- 2025/08/19 掲載
【単独】「僕の進化は光より速い」新日本プロレス棚橋弘至社長が語る経営哲学とは(2/2)
時代に柔軟に対応する経営の重要性
ある地方巡業の折、大分県の企業で耳にした「長寿企業の条件」が棚橋氏にとって深く刺さったという。「1つ目は会社の理念がしっかりしていること、2つ目は会社の製品・プロダクツがしっかりしていること、そして3つ目が一番大事なのですが、時代に柔軟に対応することでした」
なぜ3つ目に強く共感したのかといえば、プロレス業界もまた時代の変化のただ中にあるからだ。
「リビングに集まって家族団らんで同じものを見るといったことがない時代になってきた。であればオンデマンドを強化していくしかないでしょう。それが時代に柔軟に対応することになるのかもしれません」
現在、新日本プロレスでは公式動画配信サービス「NJPW WORLD(ニュージャパンワールド)」を通じてグローバル展開を推進中である。英語実況付きの試合配信も強化し、世界中のファンにリーチしている。
SNSやYouTube、バラエティー番組などメディア露出も多角化し、「プロレスに興味のない層」へのアプローチも進めている。メディア戦略も、まさに「時代適応」の象徴だ。
ビジョンと逆算、そして次の世代へ
メディア環境の変化についても、棚橋氏は現実的な対応策を示している。「僕たちは子供の頃に金曜8時に新日本プロレスの中継があって、お父さんが好きだったら大体テレビが1台の時代だったので、家族でプロレスを見るしかないんですよ。けど今もうスマホでも見られるし、リビングに集まって家族団らんで同じものを見るっていうのがなかなかない時代になってきた」
「それだったらもちろんテレビのいい時間帯にプロレスの中継が流れるのが一番いいんですけど、オンデマンドで見れる部分などを強化していくしかないのかなと。それがまあ時代に柔軟に対応することになるんじゃないかなと思っています」
変化の激しい現代において、棚橋氏の「エネルギーを届ける経営」は、多くの企業にとって参考になる要素を含んでいる。明確なビジョンの設定、現場感覚を生かした意思決定、時代の変化への柔軟な対応、そして困難を成長の機会として捉える姿勢。これらは業界を問わず、現代の経営者が身につけるべき資質と言えるだろう。
プロレスという特殊な世界での経験が、一般的なビジネスの世界でも通用する普遍的な原則を生み出している。棚橋氏の挑戦は、まさに「100年に一人の逸材」にふさわしい革新的な取り組みと言えるのではないだろうか。

組織は“想像力”で動く
棚橋氏の経営観を支えているのは、「現場感覚」と「経営視点」の両立である。どちらか一方に偏れば、組織はバランスを失う。逆に、両方の言語を同時に話せる存在は、組織にとって極めて貴重だ。棚橋氏は、リングの上で“闘う側”の論理を知り尽くしている。ファンが何に熱狂し、選手が何を考えているかを、肌で理解している。そのうえで、経営者として全体を俯瞰(ふかん)する目線を獲得した。「現場に立ちながらマネジメントする」という立場が、彼を唯一無二の存在にしている。
プロレスには、単なる競技では語れない複雑さがある。勝敗の向こう側には、思想の衝突やキャリアの綱引きが渦巻く。棚橋氏は、こう語る。
「主義主張のぶつかり合いこそがプロレスの醍醐味(だいごみ)なので、プロレスラーってすごいめんどくさいんですよ。なぜかといえば、全員自分が1番だと思っているからです(笑)」
それでも、団体としての一体感を保つには、方向性を示す旗印が必要になる。「どの頂(いただき)を目指しているのか」「なぜ今このマッチメイクなのか」といった視点を現場に浸透させる。そのプロセスにおいて棚橋氏が頼るのは『想像力』だ。
「頭の中で想像できないことは実現できないので、まず想像してみることというのが僕の仕事のスタートかもしれないですね」
選手も社員も、それぞれが目指すビジョンを想像し、自分の位置を定めていく。その“想像の余白”を創るのが、リーダーの仕事だという意識がある。
経営とは、言葉と行動、情熱と構造のバランスを取り続けることでもある。棚橋弘至氏が体現する「プロレス的マネジメント」は、まさに“想像力で組織を動かす”ことの実践に他ならない。
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