• 2025/09/19 掲載

【ガートナー警告】生成AIで「部門間の境界」が消え…衝突多発する“組織の歪み”とは(2/2)

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部門間の“衝突”が起きる時代…今何が起きてるか?3つのポイント

 AIによる領域間の衝突がもたらす結果として、イドイン氏は「一体化」「重複」「コンポジット」の3つを挙げている。

 まず「一体化」とは、意思決定支援のプラットフォーム上に、データエンジニアリングやBI、アナリティクス、機械学習といった機能が集約され、1つの連続的なプロセスとして動作するようになる現象を指す。企業はデータの取得から分析、アクション、効果測定までを包括的に扱う体制へとシフトしつつある。

 次に「重複」とは、類似した機能やツールが複数の領域で重なり合いながらも、それぞれが独自の用途や特徴を維持し続ける状況を指す。たとえば、アナリティクスとBI、機械学習の機能が一部重複しながらも、それぞれが別個の製品群として存在している。

 最後のコンポジットとは、これらの機能をモジュール単位で切り出し、再構成可能にするアプローチだ。イドイン氏によると「必要な時に必要な要素へアクセスし、それらを柔軟に統合・管理できる能力が重要になる」とのことだ。

 ガートナーは「2026年までに組織の50%が、ABI(アナリティクスとBI)とDSML(データサイエンス/機械学習)を統合的に扱う“コンポーザブル・プラットフォーム”として評価せざるを得なくなる」と予測している。

衝突はさまざまな観点で影響を及ぼす

 次に、イドイン氏は「なぜ、この衝突が問題なのか」について言及した。イドイン氏は「データ、アナリティクス、ソフトウェア開発の交錯によって生まれる“衝突”は、単なる技術的な問題にとどまらず、プロセスや人材、ガバナンスなどの観点にも影響を及ぼします」と指摘。

 まず「プロセス」面では、従来の分析活動が「データの取得→洞察の抽出→行動の実行→影響の測定」という構造に分断されていたのに対し、現在ではそれらが一貫した流れとして連結しつつあるという。

 イドイン氏は「今では1人、または1つのチームが、パイプラインの構築から分析、アクションの設計、効果測定までを担う“エンド・ツー・エンドの一貫対応”が現実になっています」と述べる。

 この変化はテクノロジーの進化だけでなく「人材」面にも影響を与えるという。イドイン氏によると「今後求められるのは、ITスキルやAIスキルだけではなく、それらをビジネスに応用するスキルや、ガバナンスへの理解を含む“より広範なスキルセット”である」という。

 「ただ、これらすべてを1人で担うのは非現実的です。だからこそ、異なる専門性を持つ人材同士のコラボレーションが、これまで以上に重要になるのです」とイドイン氏は強調する。

 さらに「役割」も変化している。アナリスト、サイエンティスト、開発者といった従来の職種に加え、「意思決定エンジニア」や「ドメインデータ・アナリティクス・リーダー」など、ビジネスへの適用を重視する新たな役割が登場している。

 「意思決定をビジネスにオーケストレーションする役割こそ、今後の中核になります」とイドイン氏は述べ、ガバナンスの枠組み自体の再構築が求められていることを示唆した。実際、組織におけるガバナンスの複雑性も急速に高まっている。イドイン氏は「AIによって衝突が起きている今、私たちは従来型の統制ではなく、より柔軟な管理体制を取る必要があります」と指摘する。

 ガートナーでは、これまでのような一律の「コマンド&コントロール」型では、変化のスピードに追いつけないとし、新しい状況に対応するための方策として「アダプティブ・ガバナンス(適応型ガバナンス)」を提唱している。アダプティブ・ガバナンスとは、多様化・複雑化するデータ、アナリティクス、AIの活用状況に応じて、ガバナンスの方法やルールを柔軟に変化させるという考え方だ。

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D&A(データ&アナリティクス)ガバナンスへの影響
(出典:ガートナー2025年5月)

 ガバナンスの変化は、人材やスキルにも影響を及ぼす。イドイン氏は「複雑さが増す中で、物事は一見やりやすくなっているように見えても、管理はより難しくなります。だからこそ、衝突の影響をしっかりとマネジメントしなければなりません」と述べる。

