• 2025/11/20 掲載

ChatGPT登場から早3年…今知っておくべき「AIブーム」の正体、“激動30年”を超図解(3/3)

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火付け役は? 第3次AIブームをもたらした「3つの要因」

 この長い「冬の時代」を経て、第3次AIブームが訪れたのは2010年前後のことだ。ちょうどこの時期に3つの要因それぞれでブレークスルーが重なった。深層学習(AIアルゴリズム)、クラウド・コンピューティング(計算資源)、ビッグデータ(データ利用の可能性)だ。

 深層学習については、「AIの父」と称されるトロント大学のジェフリー・ヒントン教授らが2006年の論文でオートエンコーダーと呼ばれる新手法を提案したことが転機となった。この手法を用いて、物体の認識率を競う2012年のILSVRCでエラー率を劇的に下げて優勝し、研究者に衝撃を与えた。これが第3次ブームに火をつけたようだ。

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図表2:AI開発に影響を与える3要因とイノベーションの連鎖
(出所:筆者作成)

 ちなみに、ヒントン教授は「冬の時代」の1986年にも人間の脳に模したニューラルネットワークで重要な誤差逆伝播法と呼ばれるアルゴリズムの開発を手掛けていた。これらの業績により、「人工的なニューラルネットワークを用いた機械学習の開発についての基礎的な発見や発明」に貢献したとして、2024年にノーベル物理学賞を受賞している。

今のAI市場はこうして作られた、一貫している「法則」とは

 他方、クラウドコンピューティングとビッグデータの2つの要因は、米国発の「ニュー・エコノミー」が生み出した成果そのものだ。つまり、現在のAI開発ブームに影響を与えた3要因うち2つは、AIが「冬の時代」に輝いたICTの発展にあった。

 連載の第176回で解説したように、デジタル化は、ICT-enabled Biz(ICTを利用するビジネス)とICT-producing Biz(ICTを提供するビジネス)の2つの領域でフロンティアを切り拓く。これはデジタル化が本格化してから一貫して作用するインフォメーション・エコノミーの法則だ(図表3)。

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図表3:ICTで広がるふたつのフロンティア
(出所:本連載の第176回 図表1より再構成)

 クラウドコンピューティングの主要サービスであるAmazon Web Service(2006年開始)、Google Cloud(同2008年)、Microsoft Azure(同2010年)は、いずれも第3次AIブームが訪れた2010年前後にサービスを開始し、世界シェアは3社で約2/3を占める(総務省[2025])。

 Azureを擁するマイクロソフトは「ニュー・エコノミー」で基盤となったICT-producing Biz(パソコンとインターネット)の一角を担い、その基盤上でアマゾン(1994年創業)やグーグル(同1998年)などまったく新しいICT-enabled Bizが誕生した(図表4)。

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図表4:ニュー・エコノミーからスマホとAIの時代へ
(出所:本連載の第176回図表2より再構成)

 つまり、1990年代にICT-enabled Bizの立役者になったアマゾンやグーグルが2010年代にはクラウド技術を生かしてグローバルなデジタルプラットフォームを形成し、今度はICT-producing Bizへと立場を変えてデジタル化に貢献したわけだ。

 その結果、大量のデジタル情報がクラウド上に蓄積され、AIが利用可能なビッグデータとして流通するようになった。そこにはモバイル技術の普及による「情報化のグローバル化」で数十億人の人々が利用するようになったSNS上の膨大な会話や映像も含まれる。

 深層学習におけるヒントン教授らの新手法は、こうしたデジタル環境の中で2010年代に花咲いたわけだ。そして、自然言語処理に長けた2022年11月のChatGPT登場へと続き、第3次ブームは冬の時代を迎えることなく、今の第4次ブームにつながった(図表5)。

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図表5:AI時代に広がるふたつのフロンティア
(出所:本連載の第176回図表3より再構成)

AIで「成果を挙げる」ための条件とは何か

 このように、大きな流れをたどると、「冬の時代」に明暗を分けたICTとAIの開発は、実はイノベーションの連鎖として水面下で緊密に並走していたコインの表裏だったことがわかる。この文脈で、両者に通底する共通点と相違点を見いだせば、AIの経済効果を考える手掛かりが得られそうだ。

 日本はこれまでデジタル化で苦戦が続いたが、グローバルな観点で分析すると、ICTはたしかに生産性を上昇させ、所得水準の向上や経済成長に貢献すると実証されている。同時に、効果を上げるには条件があることも明らかになっている。

 ICTとAIは何が類似し何が異なるのか。AIの経済効果を考える際は、ICTの経済効果についてこれまで蓄積された知見と議論を踏まえた詳細な分析が有益だろう。これらの点は回を改めて考えてみよう。

〔参考文献一覧〕
1) McCarthy J, Minsky ML, Rochester N, and Shannon CE(1955)"A proposal for the Dartmouth summer research project on artificial intelligence, August 31, 1955, " AI Magazine, Vol. 27, No. 4, 2006, pp. 12-14.
2) 総務省(2025)『令和7年版情報通信白書』日経印刷, 2025年7月.
3) 南龍太(2024)「期待高まる国産生成AI(前編):AIの歴史的変遷と大規模言語モデルの動向」『NTT技術ジャーナル』Vol. 36, No. 4, 2024年4月, pp. 30-37.

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