• 2025/09/15 掲載

Salesforce管理者がスキル不足だと…「AI導入メリット享受できない」衝撃の事実(2/2)

連載:イチからわかるSalesforce最強活用術

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AI導入のメリット享受に「管理者育成」が必須と言えるワケ

 企業は、この新たな役割を担うSalesforce管理者の育成に投資する必要がある。もしも適切なスキルセットを持つSalesforce管理者がいなければ、Salesforceが提供する最先端のセキュリティ機能も十分に活用されず、AI導入のメリットを享受できない可能性があるためだ。

 Agentforceの導入は単なる機能追加ではなく、企業全体のデータフローや業務プロセスに影響を与えるものであり、その推進者となるSalesforce管理者は、Salsforceのセキュリティ機能であるEinstein Trust Layerや次世代インフラストラクチャーであるHyperforceを最大限に活用し、組織がAIを安全かつ責任ある形で利用できるよう、中心的な役割を担うことになる。

Salesforceに搭載されている「鉄壁」の防御機能5選

 Einstein Trust Layerは強力なセキュリティ機能の集合体であるが、その効果はSalesforce管理者が適切に設定・運用して初めて最大限に発揮される。具体的な機能については、以下の通りだ。

・プロンプトテンプレートの設計と組織データ連携の最適化
 企業は、Agentforceが利用するプロンプトテンプレートを、組織のビジネスプロセスとデータ構造に合わせて設計する必要がある。Salesforce管理者は、Secure Data Retrieval機能を用いて、どのSalesforceレコードやData CloudのデータがAIに安全に連携されるべきかを定義し、不必要な情報がプロンプトに含まれないように最適化する。プロンプトテンプレートの設計は、組織のビジネスロジックと機密データの特性を深く理解していなければ不可能である。

・データマスキングルールの設定、テスト、および監視
 PIIやPCIなどの機密情報がLLMに送信されることを防ぐため、Salesforce管理者はData Maskingルールを適切に設定し、定期的にその有効性をテストする必要がある。また、マスキングが正しく機能しているかを継続的に監視し、必要に応じてルールを調整する。

・外部LLM連携におけるゼロデータ保持契約の確認と運用管理
 Salesforce管理者は、AgentforceがOpenAIに代表される外部LLMを利用する場合、SalesforceとLLMプロバイダー間のゼロデータ保持契約が組織のデータプライバシーポリシーとコンプライアンス要件を満たしていることを確認する責任がある。また、この設定がシステム上で正しく有効化されているかを運用中に管理する。この契約の確認は、法務・コンプライアンス部門との連携を必要とし、管理者は単独ですべてを決定するのではなく、組織内の他部門と協力し、技術的な側面からコンプライアンス要件を満たすための橋渡し役を担う。

・プロンプト防御ポリシーの理解と、組織固有のガードレール設定
 プロンプト防御機能は、AIが不適切な指示を受けたり、データに基づかない回答を生成したりすることを防ぐ。Salesforce管理者は、Salesforceが提供する標準のガードレールを理解し、さらに組織固有の利用ポリシーや倫理基準に基づいた追加の防御策を設定・適用する必要がある。

画像
Agentforeのガードレール一覧
(出典元:筆者提供)

・有害性検出結果の定期的なレビュー
 Toxicity detection modelによって検出された有害なコンテンツのログを定期的にレビューし、AIの生成結果が組織の倫理基準やブランドイメージに合致しているかを確認する。

 これらの設定と運用が適切に行われない場合、たとえSalesforceが強固な基盤を提供していても、機密情報の漏洩、ハルシネーションによる誤情報拡散、または不適切なコンテンツ生成といったリスクが顕在化する可能性がある。Salesforce管理者の専門性と実践的なスキルが、AI導入の成否を左右すると言っても過言ではないだろう。

「データカバナンス」で担うべき役割とは

 AIエージェントはデータに依存するため、その信頼性と安全性は、基盤となるデータガバナンスの質に直結する。Salesforce管理者は、データガバナンスの徹底において中心的な役割を担う。

彼らが担う役割は、具体的には以下の通りだ。

・Agentforce利用におけるユーザーのデータアクセス権限の最小化(最小権限の原則)
 Salesforce管理者は、Agentforceを利用するユーザーに対して、業務遂行に必要な最小限のデータアクセス権限のみを付与する「最小権限の原則」を徹底する。これは、AIエージェントがアクセスするデータ範囲を制限し、潜在的なリスクを最小化するために不可欠である。

・Data Cloud監査証跡の定期的なレビューと異常検知
 Data Cloudに記録されるプロンプト、応答、信頼シグナル、フィードバックの包括的な監査証跡を定期的にレビューし、不審なアクティビティや異常なデータアクセスパターンを早期に検知する体制を構築する。この監査証跡のレビューは、単なる記録確認に留まらず、AIの挙動を理解し、その改善点を見つけるための重要なフィードバックループとなる。これにより、AIの透明性と説明責任が向上する。

