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  • 2026/05/28 18:10 掲載

SAPの自律型エンタープライズ(Autonomous Enterprise)とは?AI時代の基幹システム論

SAP「2027年問題」にどう対応すべき?

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「AIエージェントが基幹業務を支配」──そんな時代が企業システムの足元まで来ている。生成AIの導入は、これまで文書作成や検索支援といった周辺業務での活用が中心だったが、その適用範囲が企業活動の中核であるERPへと広がりつつある。特に日本企業にとって見逃せないのが、2027年に迫るSAPのサポート終了問題だ。長年積み上げた独自の改修は、便利な資産ではなく、AI導入を止める重荷になりかねない。SAPの年次大型イベントでクリスチャン・クラインCEOが語った「ERPの未来像」とは。
SAPの自律型エンタープライズ(Autonomous Enterprise)とは?AI時代の基幹システム論の画像
SAPのクリスチャン・クラインCEOは「自律型エンタープライズ(Autonomous Enterprise)」を提唱した
(出典:SAP)

コパイロットは終焉。AIが基幹業務を支配

 2026年5月、米オーランドで開催された年次イベント「SAP Sapphire 2026」において、SAPはエンタープライズIT領域で重大な発表を行った。

 クリスチャン・クラインCEOは、基調講演の壇上で「SAP Business AI Platform」を発表し、企業の未来像として「自律型エンタープライズ(Autonomous Enterprise:オートノマス・エンタープライズ)」を提唱した。

 これは、これまで人間が手作業で行っていた業務をAIエージェントが肩代わりし、ERP(統合幹業務システム)を従来の「記録のシステム」から、自律的に判断して動く「実行のシステム」へと進化させるというもの。

 クラインCEOによれば、「基幹業務において80%の精度のAIは不十分であり、推測ではなく正確でコンプライアンスに準拠した結果を出す必要がある」という。AIの活用が普遍化する一方で、具体的なビジネス価値を創出できている企業は少ないというスタンフォード大学の調査結果も引用し、公開データで訓練された汎用言語モデルの限界を指摘した。

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【画像付き記事全文はこちら】
SAPが発表したSAP Business AI Platformの概要

 このギャップを埋めるため、SAPは「50年にわたり蓄積してきた業務プロセスやガバナンスのノウハウをAIエージェントに直接注入する」という。

 この自律型エンタープライズの中核となるのが、アンソロピック社のAIモデル「Claude」との戦略的提携である。

 公式発表によると、ClaudeはSAPの新しいAIプラットフォームに組み込まれ、高度な推論とエージェント機能を提供する。AIエージェントはSAP S/4HANAなどのシステムと連携し、期末決算の処理や従業員の複雑な休暇申請への回答、輸送中のサプライヤー注文の経路変更といったタスクを自律的に遂行する。

 さらに、システム全体を俯瞰するコンパスとして機能するのが「SAP Knowledge Graph」である。この技術により、AIエージェントは数千のビジネスプロセスと730万以上のデータフィールド、そして約45万ものテーブルを横断して、ビジネスの文脈を正確に把握することができる。

 単なる副操縦士(コパイロット)ではなく、ERP内のデータを熟知し、人間の代わりに多段階の思考と実行を担う「思考するERP」が誕生したことになる。

 Claudeの高度な推論能力を活用することで、エージェントはデータに基づいた文脈を理解し、定義されたプロセス内で安全に業務を遂行する。たとえば、財務担当者がCFO向けの報告資料の作成を指示すれば、AIエージェントは数分で最新のデータと分析、財務リスクを反映したプレゼンテーションを完成させる。従来は数時間を要していた作業が短縮され、人間はより戦略的な意思決定に専念できる環境が整う。

