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- 2013/06/14 掲載
アフリカなどの途上国でモバイルが爆発的に普及したのはなぜか:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(55)
情報の時代は「貧困の罠」を克服するか
21世紀に入ってからのITのグローバルな普及には目を見張るものがある。その原動力が携帯電話に象徴されるモバイル通信で、これまでは技術伝播が困難だった所得水準や教育水準の国々にも広く普及し利用が定着している。サブサハラと呼ばれるアフリカ中南部の途上国も例外ではない。20世紀まで続いた工業の時代、産業革命の波にうまく乗れなかった国々は、低い所得水準に取り残され、日々食べていくことに精一杯であった。所得の一部を将来に備えて蓄える(=貯蓄する)余裕などなかったのだ。
この貯蓄不足の状態は、経済学の枠組みでみると、投資余力の乏しさを意味する。つまり、未来に向けた人材への投資(=教育)と技術への投資が不充分なのだ。これでは新技術の導入と定着による内生的な経済発展のメカニズムが働きにくいのは当然で、発展への道が塞がれてしまう。「貧困の罠」と呼ばれる悪循環だ(図表1)。
モバイルはなぜ爆発的に普及したか
まず、先進国側の要因としては、携帯電話市場の飽和感と旧技術による低価格のグローバル戦略の2点が挙げられる。1990年代に音声通話とメッセージ送信で急拡大した先進国の携帯電話市場も、2000年代に入ると成長力がかなり鈍化した。世界の携帯電話市場における先進国の純増分は2001年に5割を下回り(図表2)、2002年以降はBRICSを、2005年以降はアフリカその他の途上国をも下回っている。こうした中、携帯電話キャリアと端末製造各社は、3Gによる多様なサービスで先進国市場の深堀りを進める一方、旧技術となった2Gの通信設備と端末による低価格戦略で新興国や途上国の市場を開拓していった。
その中核となった規格は欧州が推進したGSMだ(図表3)。この規格は、旧宗主国として深いつながりのある人脈や制度基盤を活かし、アフリカやアジア諸国で瞬く間に広がったばかりか、北米や中国などcdmaOneを採用した国々にも普及した。
他方、冷戦終結という世界情勢の大変化を受けて、市場経済化や通信自由化に取り組んでいた途上国側では、所得水準や識字率の低さという構造的な課題を抱える中で、次のような要因が働いた。
第1に、携帯電話による音声通話では、文字を読める必要がないことだ。会話さえできれば利用が可能な携帯電話は、少数言語が用いられる地域や識字率の低い地域でも容易に受け入れられる。
【次ページ】「貧困の罠」の突破口は?
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