・PII/PCIデータなど機密情報の適切な取り扱いとライフサイクル管理
 組織内で取り扱うPIIやPCIデータなどの機密情報について、Agentforceを介した利用を含め、その収集、保存、処理、共有、破棄に至るライフサイクル全体を通じて、組織のセキュリティポリシーと関連法規制(例:個人情報保護法、GDPR)に準拠した適切な取り扱いを徹底する。強固なデータガバナンスは、AIが生成するアウトプットの品質と信頼性を向上させ、企業がAIを活用して意思決定を行う際の確信度を高める。これは、AIがビジネスに与える影響が大きくなるにつれて、その重要性が増す領域である。

AI導入のリスク管理における注意点とは

 Salesforce管理者は、AI導入に伴うコンプライアンスとリスク管理の側面においても重要な貢献をする。

・組織のセキュリティポリシーとAgentforce利用の整合性確保
 Salesforce管理者は、Agentforceの導入・運用が、組織が定める既存のセキュリティポリシー、データ保護ポリシー、および利用規定と完全に整合していることを確認し、必要に応じてポリシーの改定を提案する。

・データレジデンシー要件の理解と、推論エンジンのホスティング場所への対応
 Agentforce Atlas(推論エンジン)が現状として米国にホスティングされているOpenAIのモデルを利用している点を踏まえ、Salesforce管理者は、組織のデータレジデンシー要件(特に日本国内でのデータ処理義務など)を深く理解する必要がある。この技術的な詳細が組織のデータレジデンシー要件や国際的なデータ転送規制(例:日本の個人情報保護法における外国への第三者提供ルール)にどのように影響するかを理解し、必要に応じて法務部門と連携し、適切な契約上の措置やデータマスキングのような技術的対策を講じる必要がある。

・セキュリティインシデント発生時の迅速な対応と報告
 もしAgentforceに関連するセキュリティインシデントが発生した場合、Salesforce管理者は、CSIRTや関連部門と連携し、迅速な初動対応、影響範囲の特定、封じ込め、復旧、根本原因分析、そして関係者への適切な報告を行う責任を負う。セキュリティインシデント対応は、単なる技術的な復旧作業ではなく、法規制に基づく報告義務や、顧客・ステークホルダーへの透明性あるコミュニケーションを含むため、管理者は技術的な知見に加え、危機管理とコミュニケーションのスキルも求められる。管理者がこれらのコンプライアンスとリスク管理の側面を適切に担うことで、企業はAI導入に伴う法的リスクを最小限に抑え、信頼性の高いAI活用を実現できる。

「知識のハブ」がなぜ重要なのか

 AI技術とセキュリティの進化は非常に速いため、Salesforce管理者が継続的に学習し、その知識を組織全体に広めることは、企業がAIを安全に、かつ競争優位性を持って活用し続ける上で不可欠である。管理者は、単なる技術者ではなく、組織の「知識のハブ」としての役割を果たす。

・Salesforceおよび生成AIセキュリティの最新動向の追跡と社内共有
 Salesforceのセキュリティ機能や生成AI技術は急速に進化しているため、Salesforce管理者は、最新のセキュリティアップデート、新機能、業界のベストプラティクス、そして新たな脅威の動向を継続的に追跡し、社内関係者と共有する。

・Agentforceユーザーへのセキュリティ意識向上トレーニングとガイダンス提供
 AIエージェントの安全な利用を促進するため、Salesforce管理者は、Agentforceのユーザーに対して、データプライバシー、機密情報の取り扱い、プロンプトの作成における注意点、不審なAIの挙動の報告方法などに関するセキュリティ意識向上トレーニングや実践的なガイダンスを提供する。ユーザーへのセキュリティ意識向上トレーニングは、技術的なガードレールだけでは防ぎきれない「人的要因」によるリスクを軽減する、AIの安全性を高めるための最後の、しかし最も重要な防御線となる。

・Salesforceが提供するセキュリティドキュメントやホワイトペーパーの活用
 Salesforceが提供する「The Security, Privacy, and Architecture (“SPARC”) - Einstein Platform」、「Salesforce Agentforce & Einstein Generative AI Security White Paper (JP)」、「[Whitepaper] Mitigating LLM Risks Across Salesforce's Gen AI (JP)」などの公式ドキュメントやホワイトペーパーを積極的に活用し、深い知識を習得する。

 継続的な学習と情報共有は、組織全体のセキュリティ文化を醸成し、AIを活用したイノベーションを安全に推進するための土壌を形成する。これにより、企業はAIの潜在能力を最大限に引き出しつつ、リスクを効果的に管理できる。

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