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2009年01月22日

九州大学大学院教授 篠ア彰彦氏

【新春特別号】不況期の創造的破壊と今後の展望:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(3)

大波乱の2008年が幕を閉じ新年を迎えた。インフォメーション・エコノミーの各論に入る前に、2009年のスタートとなる今回は、トピックスとしてITからみた景気の現況と今後の展望を考えてみよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

ITからみた景気の現況

 日本経済は2007年末を景気の山として大型不況期に入ったとみられるが、この変化は、ITに関連した景気動向からも読み取れる。図1は筆者が情報通信総合研究所と共同で作成しているIT関連の経済指標(InfoCom ICT経済報告)をもとに、生産の増減率(横軸)と在庫の増減率(縦軸)を座標軸にとった在庫循環図である。詳しくは後述するが、2008年に入ってから状況がかなり悪化していることが確認できる。

図1 IT関連指標による在庫循環図
図1 IT関連指標による在庫循環図
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 景気循環は、需要の増減とそれに呼応した供給側の生産調整が生みだす経済変動の一種で、短期、中期、長期の波がある。このうち、3年程度の短期の波が在庫循環で、キチン・サイクルとも呼ばれる。

 そもそも、在庫は最終需要の変動を生産の変動に直結させない緩衝装置の役割を果たしている。売り手はせっかく購入しにきた買い手に売り損じることがないよう、需要を見込んで製品をある程度作り置きする。だが、見込んだとおりに売れるかどうかは不確実で、時には売れ残ってしまうこともある。その場合、従前のとおりに生産し続けると、ますます売れない在庫が積みあがるため、生産のペースを落とすなどの調整が迫られる。

 逆に、予想以上の売れ行きで在庫が不足すると、今度は品切れで販売機会を逃さないように生産の加速が求められる。在庫循環はこのような生産者の行動によって生まれる。

 図2は、この在庫循環図の読み方を示したもので、@からEまで6通りの局面に分けてある。この中で重要なのは、AからBへ変化する局面だ。Aの局面では最終需要が弱まったことを反映して、生産が減速する中で在庫の増加テンポが高まっており、景気にかげりが見えはじめている。

図2 在庫循環の模式図(6局面)
図2 在庫循環の模式図(6局面)
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 もし、状況が速やかに好転し、最終需要が盛り返すならば、在庫の積み上がりが鈍化して生産が増勢に転じるため、再び45度線を右下に越えて@Eの局面に入る。逆に、最終需要がさらに冷え込むと、生産はマイナス基調を余儀なくされ、本格的な生産調整に陥ってしまう(Bの局面)。つまり、在庫循環図には、最終需要の増減を生産の増減に直結させない緩衝機能の状況が描かれているのだ。

 再び図1にもどり、IT関連の経済指標で過去10年の様子を在庫循環図に照らして読み解くと、次の3点が確認できる。第1に、2000年前後のITブームとその崩壊の時期は、在庫も生産も増減の振幅が大きく、かなり大型の循環であったこと、第2に、その後は生産の前年割れを回避しつつ、比較的小規模の安定した循環局面(@AE)が2007年まで2回続いたこと、第3に、2008年に様相が一変し、第1四半期に@からAの局面へ、そして第3四半期にはついにBの局面へとかなり悪い状況に陥ったことである。

在庫調整から設備投資調整へ

 IT関連の在庫循環が2008年半ばからBの局面に入ったということは、最終需要の変動を在庫の緩衝機能だけでは吸収できず、生産の前年割れによる調整が迫られるようになったことを意味する。

 この段階になると、将来の生産増加を考えて計画されていた設備投資が見直され、投資が凍結されたり、白紙撤回されたりする事態を招く。これが設備投資の増減によって生まれる中期(10年程度)のジュグラー・サイクル(設備投資循環)で、投資の2面性と加速度原理の作用によって変動の影響が大きくなるという特徴をもつ。生産増加の局面では、それに対応した設備投資が行われ、景気を力強く牽引するが、生産が落ち込んで設備投資がなくなると、需要が急速に冷え込み、景気はスパイラルな縮小に陥りやすいのだ。

 この点を簡単な数値例で示しておこう(表1)。

表1 設備投資の加速度原理
表1 設備投資の加速度原理
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 まず、液晶テレビ1,000台の生産に製造装置が500台必要で、現在フル稼働だと仮定する。翌期(t1期)に需要が10%増えて1,100台になるとすれば、製造装置は550台必要になる。そのため、企業は現有する500台に加えて新たに50台の製造装置を購入しようとする(550=500+50)。こうして実行される新たな50台の購入が企業の設備投資である。翌々期(t2期)に液晶テレビの需要がさらに10%増えて1,210台になれば、製造装置は605台必要で、t1期までに取得済みの550台に追加すべく、さらに55台の設備投資が実行される(605=550+55)。注目すべき点は、液晶テレビは消費需要として登場するだけだが、製造装置は投資需要と生産能力という「需要と供給」の2面で景気に影響を与えていることだ。この2面性がやがては需給バランスを崩す不安定要因になる。

 そのことが、この数値例ではt3期とt4(t'4)期の動向に表れている。t3期に液晶テレビの需要が1,392台へ15%増加した際、製造装置への投資は55台から91台へと65%も増加しているが、t4期に液晶テレビの需要が10%増に鈍化した場合(それでも液晶テレビの需要は1,392台から1,531台へ2桁増加している)、製造装置への投資は91台から70台へと23%もマイナスになっている。

 もしこのとき、薄型テレビの需要見通しが10%増ではなく5%増へ、さらに下方修正されたなら(t'4期)、液晶テレビの伸び率が10%から5%に鈍化しただけで(それでも1,412台で、t3期の1,392台よりも増加している)、製造装置への投資は35台へと激減してしまう。これが加速度原理と呼ばれる増幅メカニズムだ。

 設備投資が機械装置だけではなく、建物や商業施設など、より長期の不動産建設投資に結びついて生まれるのがクズネッツ・サイクル(建設循環)で、1990年代末に空前のITブームが起きた米国では、データセンターなどの不動産開発が霞ヶ関ビル約50棟分に相当したといわれている。だが、大型開発が一段落すると、次の建設投資までは長期の空白期間が続くことになるため、クズネッツ・サイクルの周期はジュグラー・サイクルよりもさらに長く、15〜25年程度とされる。

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