 これこそが、SAPが仕掛けた「人間の作業排除」と新たなビジネス価値創造の真髄である。

 SAPは今後、この構想を既存のERPや業務アプリケーション群に段階的に組み込み、財務、人事、調達、サプライチェーンなど幅広い領域でAIエージェントの活用を広げる方針だ。基幹業務を担うAIには、精度や説明責任、ガバナンスが強く求められるだけに、実運用でどこまで企業の業務変革につながるかが焦点となる。

 生成AIの導入は、これまで文書作成や検索支援といった周辺業務での活用が中心だった。SAPの発表は、その適用範囲が企業活動の中核であるERPへ移りつつあることを示すものだ。コパイロットの次に来るのは、業務を理解し、自律的に実行するAIエージェントの時代なのか。エンタープライズITの主戦場は、いよいよ基幹業務そのものへと移り始めている。
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AIエージェント同士が「勝手に」業務を進める

 AIエージェントが真価を発揮するのは、単一のシステム内で完結する作業だけではない。SAPが次に狙うのは、企業の境界線やシステムの壁を越えて、AI同士が自律的に連携し取引を完了させる「ノーボーダー連携」の世界である。

 技術アーキテクチャの公開文書によれば、同社は堅牢でスケーラブルなAIエージェント・エコシステムを構築するため、「Agent2Agent(A2A)」と「Model Context Protocol(MCP)」という2つのオープン標準プロトコルを採用した。

 MCPはAIモデルが外部のツールやコンテキストにアクセスするための標準規格であり、エージェントがどのような機能を利用できるかを動的に発見し、APIの実装詳細を知らなくてもツールを呼び出せるようにする。

 一方、A2Aプロトコルは独立したAIエージェント間の自律的なマルチターン・コラボレーションを可能にする規格である。これにより、SAPのAIアシスタントである「Joule」をクライアントとして、社外のサードパーティ製エージェントや他のシステム(MicrosoftやGoogleなどのAI)とシームレスにタスクを委任し合い、勝手に業務を進めることが可能になる。

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AIエージェント同士の連携とそれがもたらす経済圏

 エージェント同士が会話して複雑なワークフローを構築する様は、まさに人間を介さない「エージェント経済圏」の到来を意味している。

 こうしたAI連携の威力は、複雑な調整が要求されるサプライチェーン管理の分野で顕著に表れている。計画業務の自動化に関する公開資料によれば、需要の充足や例外管理、在庫要因の評価といった日常的なプロセスに、AI駆動のエージェントが直接組み込まれている。

 このシステムは、サプライチェーン上のアラートを「1クリックでの解決」へと変換し、構造的な能力不足や慢性的な資源の不足をプロアクティブに特定する。

 製造業や製薬業における効果も実証されつつある。部品不足エージェント(Component Shortage Agent)は、不足を早期に検知して根本原因を特定し、迅速な意思決定を支援する。

 また、長期的なリソース能力不足解決エージェントは、生産や配送の遅延を防ぐための緩和策を自動生成する。これらが自律的に連携することで、納期遅延などのサプライチェーン上のトラブルを瞬時に解決し、顧客満足度の向上と運転資金の効率化を両立させる。

 人間がボトルネックとなっていた部門間のコミュニケーションは消滅し、AIエージェントが瞬時に調整を完了させる圧倒的な自動化実績が、製造の現場に革命をもたらしているのだ。

SAP 2027年問題、日本企業「アドオン」が招くAI導入の壁

 海外の先進的なAI事例が華々しく語られる裏で、多くの日本企業は深刻な危機に直面している。世界中で広く利用されてきた旧世代の基幹システム「SAP ERP 6.0」のメインストリームサポートが2027年末で終了するためである。この期限を過ぎると、新たな法改正対応やセキュリティパッチが提供されなくなり、サイバー攻撃のリスクや業務継続の危機が高まる。

 日本企業特有の課題として挙げられるのが、自社の独自業務に合わせて過剰なカスタマイズを施した「岩盤アドオン」の存在である。

 長年の改修により内部構造がブラックボックス化しており、これがS/4HANAへの移行を阻む最大の障壁となっている。独自の機能要件に固執し、レガシーシステムと心中する企業は、最新のAI機能を享受できず、デジタルトランスフォーメーションの波から完全に取り残される「崖」へと転落する運命にある。