 こうした文脈において注目されるのが、今後求められるスキルの変化だ。従来のアナリストやデータ・サイエンティストにとっても変化は避けられないだろう。ガートナーは「2027年までに、データ・アナリストの50%は、データ・サイエンティストとして再トレーニングされ、データ・サイエンティストはAIエンジニアへと移行する」という予測を公表している。

衝突の影響と対応策、衝突を活用して価値を高める方法

 イドイン氏は、AIがもたらす「衝突」は混乱を生む一方で、「大きな価値を生む原動力にもなり得る」と説明する。その上で、組織がこの衝突を活用して価値を引き出すために必要な視点として「衝突」「集約」「クラスタ化」「変化の促進」の4つを挙げる。

 まず、「衝突」を通じて、データ、アナリティクス、ソフトウェア・エンジニアリングが融合し、“エンド・ツー・エンドで洞察から行動・影響測定までを一気通貫で実現できる”ようになってきているという。

 次に「集約」。AIの活用は分析プロセスにとどまらず、ソフトウェア開発やビジネスユーザーによる意思決定プロセスにも広がっている。これらをオーケストレーションする新たな“エコシステム”の全体像を俯瞰(ふかん)し、戦略的に活用していくことが求められる。

 「クラスタ化」では、機能単位でモジュール化されたAIやデータサービスが“コンポーザブル”な形でプラットフォーム上に並び、必要なものを自由に組み合わせて使える世界が到来しているとのことだ。その中で「ツール、モジュール、分析テンプレートなどを誰が選ぶのか。それはIT部門ではなく、ビジネスユーザーです」とイドイン氏は強調する。

 最後に「変化の促進」について。AIやアナリティクスの活用はビジネス優先課題と密接に連動する形で進められるべきであり、組織全体をアジャイルに変革していく触媒となる。パイプライン全体に“拡張”を行き渡らせ、戦略的意思決定に資する体制を築くことが重要だと説く。

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衝突の影響と対応策
(出典:ガートナー2025年5月)

 さらにイドイン氏は「2027年までに、新しいアナリティクス・コンテンツの75%は生成AIによってコンテキスト化され、インテリジェント・アプリケーションにおける洞察と行動がコンポーザブルにつながる」という予測を提示し、すでに未来が到来していると説明した。

生成AI時代に重要な「ガートナーからの5つの提言」

 イドイン氏は、データとアナリティクス、ソフトウェア開発を融合させていく現代において、「生成AIを含むAI活用を戦略的に進めるには、単なる技術導入を超えた視点が必要です」と強調する。その上で、ガートナーから提言として以下の5つのポイントを示した。

 1つ目は「AI機能を既存ツールに組み込む」こと。イドイン氏は「AIは新しいテクノロジーだけではありません。今あるプラットフォームにすでに統合されている機能を、どう拡張するかを考えることが大切です」と語る。

 2つ目は「AIの利用を管理/統制する」。AIを取り巻く人材、ツール、データが急増する中で、ガバナンスの重要性は増すため、「ガバナンスが減ることはありません。むしろ、柔軟かつ迅速な統制がこれからの鍵になります」とイドイン氏は説明する。

 3つ目は「エンド・ツー・エンドの技術的能力を拡張する」点だ。分析や開発が一体となったプロセス設計が不可欠であり、「アナリティクス、ソフトウェア開発、業務担当者が一体となって動ける体制づくり」が求められると説く。

 4つ目は「テクノロジーだけでなく、人やプロセスの影響も考慮する」こと。技術の進化に伴い、業務設計や人材育成も含めた全体最適が不可欠となるという。

 そして最後に、「変化を促進するには、ビジネスの優先順位にしっかりとひも付けて取り組むこと」が挙げられた。技術の導入が目的化するのではなく、組織のミッションにどれだけ貢献するかが、これからのAI戦略の成否を分けると言えるだろう。

本記事は2025年5月20日-22日に開催された「ガートナー データ&アナリティクス サミット 2025」の講演内容をもとに再構成したものです。

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