- 2025/09/14 掲載
AI導入しないと大惨事……日本が「保険医療だけ世界一の三流国」になるヤバい未来(2/3)
「AI医師の診断を重視する時代」は確実にやってくる
私自身は、医師の絶対数の不足にしても、地域や診療科の偏在による相対的な不足にしても、十分に解決可能だと感じています。大学の研究室で研究に専念する医師は別として、臨床現場に立つ医師は、広範囲の専門知識をもとに独自の判断で診療するのではなく、まずAI医師の判断と協業し、AI医師の診断を重視して実行する時代が確実にやってきます。
医師の仕事がそう変わる以上、従来のように6年制の医学部教育と最低2年の研修制度で育成する現行制度は必要ないという議論は成り立ちます。育成型の医学部とは異なる別の教育機関を新設し、3~4年で臨床医を育成できるようになるならば、医師不足が叫ばれる現在の状況とは風景が一変します。
そもそも、厚生労働省が医師を確保したいのは制度医療、つまり保険診療を今後も存続させるために、そこに優秀な人材をなるべく多く集めたいという思惑からです。しかし赤字国債の発行によって賄われている国家予算のうちのかなりの割合を医療費が占め、国の借金がいよいよ1,300兆円に迫ろうとしている中で、制度医療を従来のあり方のまま続けてよいとも、また続けられるとも思えません。
2022年度の国民医療費(保険診療の対象となりえる病気やけがの治療に要した費用)は46兆6,967億円でしたが、その財源負担の内訳を見ると、37.9%を公費(国庫負担と地方負担を合わせた税金)で、50%を事業主と被保険者が負担する保険料で、12.1%をその他(患者負担など)で負担する構成となっています。
公費のうち国庫負担は11兆7,912億円(同25.3%)、地方は5兆8,925億円(同12.6%)で、国の一般会計歳出(2022年度は110兆3,000億円)の1割以上が医療費に充てられている計算です(注3)。OECDの2023年報告では、日本の政府支出に占める公的医療費の割合は、OECD加盟国中で最も高いと指摘されています。
日本が30年前と同じくらい豊かな国であれば、このように税金を潤沢に注ぎ込んで医療制度を維持したところで何の問題もありません。しかし現在の日本は、かつて外貨の稼ぎ頭であった製造業で軒並み他国にシェアを奪われ、技術革新も起こらなくなった結果、確実に貧しい国になりつつあります。
このままだと日本は「保険医療だけ充実している三流国」に
日本の名目国内総生産(GDP)は高度成長期以来ずっとアメリカに次ぐ2位でしたが、2010年には中国、2023年にはドイツに抜かれ、4位に転落しました。また、個人の豊かさを示す国民1人あたりのGDPも2000年には世界2位でしたが、2024年には38位。日本経済研究センターの試算によれば、この1人あたりGDPで日本は2022年に韓国、2024年に台湾を下回ったとされています。同センターが2023年12月に公表した予測では日韓の順位逆転は2031年、日台逆転は2033年になるはずでしたが、円安・ドル高などの影響もあり、大幅な前倒しとなりました(注4)。このように確実に国力が衰えている日本にあって、保険医療の充実度だけは相変わらず世界一、というのは健全なのでしょうか。率直にいって、このままだと2050年ごろには、「保険医療だけが世界でも群を抜いて充実している三流国」になりかねません。
むしろ、AI技術を活用して保険診療の効率化を図り、医師1人あたりの診療能力を飛躍的に向上させることで、現在の医師不足問題を根本的に解決すべきです。保険診療で扱う範囲を今よりもシンプルにし、AI診断支援で質の高い医療を効率的に提供する。そうした新しい医療制度への転換こそが、日本の医療の未来を切り拓きます。 【次ページ】医療費削減にも期待、急速に進む「医療×生成AI」の現在地
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