- 2025/11/26 掲載
【単独】ビール大手がなぜミルク…? アサヒが「基礎科学者5人」と異色協業のワケ(3/3)
連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション
基礎科学者と企業研究者「立場も考えも全然違う」のだが…
とはいえ、企業に属する研究者と基礎科学者では、立場も考え方も大きく異なる。特に大きな違いは、企業は既知の知識を役立てようとするのに対し、基礎科学者は分からないことを分かるようにする、つまり未知を既知にすることに情熱を燃やすという点だ。端的に言えば、基礎科学者の最大のモチベーションは「知りたい」である。知り得た知識を役立てることが動力源となるわけではない。一方、企業のモチベーションは、既知の知識を使って社会に役立つ製品やサービスを開発することであり、「知る」ことを重視しているわけではない。
この根本的な違いは、企業と基礎科学者が協業する上で、何らかの問題やトラブルにつながることはないのだろうか。
「アカデミアの研究者と企業の研究者では、各個人の中の『知りたい』と『役に立ちたい』の割合が異なるのだと思います。アカデミアでは『知りたい』の比重が高く、企業では『役に立ちたい』の比重が高いのではないでしょうか。もちろん『知りたい』が100%の研究者もいると思いますが、それは一握りでしょう。だからこそ、それぞれ立場は異なっても分かり合えますし、刺激にもなるのだと思います」(永富氏)
そこで重要になるのが、企業側が「ディスカッションの種を投げられる状態にしておく」ことと「フラットな関係性」だと、永富氏は次のように続ける。
「議論を重ねると、企業側の研究者も徐々に、そのテーマに詳しくなっていきます。だからこそ、ただ話を聞くだけではなく、自ら学んで次のディスカッションの種を用意して先生に投げられるようにしておくことは非常に重要だと思います。それによって、ビジネスとアカデミアという立場は違っても、研究者同士のフラットな関係が成立し、成果につながりやすいと思います」(永富氏)
今回の5名の基礎科学者とAQIとの関係性も、まさに永富氏の言葉を体現したものとなった。2回の会議のあと、5名全員とAQIとの共同研究の話が進み、現在、プロジェクトが進行中であるという。
最後に永富氏は、現在の基礎科学が置かれている厳しい現状について、企業経営者の視点から次のように感想を述べた。
「当たり前のことですが、数だけでなく質が大切だと思います。今から50年前、ドクターに進む人はほんの一握りでした。それでも、ノーベル賞を取る研究者をたくさん輩出できたのは、質が高かったのだと思います。やはり、そういう質の高い研究者に対して、国が予算と環境面で継続的にサポートすることが重要なのだと思います。また、我々のような民間企業も、その一助になれればと思っています」(永富氏)
危機に直面する日本の基礎研究振興には金銭的な支援も必要なため、大隅財団では個人・法人を問わずに寄付を募っているという(大隅財団寄付ページ:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html)。
AQIのように、中長期の視点で研究開発を行っている企業・組織は少なくない。こうした企業・組織にとって、同社の取り組みは参考になるのではないだろうか。
【大隅氏コメント】研究者と企業をつなげる意義とは
大隅基礎科学創成財団の特徴の1つは、財団の設立趣旨に賛同して協力を約束していただけるたくさんの基礎研究者が結集している点である。企業が解決したい課題に関して、相談すべきアカデミアの研究者を的確に見出すことが難しい、という意見が寄せられている。その解決に向けて、研究者と企業のマッチングを図ることを目的として、研究者紹介事業を立ち上げた。公益財団としての性格上、財団は紹介に伴う取り決めに関わるが、その後の共同研究の詳細(実施年数、研究費など)については、当事者間の相談に委ねる。まだこれらの情報が十二分に伝わっていないこともあり、実施件数は少ないが、好評を得ており今後広がることが期待される。
大隅財団寄付ページ:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html
政府・官公庁・学校教育のおすすめコンテンツ
PR
PR
PR