- 2025/10/31 掲載
なぜ「石丸現象」の“中身”を見抜けないのか? “チェリーピッキング”の危険性
連載:集団狂気の論理【第2回】
専門は論理学・科学哲学。青山学院大学・お茶の水女子大学・上智大学・多摩大学・東京医療保健大学・東京女子大学・東京大学・日本大学・放送大学・山梨医科大学・立教大学にて兼任講師を歴任。ウエスタンミシガン大学数学科および哲学科卒業後、ミシガン大学大学院哲学研究科修了。
著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』(以上、講談社現代新書)、『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『新書100冊』(以上、光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『実践・哲学ディベート』(NHK出版新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)、『天才の光と影』(PHP研究所)、『ロジカルコミュニケーション』(フォレスト出版)など多数。
「安芸高田市の恥」とまで呼ばれた石丸氏
安芸高田市長としての石丸氏は、最初から最後まで一種の“トラブルメーカー”だったといえるだろう。まず、石丸氏は、自分が当選した市長選挙に使用したポスター260枚・ビラ1万6,000枚の代金約108万円の内、約35万円しか支払わなかったため、印刷会社から訴えられた。
石丸氏は「報酬が公費負担で収まると合意があった」と主張したが、2023年5月、広島地裁は「そのような合意があったとは認められない。会社の見積額には相当性がある」として、石丸氏に約73万円の追加支払いを命じた。
石丸氏は控訴したが、12月の広島高裁も原判決を支持、2024年7月には最高裁も上告を受理せず、支払い命令が確定した。
そもそも、この印刷会社は市長選直前に石丸氏の要望を聞き入れて短期間で印刷を完成させ、しかもその会社には石丸氏の実妹が勤務していたという。
その恩義ある会社に対して、このレベルの金銭トラブルを和解もせずに最高裁まで争うというセンスは、常識的には理解しがたい。
この裁判記録を読んだ弁護士・紀藤 正樹氏は、「石丸氏は、ほとんどモンスタークレーマー」だと述べている。
市長に就任して2カ月後、石丸氏は、山根 温子議員から「敵に回すなら政策に反対する」と「恫喝された」とX(旧Twitter)に投稿し、市議会で実名を挙げて非難した。この「事実無根の言いがかり」を看過できなかった山根氏は、石丸氏に対する名誉毀損訴訟を提起した。
2023年12月26日、広島地裁は、山根氏の録音記録などの証拠から「恫喝は事実とは言えず、議会での発言は市長としての裁量を逸脱したもの」と指摘した。さらに「SNSで広報活動をする際に注意義務を尽くしておらず、違法な行為で市議の名誉を毀損した」と石丸氏の名誉毀損行為を明確に認定し、石丸氏に損害賠償金約33万円を支払うよう命じた。
この判決を受けて、2024年1月10日、市民グループ「安芸高田市政刷新ネットワーク」は、「就任早々に恫喝発言をでっちあげて、そのことを契機に議員を悪役にする。自分は、その悪役を懲らしめる『正義のヒーロー』として振る舞っている」と、石丸氏の「劇場型政治」スタイルを強く批判し、「辞職要求書」を石丸氏に提出している。
この「辞職要求書」には「安芸高田市の恥をこれ以上、全国にさらすことは絶対に許容できない」とまで書かれている。要するに、3年に及ぶ石丸氏と市民の対立は、そこまで限界に達していたわけである。石丸氏は、2024年6月9日、任期途中で安芸高田市長を辞職した。
ちなみに、その辞職に伴う安芸高田市長選では、石丸市政を批判する元郵便局長の藤本 悦志氏が、石丸市政の「継続と改善」を掲げる前市議の熊高 昌三氏を破って初当選している。この事実からも、安芸高田市民が石丸市政を見限っていたことが伺える。
これほどまでに人望のない石丸氏が、なぜ2024年の都知事選では小池 百合子氏に次ぐ約166万票を得ることができたのだろうか? 【次ページ】安芸高田市長に初当選した銀行員
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