草者の「結婚するのは異性カップルだろう」という一般的な発想を前提として、結婚したカップルを「夫婦」と呼んでいるにすぎず、この言葉を根拠に憲法が同性婚を禁止していると考えるというのは、とんでもなく乱暴な議論です。

【次ページ】憲法の存在意義とは何か

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