 一方で、この危機を「飛躍の好機」と捉える企業もある。たとえば日立ハイテクの事例では、複雑なアドオンを徹底的に抑制し、標準機能に合わせる「Fit to Standard」のアプローチを採用したという。

 同社はプラットフォームを活用したSide-by-Side開発を実践し、ERP本体を改修しない「クリーンコア」を実現している。この戦略により、同社は従来9000本あったアドオンを843本まで削減し、実に91%の削減率を達成した。検証シナリオ数やアップグレード工数も激減し、AIなどの新機能を迅速に取り込める体制を整えている。

 さらに、システム移行のハードルを下げる手段も打ち出されている。最新の発表によれば、AIエージェント主導のシステム移行ツールが提供され、システム分析からコード修正、設定、テストの工程を大規模に自動化する。このAIツールの活用により、ERP移行に必要な作業工数を35%以上も削減できる見込みだ。

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SAP 2027年問題とS/4HANAへの移行

 これまで人間が手作業で行っていた旧システムからの脱却作業すらAIが肩代わりする時代が到来している。「レガシー脱却は困難」という過去の常識は覆され、クリーンコアを実現した企業だけが自律化の恩恵を受けられるという冷酷な現実がデータとともに示されているのである。

人間の仕事を「再定義」する必然。次世代ERP戦略の本質とは

 2035年を見据えた企業のIT戦略において、CIO(最高情報責任者)は経営陣に対し、ERPの役割そのものを再定義するロードマップを提示しなければならない。

 その第一歩となるのが、開発アーキテクチャの根本的な見直しである。従来、標準機能に不足がある場合は内部で直接アドオン開発を行う「In-App開発」が主流であったが、これは将来のアップグレードを阻害する技術的負債となっていた。

 これに代わるのが、コア部分は標準機能のまま利用し、独自のビジネスロジックはクラウド上のプラットフォームで開発する「Side-by-Side開発」である。In-App開発がERP内部に手を入れることで保守コストを高止まりさせるのに対し、Side-by-Side開発はERP本体と疎結合になるため、定期的なアップグレードが容易になり、AIやIoTといった最新技術との連携も迅速に行える。

 初期の切り離しにコストはかかるものの、長期的なシステム維持コストとイノベーション投資の投資対効果(ROI)を比較すれば、後者が圧倒的に優位であることは明白だ。

 さらに、システム全体のパラダイムシフトも起きている。かつての「あらゆる機能を1つの巨大なシステムに詰め込む」オールインワン型のERPから、各領域で最適なSaaSを採用し、APIでリアルタイムに連携する「つながるERP」への転換である。

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2035年に向けてERPを再定義していく必要がある

 SAPユーザー向け独立系コミュニティ・メディア「SAPinsider」の分析によれば、もはや単一の企業がエンタープライズAIを独占する時代ではなく、さまざまなモデルやデータプラットフォームを統合する「オーケストレーション層」としての位置づけが鮮明になっている。AWSやGoogle Cloudなどとのパートナーシップを通じ、オープンなAIネットワークが構築されているのだ。

 この「つながるERP」の世界では、人間の仕事は大きく変容する。AIエージェントがAPIを通じて財務、サプライチェーン、人事などの業務をエンドツーエンドで自動実行するようになれば、人間の役割は手作業のオペレーターから、AIに目的を指示し、結果を評価する「指揮者(コンポーザー)」へとシフトする。

 データの質とAPI連携の設計がビジネスの競争力を決定づけるこれからの時代において、企業は「AIを組み込んだインフラ」を前提とした組織変革を急がねばならない。CIOは単なるシステム管理者から脱却し、AIを中心としたビジネス戦略の牽引役として、この冷徹な現実を経営陣に叩きつけるべきではないだろうか。

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